\化学×ロボット×AI/太陽電池作製の溶液プロセスを自動化し、多様なパラメータを取得解析する手法を開発

\化学×ロボット×AI/太陽電池作製の溶液プロセスを自動化し、多様なパラメータを取得解析する手法を開発

ペロブスカイト太陽電池素子プロセスへ応用

2026-10-30●工学系
工学研究科教授佐伯 昭紀

研究成果のポイント

  • ロボットを用いた「太陽電池薄膜の溶液成膜プロセスのオートメーション装置」を完全独自開発
  • 溶液から多結晶膜に至るペロブスカイト太陽電池薄膜の変化や環境因子をリアルタイムで数値化し、AI(機械学習)による解析を実際の鉛ペロブスカイト太陽電池素子の作製へ応用
  • 次世代太陽電池だけでなく、溶液プロセスが必要な他分野に応用可能であることから、AI for Scienceやラボオートメーションの分野で先駆的な研究事例となることに期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の角亮佑さん(当時:博士前期課程)、岩井郁也さん(当時:工学部4回生)、西久保綾佑講師、石割文崇招へい准教授(現:東京都立大学准教授)、佐伯昭紀教授の研究グループは、ロボットを用いて次世代太陽電池の溶液成膜プロセスを自動化し、その化学プロセスを各種モニターシステムによりリアルタイム数値化する独自の装置を開発しました。

薄膜作製時の温度・湿度といった環境パラメータだけでなく、スピンコート・貧溶媒滴下・熱アニール時のダイナミックな変化をUSBカメラやハイスピードカメラによってモニターし、これらの多様なデータを機械学習で解析しました。その解析結果を鉛ペロブスカイト太陽電池の素子作製にフィードバックし、24.4%の変換効率を実証しました。

溶液塗布プロセスを用いて作製可能で、低価格化・軽量化が期待できる鉛ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコンなどの無機太陽電池に代わる次世代太陽電池として研究開発が進められています。研究レベルの小面積太陽電池作製における溶液プロセスでは、ペロブスカイト薄膜の前駆体となる溶液をスピンコートし、その途中で貧溶媒を滴下して中間体薄膜を形成し、最後にホットプレートで熱アニールすることで多結晶薄膜を形成します(図1)。しかし、この化学変化は温度・湿度などの環境パラメータが複雑に影響することが知られており、同じ成膜条件でも膜質が大きく変化する問題があります。特に手動での成膜プロセスはばらつきの大きな要因であり、さらに個々の膜の成膜時において、ダイナミックに変化する環境因子やゆらぎはこれまで多くの場合、数値化されることなく見過ごされてきました。

研究グループは、協働ロボットを用いて太陽電池薄膜の溶液プロセスを自動化し、その成膜プロセス中での環境(温度、湿度、酸素濃度、溶媒蒸気濃度)パラメータをリアルタイム観察するだけでなく、USBカメラによるスピンコートおよび熱アニール中の色変化を観察しました。さらに、1秒程度で完了する貧溶媒滴下時の様子をハイスピードカメラで観察できる装置を独自に開発しました(図2)。環境制御のため、この自動薄膜作製装置は環境制御ボックス内に設置しています。さまざまな環境・プロセス条件で作製した鉛ペロブスカイト太陽電池薄膜を、以前開発した別のロボット自動評価装置(光物性、時間分解マイクロ波伝導度、光学顕微鏡像測定)を用いて評価し、これらのデータを機械学習により解析しました。その結果、ペロブスカイトの組成に応じて環境、特に温度の影響が大きく異なることや、貧溶媒滴下の高さと速度が膜物性に大きく影響することを見出しました。

これらの解析結果を基に、実際の鉛ペロブスカイト太陽電池素子作製プロセスに応用したところ、変換効率24.4%の値を得ることができ、独自の自動薄膜作製装置と自動評価装置の有効性を実証しました。

本装置はペロブスカイト太陽電池だけでなく、他の太陽電池半導体薄膜の材料・プロセスにも適用可能です。また、太陽電池に限らず溶液プロセスが必要な分野にも応用でき、AI for Scienceやラボオートメーションの分野で先駆的な研究実施例となることが期待できます。

本研究成果は2026年10月27日(火)にアメリカ化学会誌「ACS Nano」(オンライン)に掲載されました。

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図1. ペロブスカイト太陽電池薄膜の成膜プロセス模式図。

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図2. 溶液プロセスで作製する次世代太陽電池薄膜の自動薄膜作製装置模式図。左上には環境制御のためのボックス内に設置した写真を示す。

研究の背景

人類共通の問題である地球温暖化対策に対して、太陽電池などの再生可能エネルギーに大きな期待と研究開発リソースが集まっています。その中でも溶液プロセスが可能な鉛ペロブスカイト太陽電池は、すでに実用化されている結晶シリコン太陽電池と同程度まで変換効率が向上し、世界中の研究機関や企業で大面積パネルの製造や実証実験がすでに行われています。しかし、製造プロセスでの歩留まりや素子の耐久性、大面積モジュールにおける均一性など多くの課題が残されています。特に温度・湿度は成膜プロセスに大きな影響を与えることがよく知られており、それらを排除・制御したグローブボックス内での成膜が理想であるものの、製造コストの増大にもつながってしまいます。よって、ある程度の温度・湿度下での成膜プロセスの検討も必要であり、そのような条件下における、ペロブスカイト太陽電池に特有の「溶液~中間状態~多結晶膜」転換過程の基礎的な機構と因果関係の解明が望まれます。

