歯の神経を守る! イオンを段階的に放出するガラス粒子を開発

歯の神経を守る! イオンを段階的に放出するガラス粒子を開発

炎症を抑えながら歯の神経の働きを促す新材料

2026-9-14生命科学・医学系
歯学研究科教授今里 聡

研究成果のポイント

  • 治療用イオンを必要な期間に必要な量だけ出す「スマート・バイオアクティブガラス」を開発。
  • これまで、材料からのイオン放出を精密に制御することは困難であったが、溶ける速さを調整した  ガラスを組み合わせることで、複数のイオンを段階的に放出させることに成功。
  • 歯の神経(歯髄)に炎症が生じている場合でも、開発したガラスを適用することで炎症が抑えられ、さらに修復象牙質の形成が促進されることを確認。
  • これまでは、むし歯などで炎症が生じたことにより、歯髄を取り除く処置が行われていたような場合でも、歯髄を取らずに守る治療を可能とする新しい歯科材料の実現が期待される。

概要

大阪大学大学院歯学研究科先端機能性材料学共同研究講座の堺 裕彦助教、佐々木淳一准教授、今里 聡教授らの研究グループは、歯髄を守る治療に用いられる材料として、リチウムイオンとストロンチウムイオンを段階的に放出する新しいガラス粒子を開発しました(図1)。

むし歯が深く進行して歯の内部にある歯髄まで到達すると、歯髄に炎症が起こってしまい、多くの場合、このような状態になった歯髄を外科的に除去する処置が行われます。

今回、研究グループが開発したガラス粒子は、まずリチウムイオンを速やかに放出して歯髄の炎症を抑え、その後、ストロンチウムイオンをゆっくりと放出することで、歯髄の上に修復象牙質を積極的に形成させるように設計されています。このガラスを用いることで、細胞実験では、炎症を起こした歯髄の細胞の機能が回復し、ラットの歯を用いた実験では、ガラスが歯髄の炎症を抑え、修復象牙質の形成を促進しました(図2)。このガラスを応用することにより、炎症が生じた歯髄を取らずに守る新しい歯科材料の実現が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Dental Materials」の2026年5月号に掲載されました。

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図1. 初期に溶けだしたリチウムイオンが速やかに歯の神経の炎症を抑え、その後、ストロンチウムイオンがゆっくりと溶け出し、修復象牙質の形成を助ける。

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図2. 開発したガラスは歯髄の炎症を抑え、修復象牙質の形成(矢印)を  促進した。

研究の背景

歯髄は血管と神経の複合体であり、歯に生じた異常を痛みで知らせるセンサーとして働くとともに、むし歯などで失われた象牙質を内側から再生修復する働きをもっています。そのため、歯髄を取り除いた歯は、歯髄が生きている歯と比べて寿命が短くなってしまう可能性があり、むし歯治療をする際にはできるだけ歯髄を取らずに残すことが理想です。

しかし、むし歯が深く進行して歯髄に炎症が生じていると、露出した歯髄を、象牙質再生を助ける材料で覆っても、時間が経つと歯髄が死んでしまうことがほとんどで、このような場合は一般的に炎症を起こした歯髄を取り除く治療が行われています。そこで、本研究グループは、炎症を抑えるリチウムイオンと、象牙質の再生修復を促すストロンチウムイオンを段階的に働かせることで、従来は取り除く治療の対象となっていた歯髄を残せる治療法に繋がる新しい材料の開発を目指しました。

研究の内容

研究グループでは、アルミニウムイオンをガラスに入れることでガラスの溶け方を制御する技術を開発し、これを応用して、速やかにリチウムイオンを放出するガラスとストロンチウムイオンをゆっくり放出するガラスを作製しました。そして、これら二種のガラスを組み合わせることで、それぞれのイオンを順に放出させることに成功しました。

そこで、ヒト歯髄の細胞を用いて、このガラス粒子を作用させた場合の炎症に関わる反応や象牙質をつくる能力を調べた結果、炎症に関わる遺伝子の発現が低下するとともに、象牙質形成の働きが高まることが分かりました。さらに、ラットの歯髄に炎症を起こしたモデルにおいて、露出した歯髄を複合ガラス粒子で覆った場合、処置から3日後には炎症が抑えられ、28日後には修復象牙質が形成されることが明らかになりました。これは、開発したガラス粒子が、炎症を抑える段階と象牙質を再生する段階のそれぞれにおいて順に効果を発揮したことを示しています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、歯髄に炎症がある場合でも、歯髄を取らずに残せる治療の実現が期待されます。深く進行したむし歯の場合でも歯髄を残すことができれば、生涯を通じて自分の歯で噛むことに繋がり、人々のQuality of lifeの向上が望めます。

また、本研究で開発したイオン放出の制御技術は、歯科領域における他の治療はもとより、さまざまな病気を対象に、その状態に応じて機能を発揮する新たな医療用材料の開発にも応用できる可能性があり、これにより、患者様ひとりひとりに合わせたテーラーメイド型の治療をサポートする技術に発展することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Dental Materials」の2026年5月号に掲載されました。

タイトル:“Synthesis and characterization of lithium- and strontium-releasing smart bioactive glasses for direct capping application”
著者名: Hirohiko Sakai, Jun-Ichi Sasaki, Haruaki Kitagawa, Naoya Funayama, Toshihiro Inubushi, Kiichi Moriyama, Koki Nakatani, Yusuke Takahashi and Satoshi Imazato
DOI:https://doi.org/10.1016/j.dental.2026.01.005

なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤B(20H03871)の支援、および株式会社GCからの資金提供を受けて行われました。

参考URL

用語説明

バイオアクティブガラス

体内の水分と触れると、成分がイオンとして溶け出し、細胞や組織の働きに影響を与えるガラス材料。放出するイオンの種類により様々な治療効果を発揮することができる。

歯髄

歯の内部にある豊富な血管網と神経からなる軟組織。歯の表面の刺激を知覚するだけでなく、歯の内部に栄養・酸素を供給し、歯髄の表層に存在する象牙芽細胞が生涯にわたり象牙質を作り続ける。

修復象牙質

むし歯や歯のすり減りなどの物理的・化学的刺激に対応して歯髄側に形成される象牙質。歯髄を保護する役割を持つ。