2016年11月24日

本研究成果のポイント

・次世代エネルギーである水素を、シリコーン工業等で発生する廃棄物(ヒドロシラン※1)と水から、金ナノ粒子触媒※2によって室温・大気中で発生させ、更に発生のオン・オフ制御も可能な世界初の技術を開発した
・水素は常温・常圧で気体であり、尚且つ爆発の危険があるため、エネルギー活用時の貯蔵と運搬に課題があり、近年は金属に水素を吸着させるなどの水素貯蔵物質※3の開発が進められている。本技術はその中でも効率的に水素を生成可能
・今後、水素エネルギー社会の実現に向け、ポータブル水素発生装置への応用に期待

リリース概要

大阪大学太陽エネルギー化学研究センター金田清臣特任教授と大学院基礎工学研究科満留敬人准教授らの研究グループは、工業廃棄物であるヒドロシラン類と水から次世代エネルギーである水素を効率的に発生させる金ナノ粒子触媒を開発することに成功しました。

水素は、燃やしても二酸化炭素が発生しないため最も有望な次世代エネルギーの一つです。水素を安全に運搬する手法として金属に吸着させるなどの水素貯蔵物質が研究されていますが、これまで工業廃棄物のヒドロシラン類は水素貯蔵物質として注目されていませんでした。

今回、本研究グループは、ヒドロシラン類が安価かつ安全な水素貯蔵物質としての可能性をもつことに着目し、ナノ単位で構造を制御した高機能な金ナノ粒子触媒(図1)を開発することで工業廃棄物のヒドロシラン類であるTMDS※1やPMHS※1と水から高効率に水素を取り出すことに成功しました。さらに、反応液からの分離が簡単であるという固体触媒※4の利点を生かし、触媒を反応液に出し入れすることで水素発生のオン・オフの制御ができることを世界で初めて提案しました(図2)。この触媒系は熱などの外部エネルギーを一切必要とせず、室温・大気中で簡便に多量の水素を生成できます。またこの水素生成系は、ヒドロシラン、水、触媒から構成されているため、従来の加圧により水素を貯蔵するボンベなどと比べて非常に小型かつ軽量で簡単に持ち運びができるという利点があります。

これらのことから、今後、必要な場所で必要なときに、必要な分だけ簡単に水素エネルギーを取り出すことのできる次世代型水素キャリアシステム(ポータブル水素発生装置)としての応用・実用化が期待されます。

本研究成果は、英科学誌Natureの姉妹誌「Scientific Reports」に、11月24日(木)19時(日本時間)に公開されました。

図1 開発した金ナノ粒子触媒(Au/HAP-NC)のa)写真、b)透過型電子顕微鏡像(赤丸の中の黒い点が金ナノ粒子)、c)走査型電子顕微鏡による金ナノ粒子の環状暗視野像

図2 触媒の導入/除去による水素生成のオン/オフ制御

研究の背景と成果

水素は燃料電池の燃料として活用でき、空気中の酸素と反応し電力を作り出せる上に、燃焼後には水しか出ないことから、理想的なクリーンエネルギーとして期待されています。また、燃焼装置によって熱エネルギーを作ることも可能です。いずれも地球温暖化につながる二酸化炭素が排出されないため、次世代のクリーンエネルギーとして実用化が始まっています。実際に、2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、地球環境への負荷が少ない低炭素社会の実現に向けて、観客輸送や競技施設などの電力供給に水素エネルギーを積極的に活用し、水素をエネルギーの中心に据える「水素社会」の実証実験を行う予定です。

しかし、水素は反応性が高く、爆発の危険性があるため、水素の貯蔵と運搬には大きな課題があります。水素は、常温では気体であるためその保管には大容量のタンクとスペースが必要になり、簡単に運搬はできません。また、水素を液化するには-253℃まで冷却しなければならないため大量のエネルギーが必要になります。高圧でボンベに圧縮した場合では、圧縮にエネルギーが必要になり、危険度も高くなります。これらの課題を解決するため、金属に水素を吸蔵・吸着させる、または、他の物質に変換して水素を貯蔵・放出する材料(水素貯蔵物質)の開発が進められています。

これまで金属ヒドリド※5やギ酸などの有機化合物が水素貯蔵物質として注目されてきました。しかしながら、金属ヒドリドは、不安定で大気中の水分によって分解してしまうため保存が難しく、水と激しく反応し水素を発生するため水素生成速度の制御ができません。また、ギ酸から水素を取り出す際には、加温が必要であることや、副生する二酸化炭素や一酸化炭素を水素と分離するプロセスが必要になるなど様々な問題点がありました。

