
\食物アレルギーがあっても、安心して外食できるか?/大手外食100ブランドの約8割がアレルゲン情報を公開も、更新状況等に課題
小麦は約8割もの料理に使用され、外食利用の大きな制約に
研究成果のポイント
- 国内の大手外食チェーン100ブランドの公式サイトを調査することで、アレルゲン情報の公開状況と、各ブランドが提供している料理に含まれる特定原材料の割合を明らかに。
- 食物アレルギーがある人にとっては、外食先を選ぶ際、アレルゲン情報が公開されているかどうか、またそもそもアレルゲンが含まれていない料理があるかは大きな問題。
- 日本の大手外食チェーン100ブランドのうち、78ブランドが公式HP上にアレルゲン情報を公開。ただし、うち19ブランドは情報更新日の記載がない又は半年以上前の日付を記載。また、うち23ブランドは品目表示に改善の余地があるなど、掲載範囲と更新状況に様々な課題。
- アレルゲン情報が開示されている料理のうち、卵・乳を含むものはそれぞれ約4割以上、また小麦を含む料理は約8割を占めており、小麦アレルギーのある人にとって選べる料理が限られる状況。
- 食物アレルギーがある人が利用できる外食の選択肢を広げるためにも、外食産業におけるアレルゲン情報表示を強化する重要性と注意点を具体的に示す基礎資料となることに期待。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の磯野萌子助教、公立鳥取環境大学の磯野誠教授らの研究グループは、国内の大手外食チェーン100ブランドの公式サイトを調査し、アレルゲン情報の公開状況と、各ブランドが提供している料理に含まれる特定原材料の割合を明らかにしました。
食物アレルギーがある人にとって、外食は誤食リスクによるアナフィラキシーの問題だけでなく、家族や友人との交流や行動範囲にも関わる問題です。これまでの研究は、安全性に重点が置かれており、患者の視点から外食の利用可能性を捉える研究は限られていました。
本研究の結果、78ブランドが公式ウェブサイト上でアレルゲン情報を公開していました。一方、開示される品目や情報の更新状況はブランドごとに隔たりがあり、今後の改善の必要性が示されました。
また、アレルゲン情報を開示している66ブランドの料理を分析した結果、小麦・卵・乳を含む料理は、それぞれ約4割以上を占めていました。特に小麦を含む料理は約8割を占めており小麦アレルギーのある人にとって、外食時に選べる料理が限られる状況が示されました。
本研究は、外食事業者によるアレルゲン情報提供の充実、指定品目の変更を踏まえた情報更新、成人を含む食物アレルギーのある人への対応の必要性などを提示する基礎資料となります。そして、患者の生活の質(QOL)や心理社会的な負担にも着目することで、誤食防止と利用機会の拡大に貢献することが期待されます。
本研究成果は、学術誌「アレルギー」75巻5号に10月10日に掲載されました。
図1. 外食大手100ブランドのアレルゲン情報の開示状況
研究の背景
日本での食物アレルギー患者の正確な人数は不明ですが、食物アレルギーは乳幼児の5-10%にみられ、学童期や成人にも一定数みられます。食物アレルギーがある人にとって、外食は誤食リスクによるアナフィラキシーの問題だけでなく、家族や友人との交流や行動範囲にも関わる問題です。利用できる飲食店があるかどうかには、「アレルゲン情報を事前に入手できるか」「原因となる食品を含まない料理がどれくらいあるか」が大きく影響すると考えられます。
日本では、容器包装された加工食品では特定原材料の表示が義務付けられています(アレルゲン表示が義務・推奨されている品目は表1参照)。一方、飲食店で提供される料理には同様の表示義務はありません。消費者庁は、事業者による自主的な情報提供を促進しています。こうした状況の中で、これまでの研究は、誤食防止や店舗の対応体制など、安全性に重点が置かれてきました。一方、患者の視点から外食の利用可能性を捉える研究は限られていました。そこで本研究では、大手外食チェーンを対象に、情報公開の状況と料理に含まれるアレルゲンという二つの側面を調べました。
表1. 2026年4月1日時点の特定原材料及び特定原材料に準ずるもの
研究の内容
1. 100ブランドの公式サイトと66ブランドの料理を分析
「会社四季報 業界地図2025年版」に掲載の外食大手の100ブランドを対象に、主として2025年5月22日~8月6日に調査を実施しました。100ブランドを対象に、アレルゲン情報の有無・項目・更新日などを確認しました。さらに、データを機械的に可読な形に取得できた66ブランド・10,453品目については原材料の使用頻度も集計しました。使用頻度の集計の際には、デザート、ドリンク、テイクアウト商品、地域・店舗限定メニュー、調味料類は除外しています。
2. 多くのブランドが情報を公開する一方で、掲載範囲と更新に課題
ウェブサイト上でアレルゲン情報を公開していた78ブランドのうち、19ブランドは更新日の記載がない又は半年以上前の更新日となっており、情報の更新状況に課題が見られました。「特定原材料」と「特定原材料に準ずるもの」は定期的に品目改訂が行われていますが、表示対象の品目が明示されていない、又は情報更新日時点の「特定原材料」と「特定原材料に準ずるもの」の品目と一致していないなど、品目表示に改善の余地がある例も78ブランド中23ブランドで見られました(表2)。
業態別では、居酒屋でアレルゲン情報の提供などを確認できたのは24ブランド中12ブランド(50%)で、他の業態より低い結果でした。
3. 小麦を使用していると表示された料理は、ブランド平均79.7%。複数の食品を避ける場合にも制約
