2017年12月1日

本研究成果のポイント

・ナノメートル精度をもつ2次元楕円面鏡の作製に成功
・1枚の楕円面鏡としては世界最小の100nm集光ビームを達成
・本研究で構築した2次元非球面鏡の精密作製技術は、高効率X線顕微鏡を支えるナノ集光ビームの形成に応用が可能

概要

公益財団法人高輝度光科学研究センター(土肥義治理事長、以下「高輝度光科学研究センター」)、国立大学法人大阪大学(西尾章治郎総長、以下「大阪大学」)及び国立研究開発法人理化学研究所(松本紘理事長、以下「理化学研究所」)は共同で、大型放射光施設SPring-8※1において、ナノメートルの表面精度を持つ2次元楕円面鏡を作製し、楕円面鏡としては世界で最小の100nm集光ビームを実現しました。

SPring-8やX線自由電子レーザー施設SACLA※2で利用されるX線顕微鏡では、光源で発生した X 線を無駄なく集めて微小な観察対象を明るく照明し、試料からの信号をできる限り効率的に検出する高感度分析や微量元素分析が期待されています。このためには、X線の集光ビームを形成するレンズであるX線集光光学素子の作製技術の高度化が必須となります。

今まではX線用の鏡(X線鏡)を2枚組み合わせることで2次元のナノ集光ビームを形成しており、1枚のX線鏡で2次元のナノ集光ビームを形成可能な高効率X線鏡を作製することができませんでした。

本研究グループは、1枚の鏡により2次元のX線集光ビームを形成可能な楕円面形状を持つ鏡の開発に成功しました。2次元ナノ集光ビームを形成可能な楕円面形状を持つX線鏡は、急峻な傾きを持つ表面形状に対して、高精度な表面が必要であり、2次元的な非球面表面形状をもつ楕円面鏡に対して、従来の技術では、必要なナノメートルの高精度表面を作製することが困難でした。そこで本研究グループは、X線鏡の作製技術である非球面加工※3や表面形状計測※4における課題を解決することで、1ナノメートルの表面精度をもつ楕円面鏡を作製しました。さらに、この楕円面鏡を利用したX線顕微鏡をSPring-8で構築し、楕円面鏡としては世界最小サイズである縦方向125ナノメートル、横方向85ナノメートルの2次元集光ビームの形成に成功しました。これにより、2次元的な非球面形状をもつX線鏡の作製技術の確からしさが実証されました。楕円面鏡による集光は、SPring-8やSACLAで利用される様々な先端X線顕微鏡を支える高効率ナノビーム形成や光学系の安定性の向上に役立つものと期待されます。

本研究成果は、高輝度光科学研究センター湯本博勝研究員、大橋治彦主席研究員、大阪大学大学院工学研究科山内和人教授らの研究グループ、理化学研究所放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)放射光イメージング利用システム開発ユニット香村芳樹ユニットリーダーらが共同で行った研究成果です。今回の研究成果は、電子ジャーナル「Scientific Reports」(2017年11月27日(月)日本時間)に発表されました。

(論文)
“Ellipsoidal mirror for two-dimensional 100-nm focusing in hard X-ray region”
Hirokatsu Yumoto, Takahisa Koyama, Satoshi Matsuyama, Yoshiki Kohmura, Kazuto Yamauchi, Tetsuya Ishikawa,and Haruhiko Ohashi
Scientific Reports, published online 2017年11月27日(月)日本時間

研究の背景と目的

SPring-8やSACLAにおいて利用されるX線分析技術は、物理学、化学、物質科学、医学・生命科学など基礎科学から産業利用まで非常に幅広い分野で、基盤的な役割を果たしています。測定対象の微小な領域を分析するX線顕微鏡においては、光源で発生したX線を損失することなく、微小な観察領域に対して出来る限り明るく照明することが重要です。これにより、試料からの信号を高感度かつ高効率に検出することが可能となります。X線の集光ビームを形成するX線集光光学素子は、X線顕微鏡の性能を直接左右する重要な構成要素であるため、集光性能の向上が常に要求されています。

