2013年9月3日

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の杉本宜昭准教授、大阪大学産業科学研究所の森田清三特任教授らのグループは、名古屋大学大学院工学研究科の阿部真之准教授、チェコ科学アカデミーのグループ、マドリッド自治大学のグループらとの共同研究により、近接する2つの物体間に働く力とその間を流れる電流との間に、単純な関係があることを発見し、そのメカニズムを解明しました。様々なナノ材料やナノデバイスを設計する際の指針となることが期待されます。

研究の背景と研究成果

2つの物体を近づけて接触させると、その間に斥力が働き、それ以上近づけることができません。全ての物質は、原子から構成されており、接触面で原子同士が反発するためです。実は、接触する直前では、図1に示すように、2つの物体間には引力が働き、引き合います。原子間に働く引力は大変微弱なため体感することはできませんが、この化学結合力により原子は互いにつながり、物質を構成しています。

一方、2つの物体に電圧をかけると、物体間の距離が大変近いときは、接触していなくても、その間に電流が流れることが知られています。これは、量子力学※1により説明される電流で、トンネル電流と呼ばれています。

化学結合力とトンネル電流は共に、2つの物体の原子間の電子雲※2の重なりにより生じ、この一見異なる2つの物理量についての同等性が、量子力学の基本問題として長く議論されてきました。

そこで、研究グループは、2つの物体を接近させて、近接する2つの原子間に働く化学結合力とトンネル電流を精密に測定しました。原子間力顕微鏡※3という微弱な力を測定できる装置を使って、半導体であるシリコンに対して実験を行いました。すると、トンネル電流は、化学結合力の二乗に比例するという、単純な関係性があることがわかりました(図2参照)。これは、量子力学で予測されていたにも関わらず、これまで検証されていなかった、世界で初めての実験結果です。この関係性は、エネルギーが等しい電子雲同士が重なり合った際に、量子力学から期待される関係であり、理論計算により、実験で用いた半導体では、確かにこの条件が成り立っていることを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

化学結合力は、原子と原子とを結びつけ、様々な物質を構成する原動力です。この力は、化学・材料科学の中心的な役割を担い、また我々の身近な現象にも現れています。今回、その化学結合力と電流という基本的な物理量との間に、単純な関係性があることが実証されました。この関係性は、様々な分子や材料を設計し合成するための指針となるので、新しい材料やデバイスなどの開発など、我々の生活に関わる成果に結びつくと期待できます。

特記事項

本研究成果は2013年9月5日(アメリカ東部時間)にAmerican Physical Societyの『Physical Review Letters』のオンライン版に掲載される予定です。
Quantum Degeneracy in Atomic Point Contacts Revealed by Chemical Force and Conductance
Yoshiaki Sugimoto, Martin Ondracek, Masayuki Abe, Pablo Pou, Seizo Morita, Ruben Perez, Fernando Flores, and Pavel Jelinek, Selected for Editors' Suggestion (注目論文)

本成果は、以下の研究支援事業によって得られました。

独立行政法人日本学術振興会 先端研究助成基金助成金(最先端・次世代研究開発支援プログラム)
研究代表者:杉本宜昭
課題名:「走査型磁気共鳴顕微鏡を用いた単原子の元素同定法の開発」

独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)
研究代表者:森田清三
課題名:「個々の原子の観察・識別・操作による室温での多元素ナノ構造体組み立てに関する研究」

独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)
研究代表者:阿部真之
課題名:「ナノ分析顕微鏡を用いた光電変換現象の原子分解能観察」

参考図

図1 近接する2つの物体
電子雲が重なることによって、化学結合力が働き、また電流が流れる。

図2 化学結合力とトンネル電流
トンネル電流(I)の傾きが、化学結合力(F)の2倍であり、両者の間にI∝F2の関係が成り立っていることを示している。

用語解説

※1 量子力学
電子などのミクロな粒子の振る舞いを記述する力学。ニュートンの力学で記述することができる、マクロな物体とは異なり、電子の運動の軌跡を厳密に追うことは原理的に不可能とされる。その代わりに、電子は空間的に広がりをもった電子雲として考える必要がある。

※2 電子雲
量子力学の用語で、電子が存在しうる領域のこと。1つの電子はその領域に広がって分布すると解釈される。

※3 原子間力顕微鏡
鋭い針がとりつけられたレバーを、観察したい表面上でスキャンすることによって、原子を観察する顕微鏡。針先に力が加わると、レバーがその力を感知して、微弱な力を測定することができる。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 原子分子操作組立領域
http://www.afm.eei.eng.osaka-u.ac.jp/

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