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今アフリカで 起きていることが、 なぜ世界につたわらないのか

「常識」と異なる目線から、世界を見つめてみよう

国際公共政策研究科・准教授・ヴァージル・ホーキンス

世界中で今もさまざまな紛争が起きているが、それらについてのメディアの取り上げ方は一様ではない。なかでも、コンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo)での紛争は、累計500万人が犠牲になっているのに、多くの日本人はそういった現実を知らない。なぜこういうことが起きるのか。情報社会といわれる現代において、ニュースとして伝えられない紛争に強い関心を寄せる国際公共政策研究科(OSIPP)のヴァージル・ホーキンス准教授に話を聞いた。

今アフリカで 起きていることが、 なぜ世界につたわらないのか

コンゴ紛争の犠牲者500万人

─アフリカでの紛争に関心をもったきっかけは?

国際紛争という言葉から、おそらく皆さんは「中東」を連想するでしょう。私も高校時代は、報道される中東情勢くらいしか知りませんでした。しかし、大学生になって「紛争」というものを少し調べると、アフリカの紛争(当時は、南北スーダンやアンゴラなど)の規模が大きいのに報道されていない事実や、死者が少ないのにイスラエル・パレスチナや北アイルランド紛争が大きく報道されるギャップを知りました。この「実態がイメージと大きく違う」ということに気づいたのが、きっかけです。

─実態とイメージの格差ですか。

例えばコンゴ民主共和国では、累積500万人という、冷戦後の世界最大の死者数を出した紛争が起きています。これは、イスラエル・パレスチナ紛争による死者数が2000年以降約1万人であるのと比べ、圧倒的な数です。「人の命の重さは平等である」という考えに基づくと、この犠牲者数と情報の伝わり方には大きな差があります。だから関心をもったのです。今でも日本をはじめ世界の人々は、DRCで起きていることを全くといっていいほど知りません。

─このインターネット時代、情報が瞬時に世界に拡散しても、DRCの紛争についての情報は伝わってきません。

検索すれば、情報はいくらでもありますよ。でも、大手検索サイトのニューストピックスなどには上がってきません。新聞などのマスメディアは、日本でも欧米でもアフリカの話題をほとんど取り上げない。アフリカを取り上げるとしても、エジプトくらいですね。ある日の豪州の新聞紙面では、コンゴ紛争の死者数のまとめを伝える小さな記事が、後ろの方のページで芸能人のゴシップ記事に囲まれるように掲載されていたんです。「読み飛ばせ」と言わんばかりに。思わず怒りが湧いてきましたよ。日本の中学校や高校の教科書でも「世界の主な紛争」として、北アイルランドやロシアの紛争は載っていても、コンゴどころか、アフリカについての言及がないものもあります。

自国中心主義の報道が問題

─マスメディアや教育によって、世界のイメージが作られる面は確かにありますね。アフリカの問題が世界に伝わらない原因は、どこにあるのでしょうか?

一つは自国中心主義の報道です。メディアは国際的なニュースの場合、政府からヒントをもらうことが多いのですが、政府もあまりアフリカに関心がない。たまに関心をもつことがあっても、経済に関係することだけですね。今年1月に引き起こされたアルジェリアでの人質拘束事件にしても、報道は亡くなった日本人10名のことに終始していましたが、他の国の犠牲者や現地従業員のことはほとんど報道されませんでした。報道は時として事実の一部を取り出して、まるで事実の全容のように伝えることもあります。市民にとっては「報道内容は正しい」という神話によって、情報量に制約を受け、ゆがんだ解釈が広がることになります。

─他にも原因がありますか?

心理的な問題もあります。例えば、北アメリカとアフリカで、両者の日本からの距離はさほど変わりはないのですが、「アフリカは遠い」というイメージを持ってしまいませんか。日本人と欧米系の白人は見た目が違うけれど、皮膚の色が明らかに違う黒人に比べると、まだ近い方だといえます。生活様式も欧米系とは似通っている。車に乗り、パソコンを持ち、電話を使う。スペインで起きた列車テロの報道に、日本に住む我々がピンとくるのは、鉄道が身近にあるからです。

でも、アフリカのどこかの国で村が襲撃されると、人々は徒歩で何百㌔も歩いて逃げることになります。その逃走の間に、汚染された水を飲んで大勢の子どもが命を落としています。しかし私たちの時代には、このような話は共有できる部分が少ないのです。これらの条件が重なって「伝えてもわからないから、伝えない」、そして「伝えられていないから、知らない」という悪循環を生んでいるのが、現状だと思います。

アフリカの記事は0.2%


─人は、どうしても自分から遠いものには、関心をもちにくい。
結局、アフリカの問題は意図的に無視されているというより、社会が作り上げている「常識」が、新聞などのマスメディアや教育界などの情報源に影響を与えているのだと思います。日本の主要な新聞の中で国際記事が占める割合は、日々平均して10%未満です。また、私がある日本の大手全国紙について調査したところでは、その小さいパーセンテージのうちアフリカの記事が占める割合はさらに小さく、2%です。つまり新聞全体からみて、わずか0.2%に過ぎません。

ネット上の情報を活用しよう

─アフリカに関する情報を広く伝えるためには、何が重要でしょうか?

インターネット 上では 、 主に英語ですが重要な情報が発信されています。それを収集することも大事ですが、それとともに 、 アフリカ発の情報発信を充実させていくことも重要です。現地の研究者も 、 世界的にこれだけの情報格差があるとは実感がありません。そこで 、 私は2011年に日本学術振興 会・ 大阪大学の協力を得て 、 SACCPS ( Southern African Centre for Collaboration

o n Peace and Security)という研究ネットワークセンターを開設し、WEBでの情報発信を強めています。これを足がかりに、南部アフリカにおける研究者間の学術コミュニティの連携を強化し、南部アフリカ地域の紛争解決と平和維持に貢献できる研究者間のネットワークを強め、強力な情報発信をすすめるお手伝いができたらと考えています。

─最後に、ホーキンス先生からニューズレター読者へのメッセージを。

日本にも、世界の他の地域にも、我々が意識しない「常識」があります。その「常識」が働くと、人は「命」ではなく「誰の命」か、「ニュース」ではなく「どの場所で起きたニュース」かを問題にします。どうか、「常識」を見直し、違う角度から考えてください。世界の見方が変わってくると思いますよ。そのための情報源は、自分自身で探せる時代になっているのです。


(本記事の内容は、2013年12月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)