爆食いの巨大ブラックホールが生み出す「ジェット」の起源の解明へ

爆食いの巨大ブラックホールが生み出す「ジェット」の起源の解明へ

2026-10-20●自然科学系
理学研究科助教川室 太希

研究成果のポイント

  • 大量の物質を呑み込む「爆食い状態」の巨大ブラックホールが、光の速さに近い超高速のジェットをどうやって噴き出すのかは大きな謎でした。
  • 強力なジェットを放つ巨大ブラックホールを対象に、X線分光撮像衛星XRISM(クリズム、以下XRISM)と国際電波望遠鏡ネットワークによる世界初の同時観測に成功しました。
  • ブラックホールの手前(ブラックホール半径の約20倍の地点)で冷たいガス円盤が途切れて数億度もの灼熱のプラズマ流へと姿を変え、その内側からジェットが細く絞り込まれて噴き出す構造を確認しました。ブラックホールが自転エネルギーを使ってジェットを駆動する仕組みの解明に向けた歴史的な一歩です。

概要

銀河の中心の巨大ブラックホール近傍から光速近くで噴き出すジェットは、銀河の形成や進化において重要な役割を果たします。しかし、大量の物質を呑み込むブラックホールがどのようにジェットを噴き出すのかは大きな謎でした。

東北大学の野田博文准教授、名古屋市立大学の秦和弘准教授らの研究グループは、巨大ブラックホール3C120(地球からおうし座の方向に約4億2000万光年離れている太陽の6千万倍の質量の天体)を対象に、最新鋭のX線分光撮像衛星XRISMと、世界最高峰の解像度を誇る国際電波望遠鏡ネットワークによる世界初の同時観測を実施しました。観測の結果、ブラックホールの手前(ブラックホール半径の約20倍の地点)で冷たい円盤が途切れ、ブラックホールの自転エネルギーを取り出す理論から求められる数億度の灼熱のプラズマ流に姿を変えることを突き止めました。そして、理論通り、その内側からジェットが噴き出す空間構造を解明しました。

本研究成果は、米国の天体物理学専門誌 The Astrophysical Journal Letters誌に2026年10月19日17時(日本時間)に掲載されました。

研究の背景

宇宙に数多く存在する銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍という桁違いの重さを持つ巨大ブラックホールが潜んでいます。その中には、光の速さに迫る勢いでジェットと呼ばれるガスの流れを猛烈な勢いで噴き出しているものがあります。このジェットは周囲の銀河の形成や進化にも深く関わっていますが、一体どうやって生み出されているのかは宇宙物理学に残された大きな謎の一つであり、長年盛んに研究されてきました。

有力な説として、ブラックホールとその周囲を貫く磁場を介してブラックホールの自転エネルギーを取り出すことでジェットを噴き出す仕組みが考えられています。ブラックホールが高速で回転していると、周囲の磁場を巻き込みます。磁場はまるで強くねじり上げられたゴムのようにエネルギーを溜め込み、それが解き放たれることで周囲のガスを超高速で押し出すことができるためです。しかし、大量の物質を急速に呑み込む「爆食い状態」のブラックホールでは、周囲から次々と集まってきた物質が隙間なく密集し、熱が放射によって効率よく外に吐き出されることで冷やされます。その結果、物質が冷たい円盤状になりながらブラックホールのすぐ近くまでびっしりと広がるため、その物質に邪魔されて、ジェットを作るのに必要な磁場が蓄えられないと考えられてきました。そのため、「大量の物質を呑み込みながら、なぜ強力なジェットを生み出せるのか?」という大きな矛盾が生じていたのです。

研究の内容

東北大学大学院理学研究科 野田博文 准教授、名古屋市立大学大学院理学研究科 秦和弘 准教授らの研究グループは、1年間に地球約10万個分もの大量の物質(吸い込める理論上の限界に迫る量)を呑み込みながら強力なジェットを放つ巨大ブラックホール3C120を対象に、日本の最新鋭のX線衛星XRISMと、最高レベルの視力を誇る国際電波望遠鏡ネットワークを組み合わせた世界初の同時観測を実施しました。

XRISMが捉えたX線を精密に分析したところ、ブラックホールの強い重力の影響(一般相対性理論の効果)によって光の波長が引き伸ばされていることがわかりました(図1左上)。これを詳しく解析した結果、ブラックホールの手前(ブラックホール半径の約20倍の距離)で冷たい円盤が途切れ、数億度に達する灼熱のプラズマ流へと姿を変えていることが判明しました(図1下)。ブラックホール近傍の描像に新しい知見を与える成果です。同時に、国際電波望遠鏡ネットワークでジェットの形を詳しく調べたところ、ブラックホールに近づくほど細く絞り込まれており、その根元までたどっていくと、XRISMで見つけた灼熱のプラズマ流のさらに内側(ブラックホールの直上)から噴き出していることが判明しました(図1右上)。この発見により、長年のパズルが見事に解けました。冷たいガスの円盤がブラックホールの手前で途切れ、磁場を効率よく蓄えられる灼熱のプラズマ流に変わっていたため、ブラックホールの自転パワーを使ってジェットを勢いよく噴き出せる条件を満たしていることが観測的に示されたのです。

