
\3Dプリンターで「熱の流れ」を操る!/結晶組織制御でCO2変換性能を向上
反応中に自ら触媒性能を高める「自己最適化」も実現
研究成果のポイント
- レーザー金属3Dプリンティングにより、高エントロピー合金(HEA)から、反応器そのものが触媒として働く金属製自己触媒反応器(SCR: Self Catalytic Reactor)を作製
- 造形時のレーザー条件によって結晶組織を制御することで材料内部の熱輸送効率を向上させ、CO₂からCOを生成する触媒活性を約1.7倍高めることに成功
- さらに反応中に合金内部で相分離が進み、熱輸送性能と触媒活性が自発的に向上する「自己最適化触媒(self-optimizing catalysis)」という新たな機能を実証
概要
大阪大学大学院工学研究科の博士前期課程 平澤綾大さん(R7年度修了、現日鉄エンジニアリング(株))、KIM Hyo-jin特任助教、小笹良輔講師、中野貴由教授、森浩亮教授らの研究グループは、金属3Dプリンティング技術を用いて材料内部の結晶組織を制御し、「熱の流れ」を操ることで触媒性能を向上させる高エントロピー合金製自己触媒反応器の開発に成功しました(図1)。
今回研究グループは、Al、Fe、Co、Ni、Cuの5元素から構成される高エントロピー合金を原料として、レーザー粉末床溶融結合法(L-PBF)により、単結晶様結晶組織を持つ反応器(mono-SCR)と、多結晶組織を持つ反応器(poly-SCR)を作り分けました。
これらの反応器を、CO₂と水素(H₂)からCOを生成する逆水性ガスシフト反応(RWGS反応)に適用したところ、mono-SCR反応器はpoly-SCRと比べて約1.7倍高いCO生成速度を示し、CO選択率は99.9%以上を維持しました。
この性能差は触媒表面の組成や表面積だけでは説明できませんが、解析の結果、単結晶様の反応器では熱伝導率が約20%高く、同じ加熱条件でも内部温度が5~10 ℃高くなることが分かりました。つまり、3Dプリンティングで形成した結晶組織が熱輸送を制御し、触媒表面へ効率よく熱を届けることで反応を促進していました。
さらに、反応の経過とともに高エントロピー合金内部で相分離が進行し、熱輸送性能と触媒活性が向上することも明らかになりました。研究グループは、反応器自身がより高性能な状態へ変化するこの現象を「自己最適化触媒(self-optimizing catalysis)」と位置づけました。
本成果は、従来の触媒設計で重視されてきた表面組成や活性点の制御に加え、材料内部の結晶組織と熱輸送を新たな触媒設計パラメータとして利用できることを示すものです。また、金属3Dプリンティングを「形を作る技術」から「材料の機能をプログラムする技術」へ発展させる新しいマテリアルサイエンスにつながることが期待されます。
本研究成果は、英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)が刊行する科学誌「Journal of Materials Chemistry A」に、2026年9月17日に公開されました。
図1. 金属3Dプリンティングで作製した高エントロピー合金製自己触媒反応器(SCR: Self Catalytic Reactor)
研究の背景
CO₂と水素からCOを製造する逆水性ガスシフト反応は、CO₂を化学原料として再利用するための重要な反応の一つです。一方、この反応は高温を必要とする吸熱反応であるため、触媒へ効率よく熱を供給することが重要です。
従来の触媒研究では、主に触媒表面の元素組成や電子状態、活性点を制御することで性能向上が図られてきました。今回研究グループは、これとは異なるアプローチとして、材料内部の結晶組織を制御して熱輸送そのものを設計することに着目しました。
研究の内容
研究グループは、レーザー出力を変えて高エントロピー合金を3D造形することで、特定方向に結晶がそろった単結晶様組織と、結晶方位がランダムな多結晶組織を作り分けました。
600 ℃で逆水性ガスシフト反応を行った結果、単結晶様反応器のCO生成速度は633.8 mmol h⁻¹となり、多結晶型の約1.7倍に達しました。一方、表面積には大きな違いがなく、表面組成だけを見ると多結晶型の方が反応に有利と考えられるCuを多く露出していました。
そこで熱輸送特性を調べると、単結晶様反応器の熱伝導率は19.6 W m⁻¹ K⁻¹で、多結晶型の16.3 W m⁻¹ K⁻¹より高く、反応器内部の温度も5~10 ℃高いことが分かりました。これにより、結晶組織によって熱の流れを制御することが触媒性能向上につながることを明らかにしました(図2)。
