2016年9月28日

本研究成果のポイント

・スピン流※1 伝導を利用して、磁性不純物※2 スピンと伝導電子スピンの相互作用を直接観測することに成功
・50年の歴史がある近藤効果※3 の研究に対して、スピン流を用いた新しい検出・制御法を提案
・スピン流を用いた物性物理の解明手法の開拓へ期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の浜屋宏平教授、東京工業大学科学技術創成研究院の谷山智康准教授らの研究グループは、高性能なスピントロニクス※4 材料を用いた微小スピン素子(図1) において、希薄磁性合金(近藤合金)における近藤効果をスピン流の伝導を介して世界で初めて検出することに成功しました。

これまで、希薄磁性合金における近藤効果は、電流を印加して電気抵抗を精密に測定することで検出・解析されてきましたが、電流を伴わないスピン流と近藤効果の関係の詳細は解明されていませんでした。

今回の研究では、磁性不純物スピンと伝導電子スピンの相互作用をスピン流伝導の結果として直接観測したばかりでなく、近藤合金へのスピン流の注入量を変化させることで、近藤効果の強弱を制御できることを発見しました(図2)

これは、50年の歴史がある近藤効果に関する研究に対して、スピン流を用いた新しい検出・制御手法を提案するものであり、スピン流を用いた物性物理の解明に大きく寄与するものと期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Physical Review B (Rapid Communications)」(オンライン)に近日中に公開されます。

図1 本研究で用いた微小スピン素子.
高性能スピントロニクス材料からスピン流を生成し、スピン散乱の結果を電圧として検出します。電流源と電圧計の配置は電流を検出しない配置としています。

図2 検出した物理現象の概念図.
磁性不純物スピンと伝導電子スピンは、ある温度(近藤温度)以下で反強磁性的に結合した基底状態となります。その結果、スピン流は散乱されずに通過します。また、スピン流量が増大した環境下では、近藤効果そのものが小さくなります。

研究の背景と研究成果

希薄磁性合金における近藤効果は、温度を下げていくと電気抵抗がある温度(近藤温度付近)で上昇に転じる現象として知られています。この現象は、近藤淳博士によって1964年に理論的に説明された現象ですが、近藤博士の理論と実際の実験結果が極低温領域で一致しないことが知られていました。その後の理論研究の進展により、極低温領域では磁性不純物のスピンと伝導電子のスピンが反強磁性的に結合した基底状態※5 を形成するために、スピン散乱が抑えられ、電気抵抗がある値に収束することによることが分かってきました。

浜屋教授らの研究グループでは、強磁性ホイスラー合金という高性能なスピントロニクス材料をスピン流生成源として用いることで、近藤合金中のスピン流伝導を直接観測することに成功し、磁性不純物スピンが近藤温度よりもはるかに高温からスピン散乱に寄与することを明らかにしました。また、近藤温度以下では、スピン散乱の影響が変化しないことをスピン流伝導から直接的に解明しました。さらに、スピン注入量を人為的に増やすことで、スピン散乱の影響が変調されることを新たに発見しました。これは、近藤効果をスピン流で制御することができることを表しています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、50年の歴史がある近藤効果の物理に対して、スピン流を用いた新しい検出・制御法が提案され、その詳細な機構解明に大きな寄与が期待されます。また、スピントロニクス技術が物性物理の解明に大きく寄与した結果として重要な意義を呈したものと考えられます。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Physical Review B (Rapid Communications)」(オンライン)に近日中に公開されます。
タイトル:“Direct evidence for suppression of the Kondo effect due to pure spin current”
著者名:K. Hamaya, T. Kurokawa, S. Oki, S. Yamada, T. Kanashima, and T. Taniyama

なお、本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ナノスピン変換科学」(No.26103003、No.15H01014)、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(A) (No.25246020, No.16H02333)、基盤研究(B) (No.26289229)の補助を受けて行われました。

用語解説

※1 スピン流
電流はアップスピン電子とダウンスピン電子の2種類の電子の流れに分けることができます。一般的に、電流とはこれら2つの和であるのに対し、スピン流は2つの差に相当します。今回の実験では、正味の電流がゼロで、スピン角運動量のみが流れている純スピン流と呼ばれるスピン流を伝導させています。

※2 磁性不純物
微量の磁性元素添加物(ここではFe, Mnなど)の総称。一般的に、純度の高い金属母体(CuやAu)中にごく微量に含まれるので「不純物」と呼ばれています。

※3 近藤効果
ごく微量の磁性不純物を含む金属の温度を下げていくと、電気抵抗がある温度以下で上昇に転じる現象のこと。磁性不純物原子は、相互作用が生じないほど希薄である必要があり、希薄磁性合金(Cu(Fe)やAu(Mn)など)と呼ばれる金属で観測される現象。

※4 スピントロニクス
電子の電荷とスピン(角運動量)の両方の自由度を積極的に利用することにより、新機能デバイスの開発を目指している研究分野のこと。

※5 基底状態
系の取りうる状態の中で、最低のエネルギーを有する状態のこと。

参考URL

浜屋研究室HP
http://www.semi.ee.es.osaka-u.ac.jp/hamayalab/index.html

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