各ブランドで、対象料理のうち当該原材料を使う料理の割合を求めました。66ブランド・10,453品目の公開情報を分析したところ、小麦を使用していると表示された料理は、ブランド平均で79.7%でした。続いて、卵は45.5%、乳41.9%使用されていました。これらは、各ブランドで算出した割合を平均した値です。また、複数の食品を使わない料理の割合も低く、小麦・卵・乳のすべてを原材料として使用していない料理は、ブランド平均で16.4%でした(表3)。
特に小麦の含有表示の解釈には注意を向ける必要があります。「食物アレルギー診療ガイドライン2021」では、小麦アレルギーがある患者のうち殆どの人が、醤油に含まれる小麦は摂取可能であることが示されています。本研究でも、「小麦(醤油由来)」と「その他小麦」に分けている4ブランドを分析した結果、多くの料理に醤油由来の小麦を含んでいるものの、それ以外の形の小麦の使用は限定的であることがわかりました。これは、小麦アレルギーがある患者にとって、現在のアレルゲン情報が外食先を選ぶ上で十分に有効な情報になっていない可能性を示しています。
なお補足資料として、「小麦(醤油由来)」と「その他小麦」を分けて表示していた4ブランドについて、「その他小麦」だけを除去する場合にどの程度食べられる料理が増えるのかの割合は、著者researchmap「大手外食チェーンのアレルゲン表調査:補足データと解説(「アレルギー」掲載論文)」に掲載しています。
4. 結果の解釈にあたっての留意点
本研究は各ブランドが公開している表示を用いた集計であり、料理の成分を実測したものではありません。コンタミネーションのリスクは使用頻度に含めていないため、「原材料として使われていない」ことは、「すべての患者が安全に食べられる」ことを意味しません。また、主食・主菜・副菜の別は分析しておらず、料理の割合がそのまま一食の選択肢を示すわけではありません。
表2. 公式ウェブサイトでのアレルゲン情報の掲載状況
表3. 卵・乳・小麦の各組み合わせを原材料として使用していない料理の割合(66ブランドの平均)
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
これまで食物アレルギーがある人や医療者が経験的に認識してきた外食の制約を、情報公開状況と原材料の使用頻度から数値で示しました。特に、今回の研究では情報更新の遅れの現状が明らかになりましたが、食物アレルギーがある人にとっては正確なアレルゲン表示はアナフィラキシーを避けるための重要な情報であり、情報更新されていない様子が伺えると、外食先を選ぶ上での不安材料の一つになりえます。また、小麦アレルギーがある人にとっては、外食先選びが相当な困難になっていることが本研究から示唆されましたが、これは「醤油由来の小麦」項目を新設することで改善される可能性があります。
本研究は、外食事業者によるアレルゲン情報提供の充実、指定品目の変更を踏まえた情報更新、成人を含む食物アレルギーのある人への対応の必要性などを提示する基礎資料となります。今後は、患者の生活の質(QOL)や心理社会的な負担にも着目し、誤食防止と利用機会の拡大の両方を進めることが重要です。
特記事項
本研究成果は、2026年10月10日(土)学術誌「アレルギー」75巻5号に掲載されました。
タイトル:「大手外食チェーンによるアレルゲン表示の現状及び提供料理における特定原材料の使用頻度」
著者名:磯野萌子、磯野誠
著者全員に開示すべき利益相反はありません。
本プレスリリースは、NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長の赤城智美様から、患者団体の立場でいただいたご意見を踏まえて作成しました。ご協力に心より御礼申し上げます。
参考URL
磯野萌子助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e2ec350b9964e990.html
本研究に関する補足説明は、以下researchmapに掲載しています。
https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/792438/f0ce8bd316d9dfd5536ba963e561b15f?frame_id=1444065
「ブログ記事 大手外食チェーンのアレルゲン表調査:補足データと解説(「アレルギー」掲載論文)」
SDGsの目標
用語説明
- 食物アレルギー
食物アレルギーは、本来なら体に害のないはずの食べ物に対し、免疫システムが過剰に反応してしまうことで起こります。乳幼児から大人まで幅広い年代に見られ、原因となる食べ物や症状の出方は人によって違います。皮膚や呼吸器・消化器など、複数の臓器に症状が現れることもあり、時には命に関わる重い反応(アナフィラキシーショック)を引き起こすこともあります。
- 特定原材料
食品表示基準では、健康危害(食物アレルギー)の発生を防止する観点から、特に発症数・重篤度を踏まえて表示する必要性が高いものを特定原材料として指定し、容器包装された加工食品について販売する際の表示が義務付けられています。概ね3年に1度の実態調査を踏まえて対象品目が改訂されます。具体的な品目名は表1の通りです。
- 特定原材料に準ずるもの
症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数見られるが、特定原材料に比べると少ないものは「特定原材料に準ずるもの」として位置付けられています。包装された加工食品について販売される際にも表示は推奨(任意)となっています。概ね3年に1度の実態調査を踏まえて対象品目が改訂されます。具体的な品目名は表1の通りです。
- アナフィラキシー
アレルギー反応によって、複数の臓器に重い症状が急速に現れ、命を脅かしかねないものをアナフィラキシーといいます。アナフィラキシーのうち、血圧低下や意識障害などの症状が合わさるものをアナフィラキシーショックとよびます。
- コンタミネーション
原材料として使用していないアレルゲンが、製造・調理の過程で、調理器具などを介して意図せず食品に混入すること。

