
指定難病「ベーチェット病」における補体古典経路を介した炎症メカニズムの解明
好中球性血管炎の新たな治療標的の提示
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院医学系研究科の糸田川英里招へい教員(呼吸器・免疫内科学)、鈴木祥代共同研究員(中外製薬株式会社)、加藤保宏招へい教員(呼吸器・免疫内科学)、楢﨑雅司特任教授(常勤)(先端免疫臨床応用学共同研究講座)、熊ノ郷淳総長らの研究グループは、「ベーチェット病」において、免疫システムの一部である「補体(ほたい)」の古典経路という仕組みが活性化し、炎症の主役である「好中球(こうちゅうきゅう)」を暴走させて血管炎を引き起こしている可能性があることを世界で初めて突き止めました。
本研究グループは、血液から組織までを多層的に調べる最新のマルチモーダル解析を駆使しました。その結果、補体の活性化マーカーである「活性柄C1s」が病気の勢いと連動していることや、好中球や単球がII型インターフェロンの刺激を強く受けていることを突き止めました。これまで治療が難しかったベーチェット病の炎症を抑える強力な武器となることが期待でき、ベーチェット病の治療戦略を大きく変える可能性を持っています。
本研究は、大阪大学と中外製薬株式会社による共同研究として実施しました。
本研究成果は、日本炎症・再生学会誌「Inflammation and Regeneration」に、9月14日(月)に公開されました。
ベーチェット病の好中球炎症と補体古典経路
研究の背景
ベーチェット病は、口内炎、皮膚症状、目の炎症(ぶどう膜炎)、陰部潰瘍を主症状とし、重症化すると脳や血管、腸管に深刻なダメージを与える全身性の難病です。これまでの研究でも「補体」という免疫タンパク質が関わっていることは示唆されていました。しかし、補体の活性化には複数の経路があり、似たような血管炎(ANCA関連血管炎など)では「第2経路」という経路が関わっていることが知られていますが、ベーチェット病において「どの経路が、どの細胞や組織で炎症に関与するか」は明らかになっていませんでした。
研究の内容
主な解析手法
· 血清タンパク質プロファイリング: 血液中のサイトカインなどのタンパク質成分を精密に測定。
· シングルセルRNA解析(scRNA-seq): 一つひとつの細胞の遺伝子の働きを調べる最新技術。
· 組織免疫染色: 炎症が起きている皮膚組織を染めて、成分の配置を視覚的に確認。
主要な発見
1. 血液中の異変: 症状が重い活動期の患者さんでは、補体古典経路が動いた証拠である「活性型C1s」という成分が上昇し、炎症マーカー(CRP)と強く連動していることを発見しました。
2. 好中球の活性化準備:シングルセル解析により、ベーチェット病の好中球は「II型インターフェロン(IFN-γ)」という物質の刺激を強く受け、活性化しやすい状態にあることを特定しました。
3. 単球の活性化: 免疫細胞の一種である「単球」の中で、EGR1(免疫刺激に素早く反応して誘導される遺伝子)を高く発現する細胞集団が疾患活動期の患者さんで増加していることがわかりました。
4. 組織と脳脊髄液での炎症: 皮膚の血管の周りに「C1q」と「C3」という補体成分が沈着し、そこに好中球が集まっている様子を画像で捉えました。また、脳脊髄液の中のマクロファージでも補体関連の遺伝子が活発に働いていることがわかりました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究では、ベーチェット病において「補体古典経路」の活性化が好中球性炎症と関連する可能性があることを示しました。この成果は、疾患ごとの病態に応じた副作用の少ない効果的な治療薬を選ぶために極めて重要です。この経路を阻害する薬が、これまで治療が難しかったベーチェット病の炎症を抑える強力な武器となることが期待でき、ベーチェット病の治療戦略を大きく変える可能性を持っています。
特記事項
本研究成果は、2026年9月14日(月)に日本炎症・再生学会誌「Inflammation and Regeneration」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Complement profiling and neutrophil single-cell analysis reveal inflammation via the classical complement pathway in Behçet's syndrome”
著者名:Eri Itotagawa1,2,3, Sachiyo Suzuki⁴, Yasuhiro Kato1,2,3,5*, Kei Nishimura3,6, Hiroaki Matsushita3,6, Ichio Onami⁴, Noriko Arase⁷, Shoichi Metsugi3,6, Atsuo Kurata⁴, Kazuki Sato⁶, Kasumi Takahashi⁸, Fumie Sawamura⁸, Ken Ohmine⁴, Kohei Tsujimoto1,2,3, Masayuki Nishide1,2,3, Ikuko Ueda-Hayakawa⁷, Soichiro Haruna7,9, Manabu Fujimoto⁷, Masashi Narazaki1,2,3, Atsushi Kumanogoh1,2,10,11,12,13*
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器内科・免疫内科学
2. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 感染病態分野
3. 大阪大学大学院医学系研究科 先端免疫臨床応用学
4. 中外製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ本部
5. 信州大学 医学部医学科 内科学第三教室(脳神経内科・リウマチ膠原病内科)
6. 中外製薬株式会社 研究本部
7. 大阪大学 大学院医学系研究科 皮膚科学
8. 株式会社中外医科学研究所
9. 大阪大学 微生物病研究所 ゲノム情報解析分野
10. 大阪大学 先導的学際研究機構(OTRI) 生命医科学融合フロンティア研究部門
11. 大阪大学 感染症総合教育研究拠点(CiDER)
12. 日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)
13. 大阪大学 ワクチン開発拠点 先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)
DOI:https://doi.org/10.1186/s41232-026-00446-0
本研究は、ピースウィンズ・ジャパン、文部科学省(MEXT)、日本学術振興会(JSPS)、日本医療研究開発機構(AMED/AMED-CREST)、科学技術振興機構(JST)の支援を受けて実施されました。また、本研究内容は中外製薬株式会社との共同研究講座である大阪大学医学系研究科先端免疫臨床応用学講座との共同研究成果であり、遂行にあたり同社から研究資金の提供を受けています。
参考URL
用語説明
- ベーチェット病
全身に炎症を繰り返す指定難病。口内炎、皮膚症状、目の炎症のほか、神経や血管が侵されることもあります。
- 補体
血液中のタンパク質で、病原体の排除などに働く免疫システムの一部です。しかし暴走すると、炎症を引き起こし、自分自身の細胞や組織を傷つけることがあります。
- シングルセルRNA解析(scRNA-seq)
数万個の細胞を一つずつバラバラにして、それぞれの細胞がどのような遺伝子を発現しているか読み取る最新技術。
