制御性T細胞の発生を促進する新たなタンパク質を発見

制御性T細胞の発生を促進する新たなタンパク質を発見

自己免疫疾患に対する画期的な治療法開発に期待

2026-10-15●生命科学・医学系
免疫学フロンティア研究センター(IFReC)特任准教授(常勤)市山 健司

研究成果のポイント

  • 胸腺において制御性T細胞 (Treg)が胸腺細胞から発生(分化)する際に、クロマチン制御因子MBD3が、転写活性化によりCD25発現を誘導し、Treg前駆細胞(Pre-tTreg)への分化を促進することで胸腺Tregの発生に寄与することを明らかに。
  • Tregの分化には、転写因子であるFoxp3の発現だけでなく、Treg特徴的なエピジェネティック制御が重要であるが、その詳細な分子機構は不明であった。
  • T細胞においてMBD3を欠損するマウスは、胸腺Treg分化の選択的阻害を介して、致死的な多臓器自己免疫疾患を引き起こすことを発見。MBD3が胸腺Tregの分化過程において、Il2ra遺伝子座のTreg特異的エンハンサーを介して転写を活性化することで、CD25の発現を誘導することを見出した。
  • 胸腺TregのIL-2/CD25シグナル依存性を標的とした新たな分化制御法が将来的に確立されれば、様々な免疫関連疾患に対する画期的な治療法の開発につながることが期待される。

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センター (WPI-IFReC) のLong Jia特任研究員(常勤)、市山健司 特任准教授(常勤)、坂口志文 特任教授(常勤)らの研究グループは、クロマチン制御因子であるMBD3が胸腺Treg分化過程において、Treg特異的なIl2raエンハンサーを介した転写活性化によりCD25発現を誘導し、Treg分化を促進することを見出しました。

これまで、Treg特異的なエンハンサー形成の異常がTreg分化不全を介して自己免疫疾患を引き起こすことを報告してきましたが、一般的なエピジェネティック制御機構の異常が、なぜ他のT細胞よりも選択的にTreg分化を障害するのかは不明でした。

研究グループは、T細胞特異的にMBD3を欠損させると、胸腺Tregの分化が選択的に障害され、マウスが致死的な多臓器自己免疫疾患を発症することも明らかにしました。

この結果から、IL-2/CD25シグナルへの依存度が高い胸腺Tregは、他のT細胞集団と比較してエピジェネティックな制御異常の影響を受けやすい可能性が示唆されました(図1)。今後、Tregの高いIL2/CD25シグナル依存性を標的とした免疫応答制御法の開発が期待されます。

本研究成果は、2026年10月15日(木)(日本時間)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(オンライン)に掲載されました。

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図1. 本研究成果の概要
胸腺において、TregはCD4陽性細胞から、CD25陽性Treg前駆細胞(Pre-tTreg)を経て、最終的にFoxp3を発現した胸腺Tregへと分化する。MBD3欠損により、Treg特異的なIl2raエンハンサー(CaRE3)のクロマチンアクセシビリティが低下し、CD25の発現が抑性されることでPre-tTregへの分化障害が生じる。その結果、胸腺Tregの割合が減少し、免疫寛容が破綻することでマウスが致死的な多臓器自己免疫疾患を発症する。

研究の背景

Tregは免疫自己寛容の確立・維持に必須であり、大部分は胸腺で分化します。Treg分化には、Treg特異的転写因子Foxp3に加え、エピジェネティック制御が重要であり、これらがTreg系列への分化と機能的安定性を規定することが知られています。これまでに我々は、Treg特異的なエンハンサー形成の異常がTreg分化不全を介して自己免疫疾患を引き起こすことを報告してきました。しかし、一般的なエピジェネティック制御機構の異常が、なぜ他のT細胞よりも選択的にTreg分化を障害するのかは不明でした。

研究の内容

TregにおけるMBD3の役割を明らかにするため、T細胞特異的にMBD3を欠損する遺伝子改変マウス (Cd4CreMbd3f/f マウス) を作製し、その表現型を解析したところ、Cd4CreMbd3f/fマウスは野生型マウス(Cd4Cre)と比較して早期に死亡することが明らかとなりました(図2A)。そこで、早期死亡の原因を探るため、膵臓や肺、胃に存在するリンパ球の数をヘマトキシリン・エオジン染色 (HE染色)により測定した結果、Cd4CreMbd3f/fマウスの各種組織では顕著な炎症細胞浸潤が認められました(図2B)。