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図1. (左上)XRISMで精密に測定したブラックホール周辺からのX線の「色」。白と青のデータはXRISMに搭載された異なる観測装置による結果。一般相対性理論の効果で波長が引き伸ばされ、X線の色が変化していたことを突き止めた。(右上)グローバルミリ波VLBI観測網による波長3ミリ帯で得られたジェットの画像。(下)爆食いの巨大ブラックホール周辺の想像図。冷たく平たいガス円盤がブラックホール半径の約20倍の地点で途切れ、灼熱のプラズマ流に姿を変え、その内側からジェットが形成されている。

今後の展開

今回の成果は、巨大ブラックホールがどうやって自転エネルギーを取り出しているのかというアインシュタインの相対性理論にも関わる極限状態の物理を解明する大きな一歩です。今後は、さらにXRISMや次世代のX線天文台と国際電波望遠鏡ネットワークの連携を強め、理論・数値シミュレーションとも詳細に比較・検証を進めていくことで、巨大ブラックホール近傍の描像が確立されていくことが期待されます。また、ブラックホールによって駆動されるジェットが吹き荒れると、周囲の銀河の形成や進化、宇宙の成り立ちにも大きな影響を与えます。本研究は、ブラックホールが激しく物質を呑み込み、銀河と互いに影響を与えながら急成長を遂げていた「宇宙が最も活発だった時代」の謎を解き明かす上でも重要な鍵になることが期待されます。

特記事項

【論文情報】
タイトル:Disk truncation triggers relativistic jet launching of a highly accreting supermassive black hole
著者:Hirofumi Noda*,1, Kazuhiro Hada*,2, Hiroto Maruyama2, Taishu Kayanoki3, Kenji Toma1, Taiki Kawamuro4, Yoshiyuki Inoue5, Tomohisa Kawashima6, Soyeon Yeo8, Ilje Cho9, Keiichi Asada10, Yasushi Fukazawa11, Yoshihiro Ueda7
1. 東北大学:野田博文 准教授、當真賢二 教授
2. 名古屋市立大学:秦和弘 准教授、丸山大翔 大学院生
3. 宮崎大学:榧木大修 助教
4. 大阪大学:川室太希 助教
5. 芝浦工業大学:井上芳幸 教授
6. 一関工業高等専門学校:川島朋尚 准教授
7. 京都大学:上田佳宏 教授
8. 延世大学(韓国):Soyein Yeo 大学院生
9. 慶北大学校(韓国):Ilje Cho 助教
10. 台灣中央研究院天文及天文物理研究所(台湾):浅田圭一 副研究員
11. 広島大学:深沢泰司 教授
*責任著者:Hirofumi Noda, Kazuhiro Hada
東北大学大学院理学研究科天文学専攻
准教授 野田 博文(のだ ひろふみ)
名古屋市立大学大学院理学研究科
准教授 秦 和弘(はだ かずひろ)
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters
DOI:10.3847/2041-8213/aeaa2c
URL:https://doi.org/10.3847/2041-8213/aeaa2c

本研究はJSPS科学研究費助成事業(JP23K20239, JP24K00672, JP25H00660, JP26K21725, JP22K18277, JP25KJ1868, JP26H00604, JP26K22331, JP24K00673) および JST 創発的研究支援事業 JPMJFR256L の支援を受けて行われました。また本論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、オープンアクセスとなっています。

用語説明

XRISM(クリズム)

X線分光撮像衛星 X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission(XRISM)はJAXAが主導し、米国航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)および国内外の大学・研究機関が協力して開発したX線天文衛星。2023年9月7日にH-IIAロケット47号機で打ち上げられました。X線の色(波長・エネルギー)をこれまでにない高い精度で見分けることができる、最新鋭のX線検出器を搭載しています。

国際電波望遠鏡ネットワーク

世界各地の電波望遠鏡をつなぎ、実質的に地球サイズの巨大な望遠鏡と同等の極めて高い解像度(視力)を実現する観測手法。本研究では、グローバルミリ波VLBIアレイ(GMVA:波長3ミリ帯。米国・欧州・チリ・韓国・グリーンランドから計18局参加)、米国超長基線アレイ(VLBA:波長 7ミリ帯と2センチ帯。米国から計10局参加)、東アジアVLBI観測網(EAVN:波長1センチ帯。日本・韓国・中国から計10局参加)といった国際的な観測網が使用されました。