
摩擦熱を利用した超高速3Dプリンティング技術を開発
研究成果のポイント
- リング治具を装着した金属丸棒を高速回転させながら基材へ押圧することで、金属材料を積層造形(3Dプリント)する技術を開発
- 金属材料の積層造形では、エネルギーコストの削減や造形時間の短縮が課題となっているが、従来の溶融凝固による積層造形と比較して、造形速度を10倍以上にすることに成功
- 大型かつ高速の造形が求められるロケットや自動車の主要部品製造への適用に期待
概要
大阪大学大学院工学研究科の石田冬輝さん(博士後期課程)、同接合科学研究所の藤井英俊教授らの研究グループは、摩擦肉盛法に対してリング治具を導入することで金属材料の高効率な積層造形を可能とするリング治具式摩擦攪拌積層造形(Additive Friction Stir Deposition: AFSD)法を確立しました。
金属材料の積層造形では、エネルギーコストの削減や造形時間の短縮が課題となっています。金属材料のコーティング層を高速造形する手法として、摩擦熱を熱源とした固相プロセスの一種である摩擦肉盛法が挙げられますが、この手法は表面の荒れた層が形成されることや、材料ロスが大きいことが課題となっています。
今回、研究グループは、従来の摩擦肉盛法に対してリング治具を導入することにより、層の表面を滑らかに仕上げつつ材料ロスを抑えた高効率な造形を行うリング治具式AFSD法を開発しました。
これにより、ロケット用エンジンのような大型構造物の高速製造に対応でき、宇宙開発に対しても大きな寄与が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、7月30日(木)18時(日本時間)に公開されました。
図1. リング治具式AFSD法による造形の外観
リング治具がバリの形成を抑えながら層の表面を滑らかに仕上げています。
研究の背景
金属積層造形では原料(金属材料の粉末やワイヤー)をレーザーや電子ビーム等で溶融・凝固させながら造形を行う方式が主流ですが、高いエネルギーコストと長い製造時間を要求することから大型構造物の造形には不向きとされています。これに対し、低エネルギーかつ高効率な積層造形法として、摩擦熱を熱源とすることで材料を溶融させずに造形を行う手法が注目を集めています。
摩擦熱を用いて金属層を形成させる手法として摩擦肉盛法が挙げられますが、摩擦肉盛法では表面が荒れた層が形成されやすいことから、積層造形法としての応用は困難であるとされています。また、摩擦肉盛法では造形中に丸棒先端で分厚いバリが成長し、バリは層の形成には寄与しないことから、摩擦肉盛法は材料ロスの大きい手法となってしまいます。大型構造物の積層造形には、エネルギーコストと材料ロスの両方を抑えた高効率な新規技術の確立が求められます。
図2. 従来の摩擦肉盛法による造形の外観
供給材の先端にバリの形成を伴いながら基材上に層が形成されます。
研究の内容
研究グループは、従来の摩擦肉盛法に対してリング治具を導入することにより、平滑な層を高速造形するリング治具式AFSD法を開発しました。リング治具式AFSD法では、金属丸棒の先端にリング治具を装着した状態で丸棒を高速回転させ、金属平板に向けて押圧します。丸棒材と平板材との摩擦を開始して一定時間が経過すると、摩擦熱で軟化した丸棒材の変形が始まり、リング治具の下に材料が堆積されます。
材料の堆積が始まった後に丸棒の送りを開始させると丸棒材が消費され、金属層が形成されます。この際、リング治具が丸棒材と共に回転しながら層の表面を均すことにより、平滑な層が得られます。加えて、リング治具が従来の摩擦肉盛法におけるバリの代替となるためバリは成長せず、材料ロスを抑えた造形が達成されます。更に、リング治具式AFSD法では形成される層の厚みと幅を丸棒への押圧荷重で制御することが可能であり、荷重を増やすことで造形効率を8000cm3/h程度まで高めることに成功しました。
これは、従来の溶融凝固による積層造形法の10倍以上の造形速度になります。リング治具式AFSD法の開発により、金属材料の健全かつ高効率な積層造形を実現しました。
図3. (左)従来の摩擦肉盛法および(右)リング治具式AFSD法で得られた層の表面形状
従来の摩擦肉盛法では表面が荒れた層が形成されたのに対し、リング治具式AFSD法では表面が滑らかな層が形成された。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、大型構造物の低コストかつ高速度での造形が達成されます。特に、ロケット用エンジンのような大型の少量製造品に対してリング治具式AFSD法を適用することにより、製造コストが削減され、宇宙開発が促進される効果も期待できます。
特記事項
本研究成果は、2026年7月30日(木)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“A ring-jig additive friction stir deposition method for efficient additive manufacturing of metal laminates”
著者名:Fuyuki Ishida, Takayuki Yamashita, Masayoshi Kamai, Yoshiaki Morisada, and Hidetoshi Fujii
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-75350-9
なお、本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2138)、文部科学省の国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出プロジェクト(出島プロジェクト)、および日本学術振興会の科研費(24K08099)の支援を受けたものです。
参考URL
用語説明
- 摩擦肉盛法
金属丸棒を高速回転させながら金属板に押圧することにより、摩擦熱で軟化した丸棒材を盛り付ける手法。耐摩耗性に優れた層を高速度で形成できる手法であり、表面コーティング技術として用いられる。
- 積層造形
材料の層を積み重ねることで立体物を製造する技術。材料の粉末やワイヤー等を基に必要な形状のみを作り出す手法であるため、ブロック材の削り出し等を行う従来の加工技術と比較して材料ロスを抑えながら複雑形状を実現させることが可能である。積層速度が遅いのが弱点である。
- 固相プロセス
材料を溶かすことなく固相のまま加工を行う技術を指す。材料を溶かす手法と比べてエネルギーコストが小さくなるため、近年盛んに研究されている。
