
大阪大学と月桂冠が共同研究 3Dプリンターで「麹」を造形し、清酒醸造に応用
造形構造により麹菌の働きを調節する新技術
概要
国立大学法人大阪大学(総長・熊ノ郷淳、大阪府吹田市)大学院基礎工学研究科の境慎司教授および同修士課程の野口まやさん、同大学院工学研究科の酒井香奈江寄附講座准教授らの研究グループと月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は、米粉ペーストに麹菌(Aspergillus oryzae)を混合させた「バイオインク」を3Dプリンターで造形し、構造の違いによって麹菌の代謝活性を調節できることを明らかにしました。さらに、得られた「3Dプリント麹」を用いた小規模な清酒醸造において、アルコール分13%台まで発酵生産が進むことを確認しました。
研究の背景 :フードプリンティング技術と伝統発酵の融合
食品分野でも、近年、フードプリンティング(3Dプリント)技術への応用が進展し始めています。フードプリンティングは、食品素材をペースト状にし、3Dプリンターを用いて任意の立体構造に造形する技術です。複数の食品素材を組み合わせられるほか、形状や内部構造を細かく設計できることから、新しい食品製造技術として注目されています。
清酒や味噌、醤油などの製造に欠かせない麹菌は、穀物原料を媒介して生育しながらアミラーゼやプロテアーゼなどの酵素を生産し、デンプンやタンパク質を糖やアミノ酸へと分解します。従来の米麹では、蒸した米粒の表面や内部に麹菌を生育させますが、その形状や内部構造を自由に設計することは困難でした。
そこで本研究では、3Dプリント技術を利用して麹の構造を設計することにより、麹菌の生育や代謝を制御する新しい培養方法の開発を目指しました。
研究の内容 :3Dプリンターで麹の働きを制御
大阪大学にて、米粉、水および麹菌を混合したペーストを「バイオインク」として用い、押出式3Dプリンターによって網目状の構造体を作製しました。この構造体を培養して、3Dプリント麹を作製しました。培養後の構造体では麹菌が良好に生育しており、3Dプリンターによる造形工程を経ても、麹菌の生育能力が維持されることが確認されました。
また、造形する構造を変えることで、麹菌が生成するグルコースやグルタミン酸の量が変化することが明らかになりました。これは、構造の違いによって麹菌が生育できる表面積、通気性、熱の放散、水分の蒸発などの培養環境が変化したためと考えられます。
さらに、月桂冠にて、得られた3Dプリント麹を用いた小規模な清酒醸造試験を行うと、アルコール分13%台まで発酵生産が進むことを確認したほか、香気成分には通常の清酒との違いも確認されました。
図. 3Dプリント麹と清酒醸造の様子
今後の展望:麹菌による新たな物質変換への応用
今回の結果から、3Dプリントによって麹の構造を制御することで、通常の米麹とは異なる代謝が麹菌に誘導されている可能性を見出しました。今後、麹の形状や空隙などの構造と、麹菌が生産する酵素や代謝物との関係を詳しく調べることで、麹菌の働きを目的に応じて制御し、実際の清酒生産への応用につながる可能性が広がります。
また、清酒の糖やアミノ酸の組成を調節するだけでなく、麹菌による新たな物質変換や、従来とは異なる香味成分・機能性成分の生産も見込まれます。本技術を発展させることで、これまでにない酒質を持つ清酒の開発や、新たな発酵食品・食品素材の創出につながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、第78回日本生物工学会大会(会期:2026年9月15日~17日)で発表しました。
学会名: 第78回日本生物工学会大会(主催:公益社団法人日本生物工学会)
日時: 2026年9月17日 14:06~14:18
会場: 北海道大学 札幌キャンパス
演題: 麹菌をインク成分とするフードプリンティングと酒造への応用
発表者:○野口まや¹、酒井香奈江²、戸所健彦³、堤浩子³、石田博樹³、楠本憲一²、福﨑英一郎²、境慎司¹(1. 大阪大学大学院基礎工学研究科、2. 大阪大学大学院工学研究科、3. 月桂冠株式会社・総合研究所)(○印は演者)