さらに長時間反応を行うと、当初単一のFCC相だった合金がFCC相とBCC相へ相分離し、熱伝導率は48時間後に単結晶様反応器で42.1 W m⁻¹ K⁻¹、多結晶型で32.0 W m⁻¹ K⁻¹まで向上しました。 この構造変化によって熱供給が改善され、触媒活性も時間とともに向上しました(図3)。
図2. 結晶組織制御に基づく熱輸送効率の制御とRWGS反応
図3. RWGS反応における自己最適化触媒機能
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、触媒の性能を決める新たな要素として、材料内部の結晶組織と熱輸送を利用できることを示しました。これは、従来の表面化学を中心とした触媒設計に、新たな材料設計の指針を加えるものです。
また、反応環境に応じて材料自身が構造を変え、性能を向上させる「自己最適化」の考え方は、触媒だけでなく、熱化学変換や熱マネジメントなど、熱輸送が重要となるさまざまな材料・デバイスへの展開が期待されます。金属3Dプリンティングを「形を作る技術」から「機能をプログラムする技術」へ発展させる成果といえます。
特記事項
本研究成果は、英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)が刊行する科学誌「Journal of Materials Chemistry A」に9月17日に掲載されました。
タイトル:“Microstructure-Programmed Heat Transport and Self-Optimizing Catalysis in Additively Manufactured High-Entropy Alloy Reactors for the Reverse Water–Gas Shift Reaction”
著者名:Ryota Hirasawa, Hyo-Jin Kim, Ryosuke Ozasa, Takayoshi Nakano, Kohsuke Mori*
DOI:10.1039/D6TA06536H
なお、この成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(未踏チャレンジ)の結果得られたものです。また、3Dプリンターを利用した金属触媒反応器の造形は、工学研究科附属3DPTec統合センターの支援のもと行われました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- 金属3Dプリンティング
本研究ではレーザー粉末床溶融結合法(L-PBF)を採用。金属粉末を薄く敷き詰め、必要な部分にレーザーを照射して溶融・凝固させ、この工程を繰り返すことで三次元の金属部材を造形する技術。複雑な形状を一体造形できることに加え、レーザーの照射条件を調整することで、造形物内部の結晶組織を制御することもできる。
- 高エントロピー合金(HEA)
High-Entropy Alloy。複数種類の主要元素から構成される合金。本研究ではAl、Fe、Co、Ni、Cuの5元素からなる高エントロピー合金を使用した。多元素から構成されることによる複雑な原子配置や特徴的な物性を示す材料として研究が進められている。
- 自己触媒反応器(SCR Self Catalytic Reactor)
反応器を構成する材料そのものが触媒機能を持つ反応器。従来のように反応器内部へ別途触媒を充填・担持するのではなく、構造材料と触媒材料を一体化することで、触媒機能、熱輸送、機械的機能などを一つの材料・構造体に持たせることができる。本研究のHEA-SCRは、造形後の追加処理を行わない状態でもRWGS反応に対する触媒活性を示す。
- 逆水性ガスシフト反応(RWGS反応)
Reverse Water-Gas Shift reaction。二酸化炭素と水素から一酸化炭素と水を生成する反応(CO₂ + H₂ → CO + H₂O)。吸熱反応であり、本研究の論文では反応エンタルピーをΔH°₂₉₈ = 41.2 kJ/molとしている。そのため、触媒への効率的な熱供給が反応性能を左右する重要な要素となる。
- 自己最適化触媒(self-optimizing catalysis)
本研究で見出された、触媒反応中に材料内部の構造が自発的に変化し、それに伴って熱輸送性能と触媒性能が向上する現象。本研究の高エントロピー合金では、反応中にFCC相からFCC相とBCC相への相分離が進行し、熱輸送性能が向上することで触媒活性が高まる。相分離が安定または準平衡状態へ近づくことで、この変化も最終的には定常状態へ近づくと考えられる。




