自然科学系

2017年7月31日

研究成果のポイント

・次世代の半導体チャネル材料として応用が期待されているゲルマニウム(Ge)※1からなる横型半導体素子において「室温」でスピン流※2伝導を実証
・従来、室温以下の低温でしかスピン流伝導現象を観測できなかった
・ゲルマニウムスピントロニクス※3素子の室温応用展開への道を開拓

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の浜屋宏平教授と東京都市大学総合研究所の澤野憲太郎教授の共同研究グループは、高性能なスピントロニクス材料(ホイスラー合金)とゲルマニウムへの原子層不純物ドーピング※4技術を併用した独自のスピン注入・検出技術(図1)により、次世代の半導体チャネル材料として応用が期待されている『ゲルマニウム:Ge』を用いた微小素子における「室温スピン伝導」を実証しました。

これまで、浜屋教授らの共同グループは、ゲルマニウム中にスピン流を高効率に生成し、輸送・操作・検出するという成果を報告してきましたが、そのスピン伝導現象の観測は室温以下の低温に限られていました。

今回の研究では、理論的にスピン伝導を考察し、共同グループの有する技術を結集してスピン注入電極の特性を制御し、ゲルマニウム素子中のスピン検出感度を向上させた結果、スピン伝導実証温度が格段に上昇しました(図2)

これは、次世代のゲルマニウムエレクトロニクス技術にスピントロニクス技術を融合し、半導体素子の高速化と低消費電力化の両立への道を切り拓く成果であります。また、本グループが作製する素子構造は、従来のトンネル障壁層を用いる素子構造に比べて低い接合抵抗値を実現できるため、低電圧駆動素子の実証も期待されます。

本研究成果の関連情報は、米国科学誌「Physical Review Applied」(オンライン:7月11日)に掲載され、続報が応用物理学会の英文速報誌「Applied Physics Express」にSpotlights論文として8月1日に掲載されました。

図1 室温ゲルマニウムスピン素子の概念図.
ゲルマニウム(Ge)に高性能なスピントロニクス材料を原子層レベルで接合しており、接合界面付近には高濃度のリン(P)が数原子層の薄さでドーピングされている。

図2 室温スピン伝導信号の例(上)とスピン信号強度の温度依存性(下).
従来材料を用いた場合よりもスピン信号強度が増大し、スピン信号は室温付近でも明瞭に観測されるようになった。

研究の背景と研究成果

ゲルマニウム(Ge)は、電子・正孔の移動度※5が、それぞれ、シリコン(Si)の2倍・4倍であり、Siに代わる次世代の半導体チャネル材料として期待されています。世界最先端の半導体研究では、既にGe-CMOSと呼ばれる半導体のコア技術も開発され始めています。このGe中に電子の「スピン」自由度を電気的に注入し、不揮発メモリ機能を付加しようというスピントロニクス研究が世界中で展開されています。

2011年にアメリカのグループから世界で始めてGe中のスピン伝導を低温で観測した結果が報告され、近年では、フランスやイタリアのグループを中心に光学的手法でGe中の室温スピン伝導挙動が調べられています。浜屋教授らの研究グループでは、これまで、強磁性ホイスラー合金という高性能なスピントロニクス材料をGe伝導層上に高品質に作製し、澤野教授らの原子層ドーピング技術を併用することで、低温ではありましたが純スピン流の生成・操作・検出を実証してきました。

今回、Ge中のスピン散乱※6現象と不純物ドーピング量の関係を考慮した素子構造を設計し、世界で初めてGe電子デバイス構造における室温スピン伝導を実証しました。また、不純物を高濃度に添加したGe中のスピン拡散長※7(室温)は、0.5マイクロメートル[μm]※8程度であることを実験的に明らかにしました。

今後、実用化に向けては、スピン信号強度をさらに向上させるための工夫を施し、高性能動作と安定動作を両立する必要があります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ゲルマニウム(Ge)は、シリコン(Si)の次世代を担う半導体産業の中核材料になることが期待されています。そのGe中で不揮発メモリ機能を融合する革新的な技術であるスピントロニクス技術が確立されれば、半導体素子の高速化と低消費電力化を両立することが可能です。本研究成果は、このGe中でも室温でスピン伝導が観測される素子構造を実証した世界最高レベルの成果であり、半導体素子の高速化と低消費電力化の両立への道を切り拓く成果として大きな意義があります。

特記事項

本研究成果に関する情報は、米国科学誌「Physical Review Applied」(オンライン;7月11日)に掲載され、続報が応用物理学会の英文速報誌「Applied Physics Express」に8月1日に掲載されました。また、Applied Physics Express誌ではSpotlights論文に選出されました。

タイトル:“Spin Transport and Relaxation up to 250 K in Heavily Doped n-Type Ge Detected Using Co2FeAl0.5Si0.5 Electrodes”
著者名:Y. Fujita, M. Yamada, M. Tsukahara, T. Oka, S. Yamada, T. Kanashima, K. Sawano, and K. Hamaya
DOI:10.1103/PhysRevApplied.8.014007
雑誌:Physical Review Applied 8, 014007(2017).

タイトル:“Room-temperature spin transport in n-Ge probed by four-terminal nonlocal measurements”
著者名:M. Yamada, M. Tsukahara, Y. Fujita, T. Naito, S. Yamada, K. Sawano, and K. Hamaya
雑誌:Applied Physics Express

なお、本研究の一部は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ナノスピン変換科学」(No.26103003)、日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A)(No.16H02333)の補助を受けて行われました。

用語説明

※1 ゲルマニウム(Ge)
シリコン(Si)と同じ結晶構造(ダイヤモンド構造)を持つIV族の半導体で、バンドギャップは約0.7eV。トランジスタの初期の研究は、ゲルマニウムで行われた歴史がある。最近では、Siよりも高い移動度であるという観点から、Siに代わる次世代の半導体チャネル材料として注目されている。

※2 純スピン流
電流はアップスピン電子とダウンスピン電子の2種類の電子の流れに分けることができる。一般的に、電流とはこれら2つの和であるのに対し、スピン流は2つの差に相当する。今回の実験では、正味の電流がゼロで、スピン角運動量のみが流れている純スピン流と呼ばれるスピン流を伝導させている。

※3 スピントロニクス
電子の電荷とスピン(角運動量)の両方の自由度を積極的に利用することにより、新機能デバイスの開発を目指している研究分野のこと。

※4 不純物ドーピング
半導体中にキャリア(電子または正孔)を生成するために異種元素を添加すること。価数4のSiやGeに電子を生成する場合、価数5のP(リン)やAs(ヒ素)を添加することが多い。今回の実験では、Pの添加量を変化させている。

※5 移動度
電場を印加されたキャリア(電子または正孔)が、固体中(主に半導体中)で移動する際の移動のし易さの指標。単位はcm2/V・s、m2/V・sなど。

※6 スピン散乱
例えば、アップスピンに偏って生成されている状態(スピン偏極状態)が、何らかの相互作用によってダウンスピン状態に変化した結果、スピン非偏極状態になってしまうこと。

※7 スピン拡散長
電子スピンが情報を失うことなく進むことのできる距離のこと。材料、温度、不純物量などにより様々な変化をする長さであり、スピントロニクス素子設計を行う上で重要なパラメータである。

※8 マイクロメートル[μm]
10-6メートル[m]のこと。ミクロンとも呼ばれる長さ。

参考URL

大学院基礎工学研究科 システム創成専攻 電子光科学領域 固体電子工学講座
ナノ物性デバイスグループ 浜屋研究室
http://www.semi.ee.es.osaka-u.ac.jp/hamayalab/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top