マントル深部で無水鉱物と含水鉱物が一つに!?

マントル深部で無水鉱物と含水鉱物が一つに!?

圧力が変える地球深部の水貯蔵能力

2026-10-9●自然科学系
理学研究科准教授西 真之

研究成果のポイント

  • マントル深部の超高温高圧環境下で、鉱物が多くの水を蓄えるメカニズムを発見
  • 水を含まない鉱物と含む鉱物が互いに固溶していく過程を、放射光X線を用いて高温高圧下でその場観察に成功
  • マントルにおける脱水・含水化や、それに伴うマグマ形成を理解する新たな手がかりとなることに期待

概要

大阪大学大学院理学研究科の西真之准教授と高橋虎太郎さん(研究当時:博士前期課程)を中心とする研究グループは、地球深部のマントルを構成する鉱物が、圧力が高くなるほど水を蓄えやすくなる仕組みを明らかにしました。

これまで、マントルの高圧環境で水を含む鉱物が存在できることが示されてきました。一方で、地球深部の水が、どの深さで、どの鉱物に、どれだけ蓄えられるのかについてはさまざまな見解があり、現在も活発に研究が進められています。

今回、研究グループは、マントル深部の高温・高圧環境を再現した実験を行い、大型放射光施設SPring-8の強力なX線と理論計算を組み合わせて、鉱物の変化を詳しく調べました。その結果、SiO₂を主成分とする「無水鉱物」とAlOOHを主成分とする「含水鉱物」の成分が互いに置き換わって固溶体(図1) を形成し、圧力が高くなるほどその置き換わりが進むことを明らかにしました。これにより、地球深部では、鉱物が蓄えることのできる水の量が深さによって変化する可能性が示され、マグマの形成や、下部マントル内部での水の不均一な分布を説明する新たな仕組みとなる可能性に期待。

本研究成果は、米国科学誌「Geophysical Research Letters」に、9月29日(火)に公開されました。

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図1. SiO₂相、AlOOH相、および両者の間に形成される固溶体の模式図。鉱物を構成する原子の置き換わりを概念的に示している。

研究の背景

地球のマントルは、その大部分が水をごく微量しか含まない「無水鉱物」からできています。これらの鉱物は2000℃にも達する地球深部の高温環境でも安定ですが、一般に取り込める水の量はわずかです。一方、水を多量に含む「含水鉱物」もマントルで存在できることが知られていますが、高温になると水を放出して分解するため、その存在は局所的な低温領域に限られているとされています。このため、無水鉱物と含水鉱物の双方について、水をどれだけ蓄えられるのか、また地球深部の高温・高圧環境でどこまで安定に存在できるのかを明らかにする研究が精力的に進められています。とりわけ地球の体積の約半分を占める下部マントルでは、無水鉱物としてSiO₂相が、含水鉱物としてAlOOH相が注目されてきました。

研究の内容

研究グループは、高輝度光科学研究センター、愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センターとの共同研究により、大型放射光施設SPring-8のBL04B1で最大45万気圧までの高温・高圧実験を行い、無水鉱物SiO₂相と含水鉱物AlOOH相の変化を強力な放射光X線でその場観察しました。その結果、これまで別々に研究されてきたSiO₂相とAlOOH相が、高圧下では原子レベルで互いの成分を取り込み合う「固溶体」を形成することを明らかにしました。さらに、この成分の置き換わりは圧力が高くなるほど進み、中間的な化学組成まで固溶が進行することが示されました。これにより、無水鉱物の高温での安定性と、含水鉱物の高い含水量という双方の特徴を併せ持つ鉱物が形成されることが分かりました。

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図2. 地球深部における固溶体形成による鉱物の含水化の模式図。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、下部マントルを構成する鉱物の水の貯蔵能力が圧力によって大きく変化する可能性が示されました。 固溶が十分に進まない下部マントル最上部では鉱物から水が放出され、これが部分溶融を引き起こす可能性があります。

一方、より深い領域では圧力の上昇に伴って固溶が進み、水が鉱物中に取り込まれると考えられます。このような脱水と含水化は、深さ約660 kmの地震波不連続面直下で示唆されているマグマの形成や、下部マントル内部での水の不均一な分布を説明する新たな仕組みとなる可能性があります。

さらに、より深部へ運ばれた水は、深さ約2900 kmのコア―マントル境界付近で観測される特異な地震波構造にも影響を与える可能性があり、今後の研究による解明が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026 年9月29日(火)に米国科学誌「Geophysical Research Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“In Situ Observation of Pressure-Enhanced Hydrous-Anhydrous Solid Solution in Lower-Mantle SiO₂-AlOOH Phases”
著者名:M. Nishi, K. Takahashi, H. Dekura, K. Kawano, H. Koike, K. Nakamura, T. Kondo, H. Kuwahara, S. Kakizawa, N. Tsujino, Y. Higo
DOI:10.1029/2026GL124407

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP26H02092、JP22H01322、JP24K21208、JP23K22593)および愛媛大学先進超高圧科学研究拠点(PRIUS)の共同利用・共同研究の支援を受けて行われました。

参考URL

西真之准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9ad08a86cef66c9a.html

用語説明

大型放射光施設SPring-8

兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁場によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のことを言います。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われています。

含水鉱物

無水鉱物は、本来の理想化学式に水素(H)を含まない鉱物で、本研究で扱ったSiO₂相がその例です。一方、含水鉱物は水素を結晶構造の一部として含む鉱物で、AlOOH相では化学式にもHが含まれています。地球深部では、水は液体のH₂Oとして存在するわけではなく、水素(H)やOHとして鉱物の結晶構造に取り込まれて蓄えられることがあります。

固溶体

異なる成分が、類似した結晶構造の中で原子レベルに混ざり合ってできる固体。本研究では、SiO₂成分とAlOOH成分が互いに置き換わることで固溶体を形成します。

45万気圧

地球内部では深くなるほど圧力が高くなります。本研究で到達した約45万気圧は、地球の深さ約1100 kmに相当する非常に高い圧力です。

地震波不連続面

地表から約660 kmの深さのマントル遷移層と下部マントルの境界。鉱物の種類や結晶構造が変化するため、地震波の速度も急激に変化します。

コア―マントル境界

地表から約2900 kmの深さにある、岩石からなるマントルと、主に鉄からなる液体のコアとの境界。その直上には、地震波が極端に遅く伝わる領域が部分的に存在し、マントル中の水の存在との関連性が議論されています。