
太陽風の「ミクロとマクロの境界」で磁場のねじれが成長する新現象を発見
探査機PSPの超高精度データがもたらすプラズマ乱流理論の新たな地平
研究成果のポイント
- NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」(Parker Solar Probe; PSP)の観測データを用い、太陽風の中で磁場の「ねじれ」「渦」「結びつき」を示す磁気ヘリシティーが、時間とともに大きな構造へと成長していく現象を世界で初めて直接捉えました。
- この磁場の「渦」の大きさの成長が、太陽風プラズマを個々の粒子の集まりとして扱えるミクロなスケール(kinetic scale)と、流体として扱えるマクロなスケール(MHD scale)の「境界領域」で起きていることを発見しました。従来の物理学の枠組み(カスケード理論)では説明できない未知のスケール領域であり、プラズマ乱流の理論を拡張する画期的な発見です。
- 乱流輸送の基礎理論の発展により、GPS障害や送電網の停電を引き起こす「宇宙天気」の高精度な予測や、将来のクリーンエネルギーとして期待される「核融合発電」でのプラズマ安定化技術への貢献が期待されます。
太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」
Image credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben
概要
ブラウンシュヴァイク工科大学理論物理学研究所(ドイツ)の成田康人教授と飯澤正登実教授代理、東京大学大学院理学系研究科の横井喜充客員共同研究員(兼:東北大学流体科学研究所客員准教授(研究当時))、九州大学大学院総合理工学研究院の松清修一教授(兼:大阪大学レーザー科学研究所招へい教授)らによる10カ国からなる国際研究チーム(日・独・スウェーデン・豪・米・仏・伊・ルーマニア・ブラジル・ジョージア)は、太陽から吹き出す「太陽風」において、磁場のねじれ構造を示す「磁気ヘリシティー」が大きな構造へ成長していく現象を世界で初めて観測しました。
本研究は、粒子の集合としての性質と流体としての性質が交差する境界領域で、磁場の「渦」が自ら大きな構造を作っていくことを示しました。乱流輸送の基礎理論に影響を与えるこの成果は、宇宙天気の精度向上や次世代エネルギーである核融合炉の制御に大きく貢献することが期待されます。
図1. PSPによる観測データから得られた正規化磁気ヘリシティー密度スペクトルを太陽からの距離(横軸)毎にプロットした図。縦はスケールを示す(上に行くほど小スケール)。0.1 AU付近では10Hz付近が流体描像と粒子描像が適用できる領域の「境界領域」。「境界領域」は環境に応じて変動する(論文参照)。黄線は指数関数曲線の一例で、磁気ヘリシティーのスケールが指数関数的に増大していることが分かる。赤と青の二重構造は、スケールによって磁気ヘリシティーの符号が異なること(正負のヘリシティーが共存するバイヘリカル構造であること)を意味する。本測定は衛星搭載のフラックスゲート磁場計による測定としては極めて高速な測定(バーストモード)が行われた地点のデータを部分的に用いており、通常モードでは得られない周波数領域は黒色で示している。
研究の内容
乱流は、台風、川の流れ、湯呑みの湯など、日常の至るところでみられます。一方で身近な乱流は、分子どうしの衝突や壁との摩擦など、様々な要素から影響を受けています。乱流の基礎理論の発展には、粒子同士がほとんどぶつからない「無衝突プラズマ」を用いた実験・観察が必要です。地球上の実験装置では再現困難であるため、物理学者は、「無衝突プラズマ」で満ちた宇宙空間の太陽風を、理想的な「実験室」として捉えてきました。
プラズマ乱流理論において長年の課題だったのが「磁場のねじれや連結の度合い(磁気ヘリシティー)」がどのように大きな空間構造へ育っていくかという問題です。一例を挙げれば、プラズマを磁性流体として扱えるマクロなサイズ(MHD scale)では、時間とともに構造の大きさが小さくなっていく(カスケードする)という学説と、大きくなっていく(逆カスケードする)という学説があり、50年来決着がついていませんでした。
本研究チームは、NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ(PSP)」が得た超高精度な磁場・粒子データを分析しました。その結果、太陽風のプラズマ中で磁気ヘリシティーが大きな構造へと成長する様子を世界で初めて直接観測することに成功しました。
観測された構造成長は、個々の粒子の運動が支配的な「ミクロの世界」(kinetic scale)と、全体の流れが支配的な「マクロの世界」(MHD scale)の境界領域で起きていました。この領域は、従来の「マクロの世界」(MHD scale)における理論(カスケード理論)の射程外であり、理論的にも注目されていなかった現象です。研究チームはこの境界領域のダイナミクスを捉えることで、「ミクロの世界」(kinetic scale)と「マクロの世界」(MHD scale)を統合する新たなプラズマ乱流理論の扉を開きました。
本研究の成果は、基礎物理学の進展にとどまらず、宇宙天気予報やクリーンエネルギー(核融合発電)の理論的基礎にも新しい視点をもたらします。
特記事項
【論文情報】
雑誌名:The Astrophysical Journal Letters (ApJL)
題 名:Nonlocal Evolution of Magnetic Helicity across the Magnetohydrodynamic–Kinetic Interface
著者名:Masatomi Iizawa, Yasuhito Narita, Tommaso Alberti, Stuart D. Bale, Axel Brandenburg, Abraham C.-L. Chian, Horia Comișel, Shuichi Matsukiyo, Nobumitsu Yokoi (独機関所属者以外はアルファベット順)
DOI:10.3847/2041-8213/aea84b
URL:https://doi.org/10.3847/2041-8213/aea84b
本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:JP23K25895、研究代表者:横井 喜充)」、「基盤研究(B)(課題番号:26K00767、研究代表者:松清修一)」、「ドイツ研究振興協会(DFG) Sachbeihilfe(課題番号:535057280、研究代表者:成田 康人、研究協力者:横井 喜充)」「ブラウンシュヴァイク工科大学 オープンアクセス出版助成金」の支援により実施されました。
用語説明
- 太陽風
太陽の表面(コロナ)から宇宙空間へ向かって絶え間なく吹き出している、超高速(秒速数百km)の電離気体(プラズマ)の流れ。地球近傍を含む太陽圏全体に広がっており、地球の磁気圏とぶつかることでオーロラを引き起こすほか、その激しい変動が「磁気嵐」として地上や衛星の社会インフラに大きな影響を及ぼす。
- 磁気ヘリシティー
磁場がどれくらいねじれたり、からみ合ったりしているかを示す物理量。電気抵抗や磁場の漏れがない理想的な環境では変化せずに保たれる(保存量である)性質があり、実際の太陽風においてもきわめて崩れにくい「頑健な」保存量として振る舞うことが知られている。磁場が持つ構造の安定性やエネルギーの保持に深く関わっている。
