\傷んだ腎臓が光る!/ 光による腎障害の非侵襲的イメージング方法を確立

\傷んだ腎臓が光る!/ 光による腎障害の非侵襲的イメージング方法を確立

近赤外光を用いた新しい腎障害モニタリング技術

2026-8-19生命科学・医学系
医学系研究科准教授松井 功

研究成果のポイント

  • 薬剤投与や遺伝子改変を一切使わず、近赤外線領域の自家蛍光を捉えることで、腎臓の尿細管細胞障害の程度を体の外からリアルタイムに測定することに世界で初めて成功
  • これまで腎臓内部の細胞障害の状態を正確に知るには「腎生検」(腎臓に針を刺して組織を採取する侵襲的な検査)が必要だったが、本研究で確立した方法を用いることで、腎障害をリアルタイムに繰り返し評価することが可能に
  • 将来的には、内視鏡のように体内をリアルタイムに観察する評価法や、手術中のリアルタイム評価、慢性腎臓病の経過観察への応用に期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科の松本 あゆみ特任助教(常勤)、松井功准教授、猪阪善隆教授らの研究グループは、腎臓の細胞レベルの障害を体の外から「光」だけで非侵襲的・定量的に評価する新技術を確立しました。

腎臓は障害が進んでからでないと検査値異常や自覚症状が現れません。現在、腎臓内部の細胞の状態を正確に知るには、腎臓に針を刺す「腎生検」が必要です。また、腎生検では、検査した時点の情報しか得られないため、時間の経過とともに病気がどのように変化しているかを追い続けることが困難でした。

今回、研究グループは、「近赤外光」に着目しました。近赤外光は目に見える光より波長が長く、皮膚や筋肉などの体組織を比較的深く透過します。近赤外光を用いて、腎臓の機能に重要な役割を有する尿細管細胞の自家蛍光を評価したところ、健常な細胞はほとんど蛍光を発しないのに対し、障害を受けた尿細管細胞は強い蛍光を有することを発見しました(図1)。光学プローブを用いたカテーテル技術や内視鏡技術を応用することにより、非侵襲的に腎障害を体外からモニタリングできるようになることが期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「Kidney International」に、6月18日(木)に公開されました。

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図1. 近赤外光による非侵襲的腎障害モニタリング

研究の背景

慢性腎臓病(CKD)は日本では成人の8人に1人が罹患する頻度の高い疾患です。腎臓の細胞の障害が進むと腎組織が線維化(かたくなる)し、最終的には透析や腎移植が必要な末期腎不全へ至ります。現在の腎障害の評価手段には以下のような限界があります。

● 腎生検:腎臓に針を刺す侵襲的検査。一時点の評価しかできず、繰り返し実施が困難。
● 血液・尿の腎障害マーカー:臓器全体の平均値しか反映せず、腎臓のどこに障害があるのかは分からない。
● 超音波・MRI:形態情報は得られるが、薬剤などの投与なしでは機能的な評価が難しい。

このような背景から、侵襲なく・リアルタイムに・腎臓のどこに障害が起きているかを評価できる新しい方法の開発が求められていました。

研究の内容

研究グループでは、特殊な薬剤や遺伝子改変を一切用いず、マウスに近赤外光を当てるだけで、障害の程度に応じて腎臓自体が発する蛍光(自家蛍光)を測定する方法を確立しました(励起 710 nm、検出 810〜875 nm)。この関係は、3種類の腎障害動物モデルおよび、ヒト検体でも一貫していました。

なぜ腎臓が光るのか詳細に検討したところ、自家蛍光の主な由来は「コプロポルフィリンIII」であることを同定しました。コプロポルフィリンIII はヘム(酸素を運ぶ赤血球の色素)が合成される過程の中間体であり、その分解を担う酵素 CPOX(コプロポルフィリノーゲンオキシダーゼ)の発現量が、障害を受けた腎臓で低下していることを見出しました。腎障害時には、細胞のエネルギー産生を担う「ミトコンドリア」の障害が生じることから、「ミトコンドリア機能障害 → 酸化ストレス増大 → CPOX低下 → コプロポルフィリンIII 蓄積 → 自家蛍光」というメカニズムを明らかにしました(図2)。

この方法が、薬剤での腎障害治療効果を検出できるか検討したところ、治療群では病理所見の改善と連動して自家蛍光シグナルが有意に低下することを確認し、本方法が治療効果判定ツールとして機能しうることを示しました(図3)。

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図2. 自家蛍光が生じる機序

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図3. 腎障害に対する薬剤治療効果の検出

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、薬剤投与や遺伝子改変を必要とせず、近赤外光による自家蛍光の評価により腎臓の細胞障害をリアルタイムに可視化・定量できるという世界初の概念実証(Proof of Concept)が示されました。

基礎研究の場では、実験動物を繰り返し採血・解剖せずに腎障害の時間変化や薬効を追跡できるため、動物実験の数を削減できる可能性があります。

ヒトの腎臓は体表から深い位置にあり近赤外光が届きにくいため、すぐに臨床応用することは困難ですが、光学プローブを用いたカテーテル技術や内視鏡技術を応用することにより、腎移植手術などの腎臓の手術時における腎障害の術中評価などへの展開が期待できます。

特記事項

本研究成果は、2026年6月18日(木)に国際科学誌「Kidney International」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Non-invasive quantitative assessment of kidney injury using near-infrared autofluorescence imaging”
著者名:Ayumi Matsumoto, Isao Matsui, Hiroshi Fushiki, Yasuo Kusunoki, Natsune Tamai, Hiroki Okushima, Atsuhiro Imai, Motoko Shimada, Takehito Harimoto, Taigo Kato, Koji Hatano, Yoichi Kakuta, Atsunari Kawashima, Shun-Ichiro Ogura, Norio Nonomura, Kazunori Inoue, and Yoshitaka Isaka
DOI:https://doi.org/10.1016/j.kint.2026.05.016

なお、本研究は、JST未来社会創造事業「カスタマイズ可能な光学センシングの確立と社会・生活に新たな価値をもたらす光情報の高度利用創出」研究の一環として行われました。

参考URL

松井 功准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/96444741b5ddf5a9.html

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任

用語説明

近赤外光

波長が 650〜950 nm 程度の光。可視光の赤色光よりも波長が長く、血液やタンパク質による吸収を受けにくいため、生体の深い部分まで到達できる。医療用イメージングや光線治療にも利用されている。

尿細管細胞

腎臓の尿細管(腎臓で血液から濾過された尿の元となる原尿が流れる管)の内側を覆う細胞。水分・電解質・栄養素の再吸収を担い、腎臓の機能の要となる。尿細管細胞の障害により、腎臓の線維化が進み、腎の機能不全へつながる。

自家蛍光

外から加えた物質によらず、組織内にもともと存在する分子が光を吸収して発する蛍光。外部試薬が不要なため安全性が高く、生体内でそのまま測定できる。

コプロポルフィリンIII

赤血球の色素「ヘム」が合成される経路で生じる中間体。通常は、酵素反応により速やかに次の段階に変換されて蓄積しない。

CPOX(コプロポルフィリノーゲンオキシダーゼ)

ヘム合成経路においてコプロポルフィリノーゲンIII をプロトポルフィリノーゲンIX に変換し、ヘムの合成経路を進める酵素。酵素反応に酸素を必要とする。

ミトコンドリア

細胞のエネルギー(ATP)産生を担う細胞小器官。腎尿細管細胞はエネルギー消費が大きくミトコンドリアが豊富だが、障害を受けると機能が低下し、有害な活性酸素(ROS)が発生する。