労働生産性を低下させないための花粉症治療
「ちょっとミミヨリ健康学」Column Entry No.011
大阪大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 教授 猪原秀典
身近な健康・医療情報を、大阪大学の研究者がちょっとミミヨ リとしてお届けするコラム。
もうすぐ3月、桜の開花がすぐそこに見えてくるこの時期は春の花粉症の時期です。日本では花粉症を含むアレルギー性鼻炎に約2人に1人が罹患しており、まさに国民病と言えます。アレルギー性鼻炎は鼻水や鼻づまりだけではなく睡眠障害など様々な症状を引き起こして労働生産性を低下させ、その経済的損失は計り知れません。
一般的な治療として症状に合わせた内服薬や点鼻薬を使用していきますが、十分に症状が抑えられない場合には注射による抗体治療(抗IgE抗体治療)を行うことがあります。また薬以外の治療では手術という選択肢がありますが、日帰り局所麻酔で行う鼻粘膜をレーザーで焼灼する手術から入院全身麻酔が必要になるものまで様々な種類があります。大阪大学医学部附属病院では主に全身麻酔を必要とする手術を行っており、鼻水が多い方には鼻水の分泌に関係する神経を切る“後鼻神経切断術”、鼻づまりがひどい方には腫れている部位の一部を切除する“下鼻甲介手術”を行っています。いずれの手術も内視鏡で行うため顏に傷が残らず、体への負担も少ないものになります。
これらの治療は症状をやわらげる対症療法と呼ばれる治療になりますが、その他の治療としてアレルギーのもとになる物質(アレルゲン)を少量ずつ投与するアレルゲン免疫療法という治療があります。この治療は長期間の投与が必要になるデメリットがありますが、根本的な体質改善に繋がる治療(根本治療)になっています。以前は繰り返し皮下に注射する経皮免疫療法が一般的でしたが、強い副作用がでることが稀にありました。最近では“舌下免疫療法”と呼ばれるアレルゲンエキスを口の中に投与する方法が一般的になっています。
舌下免疫療法は皮下注射による免疫療法と比べて、強い副作用が出る頻度が少なく自宅でできるため広く行われるようになってきています。アレルギー素因を持つ子供が成長に合わせて次々にアレルギー性の病気を発症してくるアレルギーマーチという概念があります。舌下免疫療法はアレルギーマーチにおいても有効な手段になることが期待されており、注目の治療です。
アレルギー性鼻炎は早期に治療を始める方が症状を抑えやすく、病気に悩む期間も短くなります。早めに耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診して適切な治療を受け、労働生産性の低下を最低限にして下さい。
■参考URL
大阪大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
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https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2022/nl87_mimiyori_vol10
大阪大学NewsLetter
阪大StroyZ
阪大生にも、研究者にも、卒業生にも誰しも必ずある“物語”。その一小節があつまると大阪大学という壮大なドキュメンタリーを生み出します。
(本記事の内容は、2023年2月発行の大阪大学NewsLetter88号に掲載されたものです )