そこで、本研究グループでは、工業廃棄物のヒドロシラン類が安価かつ大気中で安定な水素貯蔵物質としての可能性をもつことに着目し、高機能な金ナノ粒子触媒を開発することで、水とヒドロシラン類から高効率に純粋な水素ガスを大気中・室温で取り出すことに成功しました。さらに、開発した触媒が固体である利点を生かし、触媒を反応液に出し入れすることで水素発生のオン・オフ制御が可能となる水素生成系を世界で初めて提案しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、必要な場所で、必要なときに、必要な分だけ水素を取り出すことができる小型・軽量の次世代型水素キャリアシステム(ポータブル水素発生装置)への応用・実用化が期待されます。例えば、非常に小型かつ軽量という利点を生かし、スマートフォンの充電等の用途に使用されるポケットサイズ燃料電池の水素生成部に組み込むことができます。また、安定な化合物で構成されているため、これまでの電池やバッテリーと比べて経年劣化の心配がなく、災害時などの非常用電源として避難所などに常備・長期保管しておくこともできると思われます。

本研究成果によって実現されうるポータブル水素発生装置は来たる水素社会における活躍が期待できるだけでなく、外部からのエネルギーを必要とせず、長期保管ができるため、災害時などの緊急用やアウトドア用のポータブル電源としての利用が見込め、社会に与える影響・波及効果は非常に大きいと考えられます。

研究者のコメント

当研究グループでは、触媒開発を通して環境問題の解決に貢献したいと考えています。本研究では、1.9nmの非常に小さな金ナノ粒子を作ることに成功し、その金ナノ粒子がシリコーン工業の廃棄物と水という安価な材料から効率的に次世代エネルギーである水素を作り出す触媒になることを発見しました。本研究成果から生み出される新しい水素キャリアシステムが環境に調和した持続可能な社会の構築に貢献できることを期待しています。

特記事項

本研究成果は、2016年11月24日19時(日本時間)に英科学誌Natureの姉妹誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“On-demand Hydrogen Production from Organosilanes at Ambient Temperature Using Heterogeneous Gold Catalysts”
著者名:Takato Mitsudome, Teppei Urayama, Taizo Kiyohiro, Zen Maeno, Tomoo Mizugaki, Koichiro Jitsukawa and Kiyotomi Kaneda

なお、本研究の一部は、科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者:満留敬人)、新学術領域「3D活性サイト科学」(領域代表:大門寛)の支援の元に行われました。

用語解説

※1 ヒドロシラン(TMDS、PMHS)
ケイ素-水素結合(Si-H)を分子内にもつ化合物の総称。中でも、1,1,3,3-tetramethyldisiloxane (TMDS)とpolymethylhydrosiloxane (PMHS)はシリコーン工業の廃棄物として知られています。

※2 金ナノ粒子触媒
骨や歯の主成分であるヒドロキシアパタイトという無機物の上に、直径1.9ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1(10-9)メートル)程度の非常に小さな金ナノ粒子を調製することに成功しました。この小さな金ナノ粒子が温和な条件における水素生成反応を可能にしました。

※3 水素貯蔵物質
水素を貯蔵・放出できる物質。水素は非常に軽いガスなので、保管・運搬には非常に大きなスペースが必要で効率的ではありません。そこで、金属に水素を吸蔵・吸着させる、または、他の物質に変換して水素を貯蔵する技術の開発が進められています。

※4 固体触媒
化学反応を進行させる触媒は、溶液に溶け込む均一系触媒と溶け込まない不均一系触媒(=固体触媒)に大別できます。固体触媒は、粉末であるため反応溶液からろ過により簡単に取り除くことができる他、再使用ができるなどの多くの実用的な利点があります。

※5 金属ヒドリド
水素化カルシウム(CaH2)や水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)に代表される金属と水素によって構成される化合物。非常に反応性が高く大気中の水分と反応して水素と多量の熱を発生するため、爆発の危険があり、取扱いに注意が必要な物質です。

参考URL

大阪大学大学院基礎工学研究科 グリーンサステイナブルケミストリーラボHP
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/kanedalabo/GSCLabo/index-j.html

大阪大学大学院基礎工学研究科 触媒設計学グループ(實川研究室)HP
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/jitsukawalabo/home.html

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