2014年7月29日

リリース概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの黒崎知博教授(理化学研究所統合生命医科学研究センターグループディレクター兼任)を中心とする共同研究グループは、免疫記憶を司っている主要な免疫細胞である記憶B細胞と記憶T細胞(記憶濾胞性ヘルパーT細胞)が近傍に存在していること、そしてこれらの細胞が素早く相互作用し、その結果記憶抗体産生応答が速やかに誘導されることを、マウスを使用した実験で明らかにしました。

研究の背景

私たちの体は常に細菌やウイルスなどの外来異物(抗原)に曝されています。これらの抗原が体内に侵入してくると免疫応答が開始されます。免疫応答の中でも重要なもののひとつが、抗原を排除するためにB細胞が抗体を産生する反応です。この抗体産生応答は、免疫系がはじめて抗原に出会った時よりも、二度目に出会った時の方がより強力にかつ速やかに引き起こされます。これは記憶免疫応答として知られており、この応答を利用しているのがワクチン療法です。この記憶免疫応答は記憶B細胞や記憶T細胞によって担われます。

一般にB細胞が抗体を産生するためにはT細胞の助けが必要です。T細胞の中でも濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)というタイプのT細胞がB細胞の抗体産生を助けるのに優れた能力を持っていることが明らかにされていました。しかし記憶B細胞による強力な抗体産生応答にもTFH細胞が関与しているのか?もしそうならばどのようなメカニズムでTFH細胞が活性化されるのかは不明でした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、記憶T細胞と記憶B細胞が直接相互作用することで、記憶免疫応答(記憶抗体産生応答)が効率良く誘導される仕組みが明らかとなりました。この記憶抗体産生応答では記憶TFH細胞がキープレーヤーとして働きます。従ってこの記憶TFH細胞を効率良く誘導することができれば、より良い抗体産生を目的としたワクチン療法の新規開発や改良が図れると期待できます。

研究手法と成果

本研究ではまず一次免疫応答時に誘導される濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)が記憶T細胞として長期に渡って生存可能なのかを調べました。抗原を免疫したマウスからTFH細胞を取り出し、別のマウスに移植したところ1カ月後にも生存が認められました。このことからTFH細胞は記憶TFH細胞として長期に渡り生存することが判明しました(図1)。この記憶TFH細胞は記憶B細胞の抗体産生を効率良く誘導したことから記憶免疫応答においても重要な役割を果たすことが確認できました(図2)

TFH細胞は転写因子Bcl6を強く発現します。Bcl6はTFH細胞の誘導に必須であることがこれまでの研究により明らかにされています。Bcl6レポーターマウスを用いて記憶TFH細胞のBcl6発現を解析したところ、TFH細胞が記憶TFH細胞に分化するとBcl6の発現が減弱することがわかりました。しかし抗原で再活性化されると非常に速やかにBcl6をもう一度発現し、記憶TFH細胞からエフェクターTFH細胞に分化することがわかりました(図3)

Bcl6は記憶TFH細胞の誘導、維持に必要なのでしょうか?この疑問に答えるために薬剤を投与することでBcl6を誘導性にノックアウトできるマウスを利用した解析を行いました。記憶TFH細胞を誘導した後にBcl6を誘導性に除去すると記憶TFH細胞が選択的に減少し(図4)、それに伴い記憶B細胞の応答も減弱することが判明しました(図5)

記憶TFH細胞はどのようにして活性化されるのでしょうか?一次免疫応答では樹状細胞が抗原をT細胞に提示します。実際、樹状細胞を除去するとTFH細胞が誘導されませんでした。しかし記憶免疫応答では樹状細胞を除去しても記憶TFH細胞は正常に活性化されたことから、樹状細胞による抗原提示は必須ではないことが判明しました。記憶B細胞は細胞表面にMHCクラスII分子や補助刺激分子を高発現し抗原提示細胞として機能することが知られています。そこで記憶B細胞が記憶TFH細胞に抗原提示して活性化するのではないかと予測し実験を行いました。記憶B細胞をマウスに移植したところ記憶TFH細胞のBcl6発現が誘導されました(図6)。また記憶B細胞が存在しない条件では記憶TFH細胞の活性化が十分には起きませんでした。このことから記憶TFH細胞の活性化には記憶B細胞が抗原提示細胞として働くことが判明しました。このように記憶T細胞と記憶B細胞が直接相互作用することで、効率よく記憶抗体産生応答が誘導されることが考えられました。