X線集光光学素子には、レンズのような屈折型の光学素子がありますが、鏡による反射型の光学素子は、様々な波長の光を反射可能な(色収差がない)点や、反射率が高い(効率が高い)点などの優れた特徴から、SPring-8やSACLAにおいて数多く用いられてきました。従来は1次元集光を行う楕円筒面形状のX線鏡を2枚利用して、X線を2回反射させることで縦方向と横方向の集光を独立して行う配置(図1)により、2次元集光ビームを形成していました。1枚のX線鏡による1回反射により2次元集光ビームの形成が可能になれば、反射率分のX線の損失を防ぐことができ、集光光学系の安定性の向上が期待できるなど、X線顕微鏡にとって非常にメリットがあります。しかしながら、2次元ナノ集光ビームを形成可能な楕円面形状を持つX線鏡(図2)は、急峻な傾きを持つ表面形状に対して、高精度な表面が必要であるため、今まで作製できませんでした。X線は原子オーダーの非常に小さなサイズの波長をもつ光です。このため、X線を微小な領域に集光するときには、鏡の表面で反射した時に乱されないように、原子レベルで滑らかに整えられたナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリメートル)オーダーの非常に高精度な表面が必要となります。

本研究の目的は、2次元的な非球面形状の作製における課題を克服し、ナノメートル精度の楕円面鏡を作製することで、硬X線領域において2次元100ナノメートル集光ビームを実現することです。

研究内容と成果

本研究グループは、X線の2次元集光ビームを形成するため、2次元的に楕円面形状に湾曲した表面形状をもつX線鏡を設計しました。本X線鏡は、SPring-8で用いるため光源側が50メートル、集光点側が200ミリメートルの焦点距離とし、入射角は硬X線を反射できるように非常に浅い角度の0.5度としました。このときの、X線鏡の中央部での表面の曲率半径は、X線の進行方向に44メートルであるのに対して、X線に対して垂直方向には3.6ミリメートルと桁違いに非常に小さなものとなっています。従来の2枚の楕円筒面鏡による2次元集光では、X線に対して垂直方向の3.6ミリメートルの形状方向が平坦であったため、本研究で開発ターゲットとした楕円面鏡に比べて作製がはるかに容易でした。このような2次元的に湾曲した楕円面鏡をナノメートル精度で作製するために、2次元的に湾曲した表面に対応した非球面加工や表面形状計測法を本研究グループで開発しました。これらの超精密作製技術が楕円面鏡作製における鍵となり、1ナノメートル精度の楕円面鏡の作製に成功しました。図3は開発した楕円面鏡の写真です。

SPring-8の理研物理科学Iビームライン(BL29XUL)において、本研究で作製した楕円面鏡による集光ビームを利用したX線顕微鏡を構築しました。集光ビームの強度分布を評価した結果、図4のように楕円面鏡としては世界最小サイズである縦方向125ナノメートル、横方向85ナノメートルの2次元集光ビームの形成に成功しました。これは、今まで2枚の鏡が必要であった集光サイズを1枚の鏡で実現できたことを意味します。また、2次元的な非球面形状をもつX線鏡の作製技術の確からしさが実証されました。

今後の展開

本研究で向上した2次元非球面用の精密作製技術は、SPring-8やSACLAのX線施設で利用されるX線鏡のみならず、超高精度2次元非球面鏡が必要となる産業分野などに貢献できるものと考えています。さらに、楕円面鏡による集光ビームは、従来の2枚の鏡を用いた集光ビームと比べて、X線顕微鏡に応用した際に高効率化や高安定化が可能であり、SPring-8やSACLAに利用される様々な先端X線顕微鏡を支えるナノビーム形成に役立つものと期待されます。

ここで紹介した研究は、日本学術振興会による科学研究費補助金(No.25286095)の助成を受け、SPring-8の理研ビームラインの利用課題(No.20150026)として行われました。

論文情報

題名:Ellipsoidal mirror for two-dimensional 100-nm focusing in hard X-ray region
日本語訳:硬 X 線領域における 2 次元 100nm 集光楕円面ミラー
著者:湯本博勝、小山貴久、松山智至、香村芳樹、山内和人、石川哲也、大橋治彦
ジャーナル名:Scientific Reports
オンライン掲載日:2017年11月27日