本研究グループはこれまでに、協働ロボットを用いた太陽電池薄膜の自動評価装置を独自開発し、ハイスループット計測と高精度化に成功しています。今回、これに加えて新たに自動薄膜作製装置を開発し、次世代太陽電池材料の研究開発を加速させるプラットフォームの構築に挑みました。

研究の内容

自動薄膜作製装置は、
① 太陽電池前駆体溶液や貧溶媒をストック・開封さらにはピペッターで自動滴下する溶液システム
② 基板の搬送や溶液滴下を行うロボット
③ 成膜前と後の基板をストックするベルトコンベアー
④ スピンコーターとホットプレートからなる薄膜作製システム
⑤ 環境パラメータ(温度、湿度、溶媒蒸気、酸素濃度)と動的パラメータ(色変化、貧溶媒液滴)をリアルタイム計測するモニターシステム
から構成されています。これらはすべて独自開発したソフトウェアで制御されています。

この自動薄膜作製装置は120 cm×75 cmの実験台の上で、温度・湿度・酸素濃度を制御できる環境制御ボックス内に設置しました。溶液プロセスでは一般に、溶液の種類・濃度および組成、スピンコート回転数とその時間、貧溶媒滴下のタイミング・滴下量・滴下時間(=速さ)と滴下高さ、といったプロセスパラメータの最適化が必要となってきます。特に貧溶媒滴下は手動では再現性に問題があるため、自動化することには大きなメリットがあります。さらに、上記の環境パラメータと動的パラメータを各薄膜に対して取得することで、プロセスインフォマティクスに必要な多様なデータを取得することに成功しました。

温度・湿度といった環境や貧溶媒プロセス条件を変えた鉛ペロブスカイト太陽電池薄膜を400枚以上作成し、機械学習で解析した結果、ペロブスカイトの組成と添加剤に応じて温度の影響が異なること、また貧溶媒滴下の高さ、すなわち滴下速度が膜の過渡伝導度信号や発光強度に大きな影響を与えていることが判明しました。その結果を基に実際の素子作製と評価を行ったところ、最高で24.4%の変換効率を得ることに成功し、自動薄膜作製装置と自動評価装置を組み合わせたラボオートメーションシステムと機械学習解析の有効性を実証しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ラボオートメーションは大学の研究室だけでなく、企業での研究開発でも近年高い期待が集まっています。ロボットは日本が得意とする産業の一つであり、そのハードだけでなく機械学習やデータ処理などのソフト面に加えて、これまで長年蓄積してきた基礎科学や製造技術を基に世界を先導できる分野です。溶液プロセスは次世代太陽電池だけでなく、他の分野でも重要なプロセスであり、本研究成果は今後さまざまな場面への展開が期待できます。

特記事項

本研究成果は2026年10月27日(火)にアメリカ化学会誌「ACS Nano」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Automated Perovskite Film Fabrication with High-Resolution Data Acquisition and Machine Learning Analysis”
著者名:Ryosuke Kado, Fumiya Iwai, Ryosuke Nishikubo, Fumitaka Ishiwari, Akinori Saeki
DOI:https://doi.org/10.1021/acsnano.6c11386

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CREST「未踏物質探索」(JPMJCR23O2)、JST未来社会創造事業(JPMJMI22E2)、NEDOグリーンイノベーション基金(JP21578854)JSPS科学研究費補助金(JP20H05836、JP24H00484)、大阪大学・先導的学際研究機構(ICS-OTRI)の一環として行われました。

本自動システムの稼働の様子は、以下のYouTube動画でもご覧いただけます。

参考URL

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイトは、自然界にも存在するCaTiO₃(チタン酸カルシウム)などの結晶の構造を指している。2009年に有機・無機カチオン(A)、鉛などの無機カチオン(B)、ハライドなどのアニオン(X)からなるABX₃結晶構造を用いた湿式太陽電池が登場し、その後の2012年に登場した全固体型太陽電池がペロブスカイト太陽電池と呼ばれている。

スピンコート

基板の回転を使って、溶液から1~1000 nm(nm = ナノメートル、1 nmは10億分の1メートル)程度の薄膜を基板上に作成する手法。溶液を基板に滴下した後1000~5000 rpm(rpm = rotation per minute, 1分間の回転数)程度で数秒~数分間回転させることで、遠心力による溶媒の除去と蒸発を行う。

貧溶媒滴下

ペロブスカイト前駆体溶液は構成物質が溶解した状態だが、この構成物質が溶けにくい溶媒(=貧溶媒)をスピンコート中に滴下することで一気に沈殿させて中間体薄膜を形成するプロセス。滴下のタイミングや量は重要なパラメータとなる。

変換効率

太陽電池が光エネルギーを電力に変換するときの効率。(疑似)太陽光照射下で、電力(電流×電圧)の最大値を、入射太陽光エネルギーで割ることで求められる。

自動評価装置

佐伯教授らが2023年に報告した、光物性(光吸収、光発光)、時間分解マイクロ波伝導度(電極レスで光照射時の過渡伝導度を測定する手法)、光学顕微鏡像を自動で評価できるロボットを用いた独自の装置。

プレスリリース

https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20231025_2

YouTube動画

https://youtu.be/qqHKA41UtRY

プロセスインフォマティクス

本研究で対象とした薄膜だけでなく、さまざまな形態・製品を作製する製造工程(プロセス)を最適化・効率化する技術。AI、機械学習、データサイエンス、シミュレーション、データ取得など多くの技術を統合する。