工学系

2019年3月11日

研究成果のポイント

・樹脂性接着剤を用いない圧電素子とミラー基板との接合技術を開発。
・真空チャンバー内部での使用、かつチャンバー内の加熱クリーニング(200℃での焼成)にも耐えられる形状可変ミラーの開発に成功。
・世界各国で建設中または計画中の第4世代放射光施設※1等での利用が期待。

概要

株式会社ジェイテックコーポレーション(以下JテックC)※2の一井愛雄博士、岡田浩巳博士らと大阪大学大学院工学研究科の山内和人教授、松山智至助教らの共同研究グループは、真空環境下で動作可能な高精度形状可変ミラーの開発に世界で初めて成功しました。

これまでの高精度形状可変ミラーは、圧電素子とミラー基板とを樹脂成分からなる接着剤で接合していたために、真空チャンバー内での有機ガスの発生や、チャンバークリーニング時の加熱工程による接着部の劣化が課題としてあり、この結果、高精度形状可変ミラーの利用は大気圧下に限定されていました。このため、真空が必要なX線実験や、真空中でしか利用できない軟X線には適用できませんでした。

今回、JテックCと大阪大学の共同研究グループは、樹脂性接着剤を用いずに圧電素子とミラー基板とを接合する方法を新たに考案し、接着剤フリー形状可変ミラーを開発しました(図1)。これにより、形状可変ミラーが真空中でも利用可能となり、応用の幅が広がりました。さらに、世界各国で建設が計画されている第4世代放射光施設では、真空中でのX線の精密制御を求める声が多くあり、今回開発された形状可変ミラーは、そのニーズとよく合致します。今後、世界各国のX線施設において、硬X線、軟X線を含む様々なX線分析技術の発展に貢献することが期待されます。

なお、JテックCは阪大発のベンチャーであり、現在も大阪大学と強固な共同研究を実施しながら、様々な高精度X線ミラーの開発を行っています。

本研究成果は、米国科学誌「Review of Scientific Instruments」に、2月12日(火)(日本時間)に公開されました。

図1 開発した接着剤フリー形状可変ミラー

研究の背景

世界各国で建設が計画されている、第4世代放射光施設では、ビームの輝度がこれまでの100~1000倍となることが予想されており、より高精度かつ短時間でのX線分析が期待されています。このようなX線を最大限有効に活用するために、X線の波の形を揃える「波面制御」技術や、集光サイズを自在にかえる「集光径制御」技術が必要とされています。大阪大学の山内教授らのグループではこれまで、世界最大規模の放射光施設であるSPring-8※3において、形状可変ミラーを用いた波面制御を行うことで、世界最小の集光径である7nmのX線ビームを実現しました※4。さらに、回折限界※5下において集光径を自在に変化させることが可能な集光径制御技術の開発にも成功しています※6

しかしながら、従来の高精度形状可変ミラーは、平滑なシリコンミラーに樹脂成分からなる接着剤で圧電素子を接着していたことで、真空チャンバー内に接着剤からの有機ガスを放出したり(真空悪化の原因となり分析を困難にする)、チャンバークリーニング時の加熱工程※7で接着部が劣化したりと、実際に利用する上で課題がありました。この結果、高真空下ではせっかくの形状可変ミラーも利用することができず、利用用途が大気下もしくは低真空下に限定されていました。

JテックCと大阪大学の共同研究グループは、有機物が含まれていない無機材料を用いることで圧電素子とミラーとを接合する技術の開発に成功しました。ミラーの性能を評価した結果、従来と同等の駆動性能を示しつつ、有機ガスの放出レートも真空チャンバーを汚染しないレベルに抑えられ、クリーニングに必要な加熱温度である200℃の処理工程前後でも形状変化量がほぼ同一であることを確認しました。これらの結果から、真空下での形状可変ミラーの利用において、実用上全く問題ないことを実証しました(図2)

図2 200℃加熱後の変形試験の結果
ミラーの変形を干渉計で測定した。加熱前後で変形特性が変化していないことが確認された。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、各国で建設中また、計画中の第4世代放射光施設において、開発した形状可変ミラーを用いた、より高度なX線利用が期待されます。例えば、波面制御技術を応用し高強度なX線ビームをさらに10nm以下に集光することができれば、極微小試料の高感度分析に威力を発揮します。集光径制御のために活用すれば、解析対象や解析手法に応じて様々な大きさのX線ビームをユーザーに供給することができます。1つの試料を最適化されたX線分析手法を用いて、様々な視点から迅速に解析することが可能となり、新しい発見が期待されます。

その他、形状可変ミラーの用途は多岐に渡ります。放射光X線だけでなく、宇宙望遠鏡や、高輝度レーザーなどの制御用途に用いられることも提案されており、今後様々な形状可変ミラーの登場が予想されます。本研究で開発された技術はそれらにも応用可能であり、高精度形状可変ミラーのますますの活用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2019年2月12日(火)(日本時間)に米国科学誌「Review of Scientific Instruments」Vol.90,p.021702(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Development of a glue-free bimorph mirror for use in vacuum chambers”
著者名:Yoshio Ichii, Hiromi Okada, Hiroki Nakamori, Akihiko Ueda, Hiroyuki Yamaguchi Satoshi Matsuyama,and Kazuto Yamauchi

なお、本研究は、科学研究費補助金JP16H06358、および、兵庫県先端技術研究事業(COEプログラム)の協力を得て行われました。

用語説明

※1 第4世代放射光施設
SPring-8に代表される第3世代放射光施設より100~1000倍程度、高輝度な放射光を発生させられる放射光施設(例:スウェーデンMAX IV、ブラジルSIRIUS等、またアップグレードの実施及び計画中の施設としては日本のSPring-8-IIのほか、欧州ESRF-II、米国APS-U,ALS-U等がある)。

※2 ジェイテックコーポレーション
OUVC1号ファンドからの出資を受け、2018年2月に東証マザーズに上場した阪大発ベンチャー企業。

※3 SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す施設。SPring-8という名前はSuper Photonring-8 GeV の略。放射光とは、荷電粒子(例えば電子)が磁場の中で曲がる際に放射される光の一種で、その強度が非常に強いことが特徴の一つである(例えばX線領域では、普通のX線発生装置の10億倍)。

※4 過去のプレスリリース参照(SPring-8/SACLAウェブサイト)2009年11月
「世界で最も小さなX線ビームを実現−10ナノメートルの壁を世界で初めて突破−」
形状可変ミラーによってX線波面誤差を正確に補正し、世界最小の7ナノメートルのX線ビームを実現。
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2009/091123/

※5 回折限界
光学系に収差がないときの最小集光サイズ。光は波であるため、有限なレンズで集光させると、レンズによって回折も起こるため、光を集光する限界が存在する。

※6 過去のプレスリリース参照(大阪大学ウェブサイト)2016年4月
「世界初!ビームサイズを自由自在に制御できるX線ナノビームの形成に成功-多機能型X線顕微鏡の実現に1歩近づく」
4枚の形状可変ミラーを使って、X線ナノビームの集光スポットサイズを自由自在(100~1000nm程度)に変化させることに世界で初めて成功。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160421_1

※7 チャンバークリーニング時の加熱工程
真空装置の内壁には様々な不純物(水,油,ガス等)が吸着している。装置チャンバーを真空にすると、これらが放出され真空を悪くする。良い真空を得るためには、真空中でチャンバー壁を加熱し、積極的に放出させる処理(ベーキング)を行う。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 超精密加工領域 山内研究室
http://www-up.prec.eng.osaka-u.ac.jp

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