糖尿病の新しい治療法開発に光
DPP-4を標的としたワクチンを設計 マウスで治療効果を確認
リリース概要
大阪大学大学院連合小児発達学研究科の中神啓徳寄附講座教授(健康発達医学)、同医学系研究科の森下竜一寄附講座教授(臨床遺伝子治療学)、楽木宏実教授(老年・腎臓内科)らの研究グループは、糖尿病に対しての新規治療法としてDPP-4 (Dipeptidyl Peptidase-4) を標的とした治療ワクチンのマウスでの効果を発表いたしました。DPP-4阻害薬は現在臨床で広く使用されている糖尿病の治療薬ですが、今回の研究グループはこのDPP-4の機能を阻害するようなワクチンを設計し、糖尿病のマウスに投与したところ、これまでDPP-4阻害薬の効果として報告されてきたものと同様の改善作用を認めました。将来的な糖尿病治療の新しい治療法として創薬に発展されることが期待されます。
なお、本研究成果は米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)の電子版に3月17日(月)15時(米国時間EST)に掲載される予定です。
研究の背景
超高齢化社会の我が国で糖尿病患者は年々増加し約950万人に達しており、世界では3億8000万人の患者がいると推定されています。この疾患に対する治療法として、運動療法・食事療法の他に薬物療法があり、糖尿病治療薬として数種類の薬剤があります。DPP-4阻害薬は近年急速に使用が増えている糖尿病治療薬であり、その機序として右図のように消化器由来のインクレチン の作用により血糖を低下させることが知られています。
インクレチンの1つであるGLP-1 (glucagon-like peptide-1) は食事摂取後に主に小腸から分泌され、膵臓(β細胞)からのインスリン分泌を促進し血糖を下げる作用をもっていますが、血中などに存在するDPP-4により容易に分解され不活性化されてしまう特徴があります。このDPP-4を薬剤で阻害し、GLP-1をより安定化させて血中濃度を増加させることによって、インスリン分泌促進作用などを強めて血糖を下げることができることがこれまでの検討で確認されています。ヒト糖尿病患者さんへの糖尿病治療薬として用いられています。
本研究グループは、このDPP-4を薬剤ではなくワクチンによって阻害することを試みました。DPP-4の部分配列を抗原として設計し、自然免疫を活性化するようなアジュバントと呼ばれる分子と一緒に、2週間毎に3回マウスに接種しました。その結果、DPP-4に対する抗体が産生され、DPP-4にその抗体が結合することにより、DPP-4の機能を阻害することが分かりました。次に、高脂肪食を食べさせて糖尿病にしたモデルにこのDPP-4に対するワクチンを投与した結果、血糖を有意に下げることができ、そのときの血液中のGLP-1濃度およびインスリン濃度が高いことも確認されました。DPP-4に対する抗体はワクチン接種後の数ヶ月間維持できており、ワクチンの追加により再び抗体が上昇することも確認できました。
以上の結果から、ワクチンにより誘導されたDPP-4に対する抗体が、DPP-4の機能を阻害することで、糖尿病の治療に応用できる可能性がマウスの実験から示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
超高齢化社会を迎える我が国において、右肩上がりに急増する医療費をいかに抑えるかは直近の大きな課題となっています。生活習慣病における薬物治療は、高血圧・糖尿病・脂質異常症のそれぞれに対する厳格な管理が求められており、疾患ごとに多剤を併用するため患者ごとに非常に多くの薬剤が必要となることも多いです。この問題に対して、年に数回のワクチン接種をすることで薬剤と同等の効果を得ることができれば、医療費の削減のみならず、患者さんの薬の飲み忘れ防止など、治療効果の改善などが期待できます。
参考URL
大阪大学 大学院連合小児発達学研究科 健康発達医学
http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/vme/index.html
大阪大学 大学院連合小児発達学研究科 健康発達医学 ワクチン研究について
http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/vme/research_01.html
用語説明
- DPP-4
腸から分泌されるホルモンであるインクレチンを切断し、不活性化する酵素。
- インクレチン
食後の高血糖に伴い腸から分泌されるホルモン。インクレチンの1つであるGLP-1は膵臓β細胞の受容体に結合してインスリン分泌促進作用とグルカゴンの分泌抑制作用により血糖低下作用を有する。