工学系

2017年4月13日

本研究成果のポイント

・全反射ミラーを使ってX線結像光学系を構築し、色収差なく50 nmの空間分解能を達成
・複雑なミラー形状を約1 nmの精度で作製する技術を確立
・X線領域におけるさまざまな顕微分光への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の松山智至 助教、山内和人教授、理化学研究所放射光科学総合研究センターの石川哲也センター長、矢橋牧名グループディレクター、株式会社ジェイテックコーポレーションの岡田浩巳研究員らの研究グループは、X線全反射ミラー※1 に基づいた色収差※2 のないX線顕微鏡の開発に成功し、世界初となる色収差のない50 nmの空間分解能※3 を持つX線像を大型放射光施設SPring-8※4 で取得しました(図1)

これまで屈折レンズや回折レンズを用いたX線顕微鏡が開発されてきましたが、強い色収差(波長によって焦点距離が異なる収差)があり、多色のX線を扱う実験や波長を変える実験ができませんでした。そのため、X線領域での高度な顕微分光※5 は困難とされていました。

今回、本研究グループは、特殊な形状を持つX線全反射ミラーにおいて作製誤差を約1 nmに抑える技術を確立しました。これを用いてX線を4回反射させる結像光学系※6 を構築し、色収差なく50 nmの空間分解能でX線の結像を成功させました。本光学系は、今後、顕微鏡とX線分光分析を融合した手法へのステップアップだけでなく、さらにX線領域での高度な顕微分光の発展につながると期待されます。

本研究成果は、英国 Nature Publishing Group のScientific Reports誌に、2017年4月13日(木)午後6時(日本時間)に公開されました。

図1 全反射ミラーを使ったX線顕微鏡

研究の背景

X線顕微鏡は、波長の短い電磁波(X線波長≒1Å、1Åは0.1 nm)を用いているため、理論的には高分解能な観察が可能で、その高い透過能を生かして物質内部を見ることができます。優れた分析ツールとなりうるX線顕微鏡ですが、これまでに開発されてきたものは屈折レンズや回折レンズを使うため、波長によって光の曲がり方が異なるという重大な欠点がありました。この結果、波長によって焦点距離に差が生じるため、結像の色にじみである「色収差」が発生してしまいます。屈折レンズや回折レンズを使う顕微鏡は、さまざまな波長を利用する顕微分光に不向きで、X線領域における高度な顕微分光はほとんど行われていないのが現状でした。

本研究の成果

こうした課題をクリアするために、同研究グループが開発したのが全反射ミラーを用いるX線結像光学系です。全反射現象は波長によらず同じ角度で反射でき、これは色収差のない反射型レンズが実現できることを意味します。このようなアイディアそのものは知られていましたが、半面、要求される作製精度が非常に厳しく、作製例はありませんでした。同研究グループは、約1 nmの作製誤差で目的とする全反射ミラーを作製する技術を確立。全反射ミラーで4回反射させる結像光学系の開発に成功しました。これを使って結像型X線顕微鏡を構築し、大型放射光施設SPring-8のBL29XULビームラインで、世界で初めて色収差なく50 nmの空間分解能を持つX線像(波長≒1.24Å)の取得に成功しました。

さらに、実用性を確認するために実施したのが、顕微分光の一種であるXAFSイメージング※7 です(図2) 。XAFSイメージングでは、照射するX線の波長を変化させながら、吸収コントラスト像を撮影します。色収差があるとX線の波長によって焦点が異なるため、高い分解能は期待できません。色収差のない本顕微鏡を使うことで、高い分解能を維持したまま、XAFSイメージングが実施できました。また、得られたXAFSスペクトルを解析し、元素識別と価数識別※8 ができました。このような観察手法は特に触媒や電池開発に威力を発揮します。

