工学系

2020年11月13日

研究成果のポイント

・過酸化水素(H2O2)は、漂白剤や消毒剤として重要であるほか、燃料電池発電の燃料となるエネルギーキャリア※1として有望視されているため、地球上に豊富に存在する原料から再生可能エネルギーを用いて合成する方法が期待されていた。
・研究者らはこれまで、独自の「高温水熱法」により合成したレゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)樹脂が、太陽光エネルギーにより水と酸素(O2)からH2O2を生成する光触媒※2となることを明らかにしているが、光触媒活性の向上が課題であった。
・本研究開発において、「酸性水溶液(pH4以下)での高温水熱法」により合成したRF樹脂が、効率よくH2O2を生成することを見出した。H2O2をオンデマンドで生成する抗菌・殺菌デバイスの実現、ならびにH2O2をエネルギーキャリアとする新エネルギー社会実現に向けての社会実装が期待できる。

概要

大阪大学太陽エネルギー化学研究センターの白石康浩准教授、平井隆之教授らの研究グループは、太陽光照射下、水とO2を原料として非常に高いH2O2生成活性を示す、レゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)光触媒樹脂を合成しました。

H2O2は漂白剤や消毒剤として重要な化学物質であるほか、燃料電池発電の燃料として利用できるため、近年は、再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を担うエネルギーキャリアとして注目されています。従来、H2O2は、H2とO2を多段階で反応させるエネルギー多消費型プロセスにより合成されています。一方、光触媒反応では、太陽光エネルギーにより水とO2から合成する(H2O + 1/2O2 → H2O2, ΔG° = +117kJ mol–1))人工光合成※3型のH2O2製造が原理的には可能であり、注目を集めています。しかし、通常の光触媒では、水の四電子酸化(2H2O → O2 + 4H+ + 4e)と、O2の選択的な二電子還元(O2 + 2H+ + 2e→ H2O2)を進めることは難しく、新しい光触媒の開発が求められていました。

本研究グループは、これまで、汎用の合成高分子であるレゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)樹脂※4、に着目してきました。RF樹脂は、本来は絶縁体ですが、高温水熱法※5で合成することにより半導体光触媒として働くことを2019年に初めて見出しました※6(Y. Shiraishi et al., Resorcinol–formaldehyde resins as metal-free semiconductor photocatalysts for solar-to-hydrogen peroxide energy conversion, Nature Materials, 2019, 18, 985–993, DOI: 10.1038/s41563-019-0398-0)。この光触媒樹脂は、太陽エネルギー変換効率※70.5%以上という、これまでに報告された粉末光触媒による太陽エネルギー変換反応としては最大の効率でH2O2を生成します。

今回本研究グループでは、RF光触媒樹脂の活性向上を目指しました。RF樹脂は、一般に、レゾルシノールとホルムアルデヒドを中性~塩基性水溶液中で反応させて合成します。研究グループは、酸性水溶液(pH4以下)での高温水熱法により高活性なRF光触媒樹脂を合成できることを見出しました。芳香環が強くπスタッキングした低バンドギャップおよび高導電性の光触媒樹脂が生成し、太陽エネルギー変換効率0.7%以上の非常に高い効率でH2O2を生成します。硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、酢酸などの汎用の無機酸・有機酸を使用可能であるほか、調製した光触媒樹脂は3~5μm程度の球状粒子であり、取り扱いも容易なため、様々な加工により社会実装が期待できます。また、今回の光触媒設計を応用することで、さらに高活性なH2O2合成触媒が創製できると期待できます。

本研究成果は、ネイチャー姉妹紙「Communications Chemistry」のオンライン版にて日本時間11月13日(金)午後7時(英国時間2020年11月13日(金)午前10時)に公開されました。

研究の背景

太陽光エネルギーにより水とO2からH2O2を製造する(H2O + 1/2O2 → H2O2, ΔG° = +117kJ mol–1))人工光合成反応は、新たなエネルギー製造技術として注目を集めています。しかし、通常、光触媒として用いられる金属酸化物半導体光触媒では、水の四電子酸化(2H2O → O2 + 4H+ + 4e)と、O2の選択的な二電子還元(O2 + 2H+ + 2e→ H2O2)を同時に進めることは困難であるほか、生成したH2O2が分解してしまいます。そのため、新しい光触媒の開発が求められていました。

本研究グループは、汎用の合成高分子であるRF樹脂に着目した触媒開発を進めてきました。RF樹脂は、本来は絶縁体であり、これまで光触媒として用いられたことはありません。研究グループは、RF樹脂を高温水熱法で合成することにより半導体光触媒として働くことを初めて見出しました(Y. Shiraishi et al., Nature Materials, 2019, 18, 985–993, DOI: 10.1038/s41563-019-0398-0)。本樹脂は、太陽エネルギー変換効率0.5%以上という、非常に高い効率でH2O2を生成します。次の課題は、樹脂の光触媒活性を向上させることですが、このような新たな樹脂の構造と半導体機能の制御に関する知見はなく、その方法論が求められていました。

研究の内容

本研究グループでは、高温水熱合成を行う際の溶液のpHに着目しました。RF樹脂は、一般に、レゾルシノールとホルムアルデヒドを中性~塩基性水溶液中で反応させて合成します。本研究グループは、溶液のpHを変えて樹脂を合成することにより、酸性水溶液(pH4以下)で合成した樹脂が、1.5倍も高い活性を示すことを見出しました。