さらに、Cd4CreMbd3f/fマウスの血中では自己抗体の過剰産生も確認できたことから、Cd4CreMbd3f/fマウスは自然発生的に多臓器自己免疫疾患を発症することが示唆されました。Cd4CreMbd3f/fマウスが自己免疫疾患を発症したことから、このマウスの胸腺におけるTregの割合を確認したところ、Cd4Creマウスと比較してCd4CreMbd3f/fマウスではTreg前駆細胞およびTregの割合が減少することを見出しました(図2C)。このことから、MBD3が欠損すると胸腺Tregの分化が障害され、その結果、自己免疫疾患を発症する可能性が示唆されました。

次に、Cd4CreMbd3f/fマウスでは、CD25陽性であるTreg前駆細胞への分化障害が認められたため(図2C)、MBD3がCD25の発現を制御すると予想し、Il2ra遺伝子のエピジェネティック制御におけるMBD3の役割を検証しました。その結果、MBD3はTreg特異的なエンハンサーであるCaRE3に結合すること、そしてMBD3欠損細胞では、CaRE3におけるクロマチンアクセスビリティおよびエンハンサー活性が顕著に低下することが明らかになりました(図2D,E)。以上の結果から、MBD3はTreg分化の初期段階で、Il2ra遺伝子のTreg特異的エンハンサーのクロマチン構造をオープン型にリモデリングし、転写活性の増強を介してCD25の発現を促進することが示唆されました。

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図2. T細胞特異的MBD3欠損マウスの表現型解析
A) 各種マウスの生存曲線。MBD3欠損マウス(赤線)は野生型マウス(黒線)と比較して早期に死亡する。B) 各種組織に浸潤したリンパ球のHE染色。MBD3欠損マウス(下段)は野生型マウス(上段)と比較して多くの炎症細胞浸潤が見られる。C) 胸腺におけるTreg前駆細胞(右下枠)およびTreg (右上枠)の割合。MBD3欠損マウスではTreg前駆細胞およびTregの割合が減少する。D,E) Il2ra遺伝子座のエピゲノム状態。MBD3はTreg特異的エンハンサーであるCaRE3に結合する。またMBD3欠損により、CaRE3のクロマチンアクセスビリティおよびエンハンサー活性が低下する。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

2025年の坂口志文教授のノーベル生理学・医学賞の受賞以降、Tregに対する関心はますます高まっており、その分化や機能を制御する分子機構の解明を目指した基礎研究に加え、Tregを操作および標的とする治療法の開発など、臨床応用に向けた研究も世界的に注目が集まっています。本研究成果に基づいて、Tregのシグナル依存性を標的とした分化制御法が確立されれば、自己免疫疾患を中心とした様々な免疫関連疾患に対する画期的な治療法の開発に繋がることが期待できます。

特記事項

本研究成果は、2026年10月15日(木)(日本時間)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Autoimmunity induced by epigenome alteration affecting thymic Treg cell development” 著者名:Jia Long, Jun Huang, Masaya Arai, Yamami Nakamura, Norihisa Mikami, Kenji Ichiyama* and Shimon Sakaguchi* (*; corresponding)
DOI: https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2626262123

なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS)(16H06295、24H00610、24K02295)、日本医療研究開発機構(AMED)(18gm0010005)、日本科学技術振興機構(JST)(JPMJSP2138)、大塚製薬株式会社、第一三共生命科学研究振興財団の支援を受けて行われました。

参考URL

坂口 志文特任教授(常勤) 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/87e0a33bb0edd031.html?k=sakaguchi%20shimon

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

制御性T細胞 (Treg)

積極的に抑制性の応答を促すCD4陽性ヘルパーT (Th)細胞の一種。胸腺で分化し、免疫自己寛容の確立・維持において中心的な働きを担っており、自己免疫応答や腫瘍免疫など、あらゆる免疫応答の抑制的制御に関与する。

MBD3

クロマチンリモデリングやヒストン脱アセチル化を担うタンパク質複合体の構成因子として、遺伝子発現や細胞分化を制御するエピジェネティック制御因子。

Foxp3

Tregの分化および機能に必須の転写因子。核内で様々な遺伝子の発現をコントロールし、T細胞に免疫抑制能を付与する。

エピジェネティック制御

DNA配列そのものを変化させることなく、DNAメチル化やヒストン修飾、クロマチン構造などを制御して、細胞特異的な遺伝子発現状態を構築する仕組み。

Il2ra遺伝子座

Tregで高発現するCD25(IL-2受容体の構成因子の一つ)をコードするIl2ra遺伝子が位置するゲノム上の領域のこと。

エンハンサー

特定の遺伝子の発現を促進するDNA領域のこと。転写因子などが結合することで、その遺伝子の転写を調節する。

ヘマトキシリン・エオジン染色

組織切片をヘマトキシリンとエオジンで染色し、細胞核や細胞質、組織構造を可視化することで、組織の形態や病理学的変化、炎症細胞の浸潤を評価する方法。