参考資料

図1 2枚の鏡を組み合わせた2次元集光ビーム形成
それぞれの鏡表面は、X線を反射して集めることができるように、1次元的な楕円(楕円筒面)の形状をしている。2回反射することで、X線を2次元的に集光する。提案者の名前をとってK-B(Kirkpatrick‒Baez)ミラー配置と呼ばれることが多い。

図2 1枚の楕円面鏡による2次元集光ビーム形成
2次元的に楕円面形状に湾曲した表面によりX線を1回反射することで、X線を2元的に集光することが可能である。X線を反射するために、鏡に対して非常に浅い角度で入射する。

図3 開発した超高精度楕円面形状を持つX線集光鏡の写真
鏡の材料は石英ガラスで、表面に白金がコーティングされている。白金コーティングにより硬X線領域において高い反射率を得ることができる。鏡の表面は1ナノメートル精度で完成された。鏡のサイズは100ミリメートル×50ミリメートル×30ミリメートルである。

図4 楕円面鏡により形成されたX線集光ビームの強度分布
楕円面鏡としては世界最小サイズである縦方向125ナノメートル、横方向85ナノメートルの2次元集光ビームを達成した。

用語解説

※1 大型放射光施設 SPring-8
SPring-8はSuper Photon ring-8 GeVに由来する施設の愛称。兵庫県の播磨科学公園都市にあり、理化学研究所が所有する。世界最高性能の放射光を発生することができ、1997年より大学、研究機関や企業などによる利用が開始された。放射光とは、光とほぼ等しい速度まで加速した電子が強力な磁石により曲げられたときに発生する電磁波のことである。SPring-8では、赤外線から軟X線、硬X線に至る幅広いエネルギー領域において非常に強力な放射光を利用することができる。

※2 X線自由電子レーザー施設SACLA(さくら)
SACLAはSPring-8 Angstrom Compact free-electron LAserに由来する施設の愛称。兵庫県の播磨科学公園都市にあり、理化学研究所が所有する。SACLAとSPring-8は同じ敷地内にある。SACLAではX線のエネルギー領域のレーザー(X線自由電子レーザー)を利用することができ、2012年から供用利用が開始された。SACLAのX線レーザーの特徴として、非常に高いピーク輝度(SPring-8よりも10億倍の明るさ)であること、超短パルス光である(カメラのフラッシュのように光の時間幅が短い(100兆分の1秒))ことがあげられる。

※3 非球面加工
本研究で楕円面X線鏡の作製に適用した超精密非球面加工法は、大阪大学で開発されたEEM(Elastic Emission Machining)加工法をベースとしている。加工される表面に対して、加工用の微粒子を供給することで、加工物の表面が原子オーダーの精度で除去され、加工が進行する。加工用の微粒子を、加工物の表面に供給される領域や供給量を制御することで、目的とする形状に原子オーダーの精度で加工が可能である。本研究では、0.05ミリメートルの微小なノズルの口から加工用の微粒子が混ぜられた加工液を吐出することで、0.1ミリメートルサイズの局所的な領域を加工する技術を鏡作製に利用した。

※4 表面形状計測
2次元的に急峻に傾斜した形状をもつ楕円面鏡を、目的とするナノメートル精度で加工するためには、あらかじめ除去する加工量、すなわち、鏡の表面がどれくらい目標形状からずれているか(凹凸があるか)を知る必要がある。このため、鏡の作製には表面形状計測が必須となる。本研究では、顕微鏡タイプの干渉計(光の可干渉作用を利用して位相情報を抽出する装置)を利用して楕円面ミラーの0.5ミリメートル×0.7ミリメートルの部分的な領域の形状データを取得した。さらに、本研究で開発した楕円面形状に対応可能な専用のスティッチング(つなぎ合わせ)方式によって、部分的な領域の形状データをつなぎ合わせることで、楕円面鏡の全体形状を導出した。これにより、測定再現性が1ナノメートルの高精度形状計測が、楕円面鏡に対して可能となった。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 超精密加工領域 山内研究室
http://www-up.prec.eng.osaka-u.ac.jp/

キーワード

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top