生命科学・医学系

2018年4月18日

研究成果のポイント

・インフルエンザウイルス感染をきっかけとする死者が出ていることからも、感染時の抗体生成などの生体防御メカニズムを解明し、効果的なワクチンを開発することは重要
・細菌やウイルス感染時に十分に攻撃できる良質の抗体を作るプラズマ細胞がどのようなメカニズムで誕生するのかは十分に明らかにされてこなかった
・今回、プラズマ細胞の前駆細胞がどのような刺激によってプラズマ細胞となるのかを明らかにした。その誘導法を利用した新たなワクチン開発につながると期待される

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの伊勢渉特任准教授(常勤)、黒崎知博特任教授(常勤)(理化学研究所生命医科学研究センター兼任)らの共同研究グループは、病原体からの感染防御に必須の抗体※1が作られる経路を明らかにしました。本成果は、効果的な抗体の産生を標的にした新規ワクチン開発に大きく貢献すると期待できます。

今回、共同研究グループは、マウスを用いた解析を行い、ウイルスなどの病原体を生体内から除去するために必要な抗体分子の中でも、病原体との親和性の高い良質な抗体がどのような仕組みにより作られるのかを明らかにしました。ウイルス等の外来異物が体内に侵入すると、活性化したB細胞※2が、胚中心※3という微小構造の中で、高親和性の抗体を産生するプラズマ細胞※4へと分化します。本研究では胚中心に存在するB細胞を詳細に解析し、プラズマ細胞へ分化することが運命づけられた前駆細胞を同定することに初めて成功しました。また、このプラズマ細胞の前駆細胞がどのような刺激によって誕生するのかを明らかにしました。このプラズマ細胞の前駆細胞を効率良く誘導することが、新たなワクチン開発の指標になるものと期待されます。

図 良質な抗体を作るプラズマ細胞が誕生する経路

研究の背景

近年インフルエンザウイルス感染により、日本国内だけでも年間約1000人もの死者が出ています(厚生労働省人口動態調査人口動態統計平成28年)。ウイルス・細菌感染に対する生体防御メカニズムを解明し、効果的なワクチンを開発することが、社会的に重要な課題となっています。ウイルスや細菌などの外来異物が私たちの生体に侵入すると、免疫系の細胞が活性化し、異物を排除するための物質を産生します。その中でもとりわけ重要なのが抗体です。抗体は、B細胞から分化した「プラズマ細胞」という細胞によって作られますが、プラズマ細胞には大きく分けて二種類のタイプが存在します。一つは異物によって速やかに誘導されるタイプで、親和性の低い抗体を迅速に産生します。もう一つは胚中心という場所で作られるタイプのプラズマ細胞で、親和性の高い良質な抗体を産生します。胚中心に存在するB細胞(胚中心B細胞)は、自らの抗体遺伝子に変異を繰り返し導入することで、自らの抗体の性能を高めてゆき、細菌やウイルスを攻撃するための高親和性抗体を持つようになった胚中心B細胞がプラズマ細胞へと分化すると考えられてきました。よって、感染防御に効果的な、高親和性の良質抗体を産生するタイプのプラズマ細胞がどのようなメカニズムで誕生するのかを明らかにすることは非常に重要です。しかし、生体内におけるプラズマ細胞の数が非常に少なく解析が難しいこと、また胚中心を経て誕生したプラズマ細胞を他のタイプのプラズマ細胞と識別する方法がこれまでに存在しなかったことから、分化の経路は明らかにされていませんでした。

本研究の成果

研究グループは、まず、胚中心B細胞の中にはプラズマ細胞への分化が既に始まっているものが存在するのではないかと考えました。胚中心のB細胞は、転写因子※5Bcl6※6を発現していますが、プラズマ細胞へ分化するとBcl6の発現を失います。そこでBcl6の発現を蛍光色素で追跡できるレポーターマウス※7を用いて解析を行いました。すると、胚中心B細胞の一部でBcl6の発現が低下していることが判明しました(図1)。また、この胚中心B細胞は、他の胚中心B細胞と異なり、プラズマ細胞への分化に必須の転写因子IRF4※8を強く発現していること、また細胞表面にCD69という分子マーカーを持つことを見いだし、Bcl6loCD69hi細胞と呼ぶことにしました。