図2 XAFSイメージングによる元素識別。亜鉛(Zn)粒子とタングステン(W)粒子を観察した。
スケールバー:2μm。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、X線領域の顕微分光で課題とされてきた、色収差を解決するものです。X線顕微分光は、X線の持つ高い分析能力と顕微鏡の持つ高い空間分解能を併せ持つため、さまざまな領域で強力な分析ツールとなります。また、SPring-8-IIやSLiT-Jといった次世代放射光施設※9 への応用や、本顕微鏡を生かした新しい顕微分光アプリケーションの登場も期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年4月13日(木)午後6時(日本時間)に英国 Nature Publishing Group のScientific Reports誌に掲載されました。
タイトル:“50-nm-resolution full-field X-ray microscope without chromatic aberration using total-reflection imaging mirrors”
著者名:Satoshi Matsuyama, Shuhei Yasuda, Jumpei Yamada, Hiromi Okada, Yoshiki Kohmura, Makina Yabashi, Tetsuya Ishikawa and Kazuto Yamauchi

なお、本研究は、JST先端計測分析技術・機器開発プログラム「開発課題:4枚の非球面ミラーを用いた結像型硬X線顕微鏡の開発」(チームリーダー:大阪大学 大学院工学研究科 松山智至助教、開発期間:平成22年10月~平成26年3月」の一環として行われ、その後、科研費基盤研究(B)「色収差のない結像型X線顕微鏡の開発と顕微分光への応用」(研究代表者:松山智至)として引き続き研究されたものです。

用語解説

※1 全反射ミラー
全反射現象を利用した反射鏡。X線領域では屈折率が1以下であるため、真空-基板界面では真空からの入射で全反射現象が起こる。全反射現象は、波長によらず一定の反射角を持つため、色収差のない光学素子を実現できる。

※2 色収差
波長によって結像する位置が変わることで生じる収差。屈折レンズでは屈折率が波長によって変化するために発生する。カメラや顕微鏡で生じた場合、色がにじんで見える。

※3 空間分解能
近接する2つの点が2つのものとして認識できる最小距離のこと。顕微鏡ではどこまで微細なものが見られるかの指標である。一般的には、波長に比例し、開口数に反比例する。また、レンズやミラーの作製誤差が大きいと、それに応じて空間分解能は悪くなる。

※4 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す施設。SPring-8の名前はSuperPhoton ring-8 GeVの略。放射光とは、荷電粒子(例えば電子)が磁場の中で曲がる際に放射される光の一種で、その強度が非常に強いことが特徴の一つである(例えばX線領域では、普通のX線発生装置の10億倍)。

※5 顕微分光
顕微鏡を使って分光学的に定量的な計測を行う手法。可視光領域では、蛍光顕微鏡やラマン顕微鏡がよく知られている。

※6 結像光学系
レンズやミラーを使って試料像をカメラやスクリーン上に結像ができる光学系。カメラや望遠鏡、顕微鏡では、複数のレンズやミラーを使った、より収差が少なく分解能がよい結像光学系が用いられる。

※7 XAFSイメージング
X線領域の分光法であるXAFS(X-ray absorption fine structure)分光法と顕微鏡を組み合わせたイメージング手法。元素やその価数などを識別しながら微小領域を観察できる。

※8 元素識別と価数識別
顕微鏡をのぞくだけでは、見ている物体がどの元素で出来ているか知ることはできない。元素が何であるか(元素識別)が判明すると、材料研究等の分野ではさまざまな知見を得るきっかけとなることが多い。価数とはその原子が持つ電子の過不足を表す数値であり、化学状態を反映する。これを知ること(価数識別)で、その原子が何と結合しているか、その物質の特徴の一端を知ることができる。

※9 次世代放射光施設
電子ビームの空間的な広がりを抑えることで、現在の放射光施設よりも、さらに高輝度な光を発生させることができる放射光施設。日本国内では、東北地方に計画されているSLiT-JやSPring-8のアップグレード計画であるSPring-8-IIなどが挙げられる。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 精密科学・応用物理学専攻
http://www-up.prec.eng.osaka-u.ac.jp/matsuyama/

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