いずれのpHで合成した場合にも、レゾルシノールのベンゼノイド体(電子ドナー)とキノイド体(電子アクセプター)が連結したドナーアクセプター対が形成され、これらが上下方向にπスタッキングした三次元構造の樹脂ができます。(図1)のように、中性~塩基性では重縮合が速く進むため、架橋数の多い構造が形成されます。そのため、構造的な制約が大きくなりπスタッキングが弱くなります。一方、酸性条件では重縮合が遅いため、(図2)のように、架橋数の少ない構造が形成されます。そのため構造的な制約が少なく、強いπスタッキングが形成されます。中性~塩基性条件下で合成した樹脂のバンドギャップは2.0eV(620nm)ですが、酸性条件下で合成した場合には1.7eV(720nm)まで小さくなり、導電性も向上します。このような低バンドギャップ化と高導電性化により高い触媒活性が発現します。本樹脂は、(図3)に示すように、太陽エネルギー変換効率0.7%以上の効率で安定的にH2O2を生成します。この効率は、これまでに報告された粉末光触媒による太陽エネルギー変換反応としては最大の効率です。また、酸性水溶液は、硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、酢酸などの汎用の無機酸・有機酸により調製することが可能です。

図1 中性~塩基性条件下で合成したRF光触媒樹脂の(a)基本骨格構造と(b)三次元構造の模式図
架橋数が多いため構造的な制約がうまれ、弱いπスタッキングが形成される。

図2 酸性条件下で合成したRF光触媒樹脂の(a)基本骨格構造と(b)三次元構造の模式図
架橋数が少ないため構造的な制約が少なく、強いπスタッキングが形成される。

図3 疑似太陽光照射による照射時間と過酸化水素生成量および太陽エネルギー変換効率の関係
H2O2は光照射にともない継続的に生成し、長時間の反応でも0.7%以上の太陽エネルギー変換効率を安定的に示す。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

エネルギーキャリアは、非化石燃料依存型社会を実現するための鍵となる物質と考えられています。気体であるため貯蔵・輸送の困難なH2に代わり、液体エネルギーキャリアであるアンモニア、有機ハイドライド、ギ酸などが研究されています。H2O2も有力な候補ですが、水とO2から太陽光により合成することは困難でした。本光触媒樹脂は、汎用の原料(レゾルシノール・ホルムアルデヒド)を酸性溶液中で高温水熱処理するだけで合成できます。樹脂を水に懸濁させて空気存在下で太陽光を照射するだけの簡便な操作により液体燃料を製造できる特徴は、太陽エネルギー変換に対する考え方を革新する新材料となるはずです。開発した光触媒樹脂は、3~5μm程度の球状粒子であるほか取り扱いも容易なため、様々な加工により社会実装が期待できます。

特記事項

本研究成果は、日本時間11月13日(金)午後7時(英国時間2020年11月13日(金)午前10時)にネイチャー姉妹紙「Communications Chemistry」のオンライン版に掲載されました。

タイトル:Solar-to-hydrogen peroxide energy conversion on resorcinol–formaldehyde resin photocatalysts prepared by acid-catalysed polycondensation
(酸触媒重縮合反応により合成されたレゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂による太陽光-過酸化水素エネルギー変換)
著者名:Yasuhiro Shiraishi, Takumi Hagi, Masako Matsumoto, Shunsuke Tanaka, Satoshi Ichikawa, and Takayuki Hirai
DOI: 10.1038/s42004-020-00421-x

本研究は、JST戦略的創造推進事業個人型研究(さきがけ)「再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けた革新的エネルギーキャリア利用基盤技術の創出」、およびJSPS科学研究費助成事業(新学術領域研究(公募研究))「光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光-物質変換系の創製」(いずれも、研究代表者:白石康浩大阪大学太陽エネルギー化学研究センター准教授)の支援により実施されました。

用語説明

※1 エネルギーキャリア
エネルギーを貯蔵・輸送するための化学物質。特に、アンモニアや有機ハイドライド、ギ酸、H2O2など、海外などの再生可能エネルギーが豊富な地域で得たエネルギーを化学的に変換して消費地まで貯蔵・輸送するのに用いられる化学物質を指す。

※2 光触媒
光を吸収することにより生ずる正孔と励起電子により、それぞれ酸化・還元作用を示す物質。代表的な光触媒として二酸化チタン(TiO2)が知られている。

※3 人工光合成
植物の光合成(天然光合成)と同じく、自由エネルギー変化が正の値(ΔG°>0)をとるアップヒル反応。太陽光エネルギーを化学エネルギー(本研究の場合、H2O2)として蓄積できる。

※4 レゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)樹脂
レゾルシノールとホルムアルデヒドを、室温~100°C程度の温度で重縮合させて合成する合成高分子。1989年に初めて合成され、現在でも接着剤、塗料、鋳型として幅広く利用されている。

※5 高温水熱法
密閉容器内での熱水中により行われる化合物の反応。通常の水熱反応は~100°Cの温度で行われるが、本合成法では200°C以上の温度で行うことを特徴としている。

※6 2019年7月2日のプレスリリース
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2019/20190702_1

※7 太陽エネルギー変換効率
太陽光または疑似太陽光により照射した光エネルギーのうち、化学エネルギーに変換された割合。一般的な光合成植物による太陽光―バイオマス変換効率は約0.1%である。

参考URL

太陽エネルギー化学研究センター 平井研究室HP
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/hirailab/home.html

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