続いて、Bcl6loCD69hi細胞が、本当にプラズマ細胞の前駆細胞であるかどうかを検証しました。まず、本研究グループが以前報告した胚中心B細胞の運命追跡システム※9を使用して、胚中心由来のプラズマ細胞を分離し、胚中心B細胞と抗体遺伝子の配列を比較しました。その結果Bcl6loCD69hi細胞と胚中心由来プラズマ細胞の抗体遺伝子の配列が似通っていたことから、Bcl6loCD69hi細胞がプラズマ細胞へ分化したと考えられました。また、Bcl6loCD69hi細胞は、親和性の高い良質な抗体を生み出す遺伝子変異を多く持つことも明らかとなりました。さらに、Bcl6loCD69hi細胞は胚中心B細胞に特徴的な遺伝子の発現を失っていること、逆にプラズマ細胞に特徴的な遺伝子を発現し始めていることが明らかとなりました。これらの結果から、胚中心B細胞の中でもBcl6loCD69hi細胞はプラズマ細胞への分化が運命づけられた前駆細胞であると考えられました。

胚中心B細胞がプラズマ細胞へと分化するには、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞)※10からのシグナルが必要であることが知られています。実際に、Bcl6loCD69hi細胞では、Tfh細胞からのシグナルが、CD40※11という受容体を介して、他の胚中心B細胞よりも強く入っていることが判明しました。そこで、胚中心B細胞上でCD40タンパクの発現を減少させたところ、プラズマ細胞への分化が約半分程度に減少しました(図2)。このことからTfh細胞を介したヘルプシグナル※12の量がプラズマ細胞への分化を制御していることが判明しました。

ではなぜプラズマ細胞の前駆細胞はTfh細胞から強いヘルプシグナルを受けられるのでしょうか?Bcl6loCD69hi細胞は接着分子であるICAM-1※13やSLAM※14を他の胚中心B細胞よりも多く発現し、実際にTfh細胞とより効率良く結合できることが明らかになりました(図3)。このTfh細胞との結合を阻害するとIRF4の発現量が低下し、Bcl6loCD69hi細胞数も減少しました。以上の結果から、Tfh細胞との安定的な相互作用が胚中心B細胞をプラズマ細胞の前駆細胞へと誘導するのに重要であることが示唆されました。

図1 胚中心B細胞にはBcl6lo細胞が存在する
Bcl6を黄色蛍光色素(YFP)で標識したBcl6-YFPレポーターマウスを抗原で免疫した後に解析したところ、胚中心の明領域(Light zone, LZ)に、Bcl6-YFPの発現が低いB細胞(Bcl6lo細胞)が存在した(左の赤枠内)。このBcl6lo細胞を分離して遺伝子発現を解析したところ、他の胚中心B細胞と比較してIRF4を強く発現することが判明した(右の赤棒)。

図2 胚中心(GC)B細胞のCD40発現量とプラズマ細胞分化
CD40を正常に発現するB細胞(CD40+/+)とCD40の発現を減少させたB細胞(CD40+/-)を1:1の比率でマウスに移入し、抗原刺激後、プラズマ細胞への分化能を比較した。CD40の発現が減少したCD40+/-胚中心B細胞は正常に生存することができたが(左)、プラズマ細胞への分化能は約半分に低下していた(右)。

図3 胚中心B細胞とTfh細胞の結合効率
胚中心B細胞を分離し、抗原ペプチドの存在下、B細胞とTfh細胞の結合を比較した。他の胚中心B細胞と比較して、Bcl6loCD69hi細胞(赤棒)はTfh細胞とより効率よく結合することが分かった。

今後の期待

ワクチン療法の目的は、細菌・ウイルス感染に最も有効な抗体を誘導することです。本研究は高親和性の“良質”な抗体を産生するプラズマ細胞が誘導される経路を明らかにしました。今回の成果を応用し、高親和性の抗体をつくるプラズマ細胞を効率良く誘導する方法を開発することが、新しいワクチン戦略の一つの鍵になると期待できます。

特記事項

本研究成果は、2018年4月18日(日本時間)に米国科学誌「Immunity」のオンライン版で公開されました。
【タイトル】
T follicular helper cell-germinal center B cell interaction strength regulates entry into plasma cell or recycling GC cell fate
(濾胞性ヘルパーT細胞と胚中心B細胞の相互作用強度が、プラズマ細胞になるか杯中心でリサイクルされるかの運命を決める)
【著者】
Wataru Ise, Kentaro Fujii, Katsuyuki Shiroguchi, Ayako Ito, Kohei Kometani, Kiyoshi Takeda, Eiryo Kawakami, Kazuo Yamashita, Kazuhiro Suzuki, Takaharu Okada and Tomohiro Kurosaki