今後の期待

本研究により記憶免疫応答(記憶抗体産生応答)が効率良く誘導される仕組みの一つが明らかとなりました。この記憶抗体産生応答では記憶TFH細胞がキープレーヤーとして働きます。従ってこの記憶TFH細胞を効率良く誘導することができれば、より良い抗体産生を目的としたワクチン療法の新規開発や改良が図れると期待できます。

特記事項

本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」研究領域(菅村和夫研究総括)における研究課題「液性免疫制御による新しい治療法の開発」(研究代表者:黒崎知博)の一環として行われました。また本研究は大阪大学、理化学研究所、東京理科大学、Tulane大学との共同で行ったものです。

掲載論文・雑誌

Wataru Ise, Takeshi Inoue, James B McLachlan, Kohei Kometani, Masato Kubo, Takaharu Okada, and Tomohiro Kurosaki. Memory B cells contribute to rapid Bcl6 expression by memory TFH cells.
Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)
2014年7月29日(火)午前4時on line掲載 (米東部時間: 7月28日午後3時)

参考図

図1 TFH細胞は記憶T細胞として生存する
抗原でマウスを免疫して一週間後にTFH細胞(CXCR5hiPD1hi)あるいは非TFH細胞(CXCR5-PD1-)を精製し、別のマウスに移入した。1カ月後に移入した細胞のフェノタイプを解析したところ、TFH細胞は記憶T細胞として生存しており、CXCR5の発現を保っていた。またB細胞領域やT-B細胞領域の境界に存在が認められた。

図2 記憶TFH細胞は記憶B細胞を活性化する
あらかじめ記憶B細胞が移入されたマウスにナイーブT細胞、CXCR5-記憶T細胞、あるいはCXCR5+記憶T細胞(記憶TFH細胞)を移入し、抗原で免疫を行った。記憶B細胞の抗体産生細胞(CD138陽性細胞)への分化を観察したところ、記憶TFH細胞が最も強く抗体産生細胞を誘導した。

図3 記憶TFH細胞はBcl6を速やかに発現する
記憶TFH細胞は刺激前はBcl6(YFP)を発現していないが、抗原刺激24時間後にはBcl6を高発した。またBcl6(YFP)の発現はT細胞-B細胞領域の境界で認められた。

図4 転写因子Bcl6は記憶TFH細胞の生存に必要である
転写因子Bcl6を誘導性に除去できるマウス(Bcl6 FF x ERT2-cre)由来のT細胞をマウスに移入し、抗原で免疫し記憶T細胞を誘導した。その後マウスにタモキシフェンを投与し、記憶T細胞からBcl6を除去した。その結果CXCR5を発現する記憶T細胞(記憶TFH細胞)が減少したのに対し、CXCR5陰性の記憶T細胞数は変化しなかった。これよりBcl6は記憶TFH細胞の生存維持に必要であることが示された。

図5 記憶TFH細胞は記憶B細胞の活性化に必要である
図4と同様に記憶T細胞から誘導性にBcl6を除去した。記憶B細胞を移入した後、抗原で免疫を行い記憶B細胞の抗体産生細胞(CD138陽性細胞)への分化を観察したところ、Bcl6を誘導性に除去したマウスでは抗体産生応答が減弱していた。このことは記憶TFH細胞が記憶B細胞の活性化に必要であることを示唆する。

ResOU

図6 記憶B細胞は記憶TFH細胞の活性化を誘導する
マウスを抗原で免疫し、記憶T細胞を誘導した。その後抗原特異的あるいは抗原非特異的な記憶B細胞を移入し、再免疫を行なった。記憶TFH細胞のBcl6発現を観察したところ、抗原特異的な記憶B細胞が存在すると記憶TFH細胞のBcl6発現が誘導された。このことから記憶B細胞が抗原提示細胞として記憶TFH細胞を活性化することが示唆された。

参考URL

大阪大学免疫学フロンティア研究センター 免疫グループ 分化制御研究室
http://lymph.ifrec.osaka-u.ac.jp/index_j.html

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