究みのStoryZ

地震の謎に、震源の物質から迫る。

試料分析と動力学解析の知見・技術を結集し、断層の滑りやすさを推定

理学研究科・准教授・廣野哲朗

海溝付近の断層すべり量を評価するメソッドを開発し、南海トラフ地震での断層の滑りやすさを推定する研究で、国際的な評価を受ける廣野哲朗准教授。これまでの取り組みや研究のきっかけについて聞いた。

地震の謎に、震源の物質から迫る。

「ちきゅう」が採集したサンプルをベースに

日本の地球深部探査船「ちきゅう」は、地球の環境変動や、地球内部構造などの解明をめざして進められている多国間プロジェクトIODP(統合国際深海掘削計画)のプロジェクトの主力船として、世界各地のプレート境界付近の水深数千メートルの海底を掘削してサンプルを収集するなど、持続的な活動を行っている。

廣野准教授の研究グループは同プロジェクトの一環として、「ちきゅう」が持ち帰ったサンプルを分析し、かつ物理解析を加えることで、断層のすべりやすさ(すべり量)を求める研究に取り組んでいる。世界で行われる地震研究の多くは、地震観測データを用いた経験則から迫るものが一般的だが、廣野准教授らは地震の発生源にある物質を物理化学的に解析することで、巨大地震が起こり得るリスクを定量的に提示した世界的にもユニークな研究を進めている。
日本海溝の、東日本大震災を引き起こしたプレート境界のサンプルを分析し、コンピュータで解析したところ、約80mに及ぶ巨大すべりを起こしたという結果が出た。「約80mという結果は、実際の震災で観測されたすべり量とほぼ同じでした。それで、この解析方法はまちがっていないと確信しました」。

次に同じ方法で南海トラフの断層サンプルを解析し、海溝付近のすべり量は約30から50mになる可能性があるという評価を行った。この数字は、過去の南海トラフ地震による津波の高さから推定されるすべり量ともほぼ一致しているという。

動力学解析が研究のキーポイント

南海トラフの試料を日本海溝のものと比較すると、「日本海溝は粘土質で、南海トラフは砂が多い。水の抜けやすさにも差があります」。
こうした条件の違いから、「南海トラフの砂質の断層では摩擦係数が高く、温度が上がりやすいため、サーマルプレッシャライゼーション(断層の中の水が温められ、圧力が上昇する)という現象が強く起き、大規模なすべりが起きやすくなると考えられます」。ただし実際には他の条件も加味して、日本海溝よりは滑らないと想定されているそうだ。
さらに、試料を用いた分析に物理学的解析(動力学解析)をプラスすることで、はじめてすべり量の導出が可能になる。「シミュレーション空間にプレートの沈み込みを見立て、領域ごとに断層がどう滑るかを計算しています」。

人類の知を地震の仕組み理解につなげたい

断層の解析に限らず、地震の仕組みを理解するためには、地学の知識だけでは絶対に足りないと廣野准教授は語る。「物理学、数理解析はもちろん、地中でどんな鉱物が生成するかを知るには化学が必要。生物も含め、地震学は総合自然科学です。さらに言えば、古文書から紐解く人文科学的なところもあるので、まさに地震の理解とは、人類の知を集結していくものだといえると思います」。

出身は静岡県浜松市。幼いころから東海地震の話を身近に聞いて育ったため、小学生の頃から地震学者をめざしていた。「今ここにいる、ということが夢の実現ということなのでしょうね。昔、釣り好きの父に連れられて行った川原に、今思えば断層の石も転がっていたのです」。
2018年10月からは廣野研究室のメンバーが「ちきゅう」に乗船し、ついに南海トラフ地震を引き起こすとされる震源付近の断層掘削プロジェクトに挑む。

廣野准教授にとって研究とは

興味をもったこと・謎を自分の手で解き明かしていく。そこで分かったことが人類の知につながっていく。それが研究の醍醐味だと思います。

●廣野哲朗(ひろの てつろう)
1996年筑波大学第一学群自然学類卒業。98年東京大学理学系研究科地質学専攻修了、01年東京工業大学理工学研究科地球惑星科学専攻修了、博士(理学)。06年理学研究科宇宙地球科学専攻助教授、07年より現職。17年大阪大学賞受賞。


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(2018年1月取材)