本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CREST「液性免疫制御による新しい治療法の開発(研究代表者:黒崎知博)」、さきがけ「生体システム理解・医科学応用を実現する1細胞核酸計測技術の開発(研究者:城口克之)」、文部科学省科学研究費補助金「液性免疫記憶の生成・維持・活性化機序(研究代表者:黒崎知博)」、「メモリーB細胞の形成と維持を支える内的・外的メカニズム(研究代表者:黒崎知博)」、「高親和性プラズマ細胞の選択および生存維持を担う分子機構の解析(研究代表者:伊勢渉)」、先進医薬研究振興財団研究助成「高親和性抗体を産生するプラズマ細胞の誘導・選択に関する分子機構の解明(研究者:伊勢渉)」の支援を受けて行われました。

用語説明

※1 抗体
プラズマ細胞が産生するタンパク質。特定のタンパク質など抗原を認識して結合し、無毒化(中和)する働きを持つ。

※2 B細胞
免疫細胞の一種。細胞表面にあるB細胞抗原受容体と呼ばれるタンパク質で、病原体などの抗原を認識し、抗体を産生する。B細胞は、抗原の刺激に応じて胚中心B細胞、記憶B細胞、プラズマ細胞へと分化する。

※3 胚中心
免疫応答の際に、リンパ節や脾臓などの免疫組織において誘導される微小構造。胚中心では、B細胞が活発に増殖するとともに、抗体遺伝子に変異が起こり、より親和性の高い抗体ができる。

※4 プラズマ細胞(形質細胞)
B細胞が終末分化した細胞。抗体(免疫グロブリン)の合成と分泌に特化した細胞。

※5 転写因子
遺伝子の発現を調節するタンパク質。多くはDNAとの結合部位を持つ。標的遺伝子の調節領域(プロモーターなど)に結合し、標的遺伝子の発現を活性化、あるいは抑制する。

※6 Bcl6
Bcl6は転写因子として機能すると考えられ、多くの遺伝子の発現制御に関与している。特に、Bcl6は胚中心B細胞の分化に必須である。胚中心B細胞はBcl6を高発現するが、記憶B細胞やプラズマ細胞はBcl6を発現しない。Bcl6はB-cell lymphoma 6の略。

※7 レポーターマウス
各種のイメージング手法などを用いて遺伝子発現をモニターできるマウス

※8 IRF4
Interferon regulatory factor 4の略。IRF4は多くの遺伝子の発現制御に関与する転写因子である。B細胞からプラズマ細胞への分化に必須の因子であり、プラズマ細胞で高発現している。

※9 胚中心B細胞の運命追跡システム
IRF4は多くの遺伝子の発現制御に関与する転写因子。B細胞からプラズマ細胞への分化に必須の因子であり、プラズマ細胞で高発現している。IRF4はInterferon regulatory factor 4の略。

※10 濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞)
ヘルパーT細胞の一種。T細胞領域から濾胞へ移動して、B細胞の働きを補助できるように変化したT細胞。細胞表面分子を介した相互作用や、サイトカインと呼ばれる液性因子を分泌してB細胞の働きを調節する。胚中心の誘導と胚中心B細胞の選択に必須。

※11 CD40
腫瘍壊死因子レセプター(TNFR)スーパーファミリーの一つで、全ての成熟B細胞に発現する分子。CD40はT細胞のCD154(CD40リガンド)と結合し、B細胞に増植や分化を誘導するシグナルを伝達する。

※12 ヘルプシグナル
T細胞がB細胞を活性化するために伝達するシグナル。T細胞上のCD154(CD40リガンド)やT細胞から産生される種々のサイトカイン(インターロイキン4やインターロイキン21など)がB細胞上のリガンドやレセプターに結合することによって伝達される。

※13 ICAM-1
免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子。CD54とも呼ばれる。リンパ球、内皮細胞など多くの細胞に恒常的に発現している。ICAM-1は細胞接着分子LFA-1(リンパ球機能関連抗原1)と結合し、炎症や免疫応答での細胞間相互作用に重要な役割を果たす。ICAM-1はIntercellular adhesion molecule 1の略。

※14 SLAM
免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。CD150とも呼ばれる。相手の細胞上のSLAMに対するリガンドとして作用する。SLAMの発現はB細胞、樹状細胞、活性化T細胞にみられ、B細胞の刺激、増植誘導、アポトーシスの阻害などの機能に関与している。SLAMはSignaling lymphocyte activation moleculeの略

参考URL

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室
http://lymph.ifrec.osaka-u.ac.jp/index_j.html

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top