
歯周病のサイン、高齢者の4人に3人が気づかず
後期高齢者16万人のビッグデータが示す“自覚"と“実態"のギャップ
研究成果のポイント
概要
大阪大学歯学部附属病院の豆野智昭講師、大学院歯学研究科の池邉一典教授、竹立匡秀教授、ウェルネス推進機構・健康支援相談センターの山本陵平教授らの研究グループは、大阪府の後期高齢者158,990人を対象に、歯周病の自覚症状(歯ぐきの出血・歯の揺れ)と、歯科医師または歯科衛生士が実際に口の中を診察して確認した状態との一致度を大規模に検証し、多くの高齢者が自分の口の中で進行している歯周病に気づけていないことが明らかになりました。
歯周病は痛みなどの自覚症状に乏しいため、本人が歯ぐきの出血や歯の揺れといったサインに気づけるかどうかが、受診や治療開始の重要なきっかけとなります。
今回の検証では、歯ぐきから出血が確認された高齢者のうち、「出血がある」と自覚していたのはわずか24%(図)で、実際に歯が揺れていた高齢者のうち、「歯がぐらぐらする」と自覚していたのは43%にとどまり、認知症のある人ではこの割合がさらに33%まで低下し、多くの高齢者が自分の口の中で進行している歯周病に気づけていないことが分かりました。
本成果は、後期高齢者医療歯科健康診査など定期的な歯科検査の重要性を裏付ける根拠として、また、認知症を有する高齢者への歯科と医療・介護の専門職が連携した口腔管理体制の構築に活用されることが期待されます。
本研究成果は、国際科学誌「Journal of Clinical Periodontology」に、2026年7月15日に公開されました。
図. 歯周病のサイン(歯ぐきの出血・歯の揺れ)に対する自覚の割合
研究の背景
歯周病は、歯を失う最大の原因であるだけでなく、糖尿病や認知症など全身の病気とも関連する深刻な病気です。しかし、歯周病は痛みなどの自覚症状に乏しいため、本人が歯ぐきの出血や歯の揺れといったサインに気づけるかどうかが、受診や治療開始の重要なきっかけとなります。そのため、自覚症状が実際の状態をどの程度反映しているのかは大切な問いですが、特に後期高齢者を対象とした大規模な検証はこれまで限られていました。
研究の内容
研究グループは、大阪府後期高齢者医療広域連合、大阪府歯科医師会との協力のもと、大阪府の後期高齢者医療歯科健康診査を受診した158,990人を対象に、歯周病に関する自覚症状と、歯科医師または歯科衛生士が診察で確認した状態との一致度を検証しました。一つの集団としては世界最大級の規模での解析により、以下のことが明らかとなりました。
・診察で歯ぐきから出血が確認された高齢者のうち、「出血がある」と自覚していたのはわずか24%(=残る76%は無自覚)。
・診察で歯の揺れが確認された高齢者のうち、「歯がぐらぐらする」と自覚していたのは43%でした(=残る57%は無自覚)。
・認知症のある群では、歯の揺れを自覚できた割合が33%まで低下し、認知機能が低下した高齢者では"気づき"がさらに乏しくなることが判明。
なお、歯ぐきの炎症を別の方法(歯と歯ぐきの間の溝である「歯周ポケット」の深さ)で確認した追加の解析でも、自覚症状との一致度は同じように低いままでした。どの方法で比べても、「自覚症状は実際の状態を正確には反映しない」という結果が一貫して認められました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究により、自覚症状だけに頼った口腔健康管理は、特に高齢者や認知症のある方において、歯周病の見落としを招く可能性が高いことが大規模データから明らかになりました。「口は健康の入り口」とされるなか、高齢者、とりわけ認知機能が低下した方々の口の健康を守ることは、健康寿命を延ばし、生活の質(QOL)を保つことに直結する重要な課題です。本研究成果は、高齢社会における歯科医療と、地域全体で高齢者を支える仕組み(地域包括ケア)や介護支援との連携を強化するための基礎資料として、広く活用されることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、国際科学誌「Journal of Clinical Periodontology」に、2026年7月15日に公開されました。
タイトル:“Self-Reported Periodontal Symptoms and Clinical Periodontal Status in Older Adults With and Without Dementia: A Population-Based Diagnostic Accuracy Study”
著者名:Tomoaki Mameno, Naoko Otsuki, Satoko Takeuchi, Sho Takeda, Tomoaki Iwayama, Masahide Takedachi, Ryohei Yamamoto, Kazunori Ikebe
DOI:https://doi.org/10.1111/jcpe.70168
なお、本研究は、大阪府後期高齢者医療広域連合の委託事業の一環として行われ、日本学術振興会科学研究費補助金(24K02764)の助成を受けて実施されました。

