植物由来の化学品を製造する触媒技術の開発に成功
石油に頼らない次世代の化学品製造プロセス開発に期待
研究成果のポイント
・従来の石油化学プロセスを代替し、再生可能資源である植物原料由来の化合物から有用化学品への新規合成法を開発
・安全・安価な水溶媒中で、植物原料由来の化合物と水素と反応させると、高収率で有用化学品へ変換できるルテニウムナノ粒子触媒を開発
・二酸化炭素排出低減に貢献する石油に頼らない化学品製造プロセスの開発に期待
概要
大阪大学太陽エネルギー化学研究センターの金田清臣特任教授と大学院基礎工学研究科の水垣共雄准教授らの研究グループは、大気中の二酸化炭素濃度増加の要因と懸念される石油由来原料から製造されていた有用化学品を、植物由来の原料から作りだす新規合成ルートの開発に成功しました (図1) 。
従来、植物由来原料に含まれる強固な炭素-炭素結合を切断して有用化合物を得るためには、一般に100気圧近い高圧水素や200℃近い高温などの厳しい反応条件が必要となります。そのため、植物由来のカルボン酸やエステル、アルコールなどでは様々な副反応により高選択的に望みの化合物を得ることは困難です。
今回、金田清臣特任教授らの研究グループは、塩基性の無機結晶である酸化セリウム 上に3ナノメートルのルテニウムナノ粒子 を固定化した固体触媒 を設計・開発しました (図2) 。この触媒を用いて安全かつ安価な水を反応溶媒とすることにより、植物由来化合物 の炭素-炭素結合を位置選択的に切断することで、現在、石油化学プロセスから製造されている有用化学品を作り出すことに成功しました (図3) 。水中で塩基性を示す酸化セリウム表面とルテニウムナノ粒子を組み合わせることで、高選択的な炭素-炭素結合の切断が可能となりました。さらに、開発した触媒は、ろ過により反応液から簡単に分離ができ、回収した触媒を再び用いても活性低下は観られず再使用することができます。
本触媒系は、従来の石油化学プロセスを代替し、二酸化炭素排出削減に貢献する持続可能な化学品製造プロセスの開発に貢献します。
本研究成果は、英国科学誌Natureの姉妹誌である「Scientific Reports」に、10月25日(水)に公開されました。
図1 石油化学プロセスから再生可能化学プロセスへの転換イメージ
図2 酸化セリウム固定化ルテニウムナノ粒子触媒の透過型電子顕微鏡写真
図3 酸化セリウム固定化ルテニウムナノ粒子触媒によるバイオマス由来含酸素化合物の選択的炭素-炭素結合切断
研究の背景・内容
これまでの化学品製造プロセスは、その原料を化石資源である石油に依存しており、大気中の二酸化炭素濃度上昇の懸念があります。化石資源に依存したプロセスから持続可能なプロセスへの転換には、植物由来原料を最大限に活用する効率の良い触媒の開発が必要です。植物由来の化学品原料の多くは石油由来の炭化水素と異なり、カルボン酸やエステル、アルコールなどの酸素を多く含む化合物です。これらの化合物からさらに有用化合物へ変換する方法として、分子中の炭素-炭素結合を選択的に切断する方法が求められています。有機分子の骨格をつくる強固な炭素―炭素結合の切断は困難であり、一般に100気圧近い高圧水素や200℃近い高温などの厳しい反応条件が必要です。カルボン酸やエステル、アルコールでは、このような厳しい反応条件では様々な副反応が進行するため、選択的な炭素―炭素結合の切断は非常に難しく挑戦的な課題です。
本研究グループでは、酸化セリウム上に約3ナノメートルのルテニウムナノ粒子を固定化した固体触媒(Ru/CeO 2 )を開発し、安全かつ安価な水を反応溶媒とすることにより、植物由来原料から得られる種々のカルボン酸やエステル、アルコール類の炭素-炭素結合を高選択的に切断することに成功しました。この結果、新規な有用化学品合成ルートを開発し、従来、石油由来原料から合成されていた多くの有用なアルコール類を植物由来原料から高収率で得ることができました (図4) 。開発した触媒は、植物由来の化合物のみならず、幅広い化合物においても炭素-炭素結合の選択的な切断ができることを示しました。さらに、本触媒は固体触媒であるため、ろ過により反応液から簡単に分離ができ、回収した触媒を再び用いても活性の低下は観られませんでした。
図4 Ru/CeO 2 触媒による新規な有用化学品合成ルート
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、植物由来化合物の炭素―炭素結合を位置選択的に切断する手法を明らかにしました。これにより、従来の石油化学プロセスを再生可能資源である植物由来の化学品原料で代替し、二酸化炭素排出削減に貢献する持続可能な次世代の化学品製造プロセスの開発が期待されます。本触媒反応は化学品製造以外にも、夢の新材料として注目されているセルロースナノファイバーなど植物由来材料の高機能化へ応用できます。
特記事項
本研究成果は、2017年10月25日(水)に英科学誌Natureの姉妹誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“New Routes for Refinery of Biogenic Platform Chemicals Catalyzed by Cerium Oxide-supportedRuthenium Nanoparticles in Water”
著者名:Tomoo Mizugaki, Keito Togo, Zen Maeno, Takato Mitsudome, Koichiro Jitsukawa and Kiyotomi Kaneda
研究者のコメント
当研究グループでは、触媒開発を通して資源・環境・エネルギー問題の解決(グリーンケミストリー)に貢献したいと考えています。本研究では、ルテニウムナノ粒子を酸化セリウムに固定化した固体触媒を用い、環境に害のない水を溶媒として従来よりも温和な条件下で、植物由来化合物の選択的な炭素―炭素結合切断による有用化合物の新規合成法を見出しました。本触媒系は、植物由来化合物のみならず幅広い適用性を示すことから、環境に調和した持続可能な化学プロセスの構築に多大に貢献するものです。
参考URL
大阪大学 太陽エネルギー化学研究センター
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/kanedalabo/GSCLabo/index-j.html
用語説明
- ルテニウムナノ粒子触媒
酸化セリウム上に、直径3ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1(10 -9 )メートル)程度の非常に小さなルテニウムナノ粒子を調製することに成功しました。このルテニウムナノ粒子が炭素-炭素結合切断を可能にしました。
- 酸化セリウム
化学式がCeO 2 で得られる希土類元素の酸化物。希土類元素の中では産出量が多く安価で、ガラスの研磨剤や自動車触媒などに用いられています。最近では塩基性を示す固体触媒としても注目されています。
- 固体触媒
化学反応を進行させる触媒は、溶液に溶け込む均一系触媒と溶け込まない不均一系触媒(=固体触媒)に大別できます。固体触媒は、粉末であるため反応溶液からろ過により簡単に取り除くことができる他、再使用が容易にできるなどの多くの実用的な利点があります。
- 植物由来化合物
植物由来の資源を原料とする化合物で、セルロースやリグニンおよび、これらの化合物から得られる糖やカルボン酸、アルコール類などが含まれます。今回の研究では、米国エネルギー省が2004年に策定した植物由来の重要な化学品原料Top15に挙げられている化合物の変換にも成功しています。