
固体中をイオンが高速で流れる仕組みを解明
単純物理モデルが明らかにした超イオン伝導の基礎原理
研究成果のポイント
概要
大阪大学D3センター Sucharita Niyogi特任研究員、川﨑猛史准教授らの研究グループは、産業技術総合研究所 マテリアルDX研究センターの中村壮伸主任研究員、理化学研究所開拓研究所の小林玄器主任研究員、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所の安藤康伸准教授らとの共同研究を通して、結晶構造を保ったまま一部のイオンだけが液体のように協同的に運動する「超イオン伝導」が、どのような物理機構によって生じるのかを明らかにしました。
超イオン伝導体は、固体でありながら内部でイオンが高速に移動できる特殊な物質であり、全固体電池などへの応用が期待されています。しかし、その発現機構には未解明な点が多く残されていました。これまで超イオン伝導は、物質ごとの複雑な結晶構造や化学的性質に強く依存すると考えられており、異なる物質に共通する普遍的な発現機構については十分には理解されていませんでした。
今回、共同研究グループは、本質的な要素のみを取り出した単純物理モデル(図1)を構築し、大規模数値計算を行うことにより、「ホスト粒子の結晶構造の維持」とイオン伝導に寄与する「キャリア粒子の液体的イオン輸送」が両立する仕組みを解明しました。具体的には、静電相互作用に代表されるキャリア粒子同士の弱い遠隔相互作用と、結晶骨格を形成するホスト粒子の強い立体斥力があれば、普遍的に副格子融解を伴う高速イオン輸送が生じることを明らかにしました(図2)。
本研究成果は、高イオン伝導性を示す次世代固体電池材料やエネルギー変換材料の設計指針を提供し、原理に基づく材料開発の効率化に貢献することが期待されます。
また、本研究成果は、米国科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』に、7月8日(水)午前3時(日本時間)に公開されました。
図1. 超イオン伝導体における基本構造:ホスト粒子は強い立体斥力によって安定な結晶骨格を形成します。一方、キャリア粒子はホスト粒子の隙間に低密度で存在し、弱い遠距離相互作用(点線)によって低温では結晶構造を形成しますが、温度の上昇とともにホスト粒子に先駆けて融解します(副格子融解)。
図2. 超イオン伝導状態における粒子の運動:左図は本モデルで得られたホスト粒子とキャリア粒子の拡散係数(伝導性)を示しています。超イオン伝導領域(色付き領域)では、キャリア粒子が極めて高い伝導性を示す一方で、ホスト粒子の伝導性は低く、ホスト粒子が結晶骨格を形成したままほとんど移動しないことが分かります。右図は我々のモデル計算における超イオン伝導領域におけるキャリア粒子の軌道を示しています。軌道の色は粒子ごとに区別しています。キャリア粒子が結晶骨格を形成するホスト粒子の隙間を液体のように動き回り、高速に輸送されている様子が見て取れます。
研究の背景
これまで、超イオン伝導体は、固体でありながら内部でイオンが高速に移動できる特殊な物質であることが知られていました。全固体電池などへの応用が期待される一方で、超イオン伝導がなぜ発現するのかという本質的な物理機構の理解には課題がありました。特に、従来研究では物質ごとの複雑な結晶構造や化学的性質に強く依存していたため、異なる超イオン伝導体に共通する普遍的な理解を得ることが困難でした。
研究の内容
共同研究グループは、本質的な物理的性質のみを抽出した単純モデル(図1)に関する大規模数値計算により、超イオン伝導を生み出す基本的な粒子間相互作用とダイナミクスの関係を明らかにしました。
具体的には、イオン伝導に寄与するキャリアイオン(キャリア粒子)同士が静電相互作用などに代表される長距離に及ぶ比較的柔らかい相互作用(弱い遠距離相互作用)をもち、結晶骨格を形成するホスト粒子同士が強い立体斥力によって安定化されると、結晶構造を保ったままキャリア粒子のみが融解する「副格子融解」状態が生じることを明らかにしました。
さらに、この副格子融解状態においてキャリア粒子の協同的な高速輸送が実現されることを示し、超イオン伝導発現の普遍的な物理機構を明らかにしました(図2)。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、超イオン伝導を示す新しい固体電解質材料の設計指針の確立や、高性能な全固体電池材料の開発が期待されます。さらに、特定の物質に依存しない普遍的な物理機構を示したことで、多様な超イオン伝導体への応用や新規材料探索への展開が期待されます。今後は、本研究で得られた知見を実際の材料系へ応用することで、より高性能なイオン伝導材料の開発につながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年7月8日(水)午前3時(日本時間)に米国科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Probing Anharmonic and Heterogeneous Carrier Dynamics Across Sublattice Melting in a Minimal Model Superionic Conductor”
著者名:Sucharita Niyogi, Takenobu Nakamura , Genki Kobayashi, Yasunobu Ando, and Takeshi Kawasaki*
DOI:www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2605867123
なお、本研究は、学術変革領域研究(A)「イオン流の非平衡性と集団運動の理解による材料デザインの変革」(課題番号 JP24H02203、 JP24H02204)、JST創発的研究推進事業「多様な非晶性固体の構造抽出スキームの開発」(代表:川﨑猛史、課題番号:JPMJFR212T)、同「ヒドリドイオン導電性材料の開拓と新規イオニクスデバイスの創製」(代表:小林玄器、課題番号:JPMJFR213H)の一環として行われました。
参考URL
川﨑 猛史 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/8b2011ae4efafbba.html
SDGsの目標
用語説明
- 副格子融解
結晶全体の構造は保たれたまま、イオン伝導を担う一部のイオンだけが規則的な配列を失い、液体のように運動する状態を表します。超イオン伝導を引き起こす重要な物理現象の一つと考えられています。
- 超イオン伝導体
固体でありながら、内部のイオンが液体のように高速に移動できる物質を表します。高性能な全固体電池の実現に向けた重要な材料として注目されています。
- 全固体電池
液体の電解液の代わりに固体電解質を用いる蓄電デバイスです。高い安全性と高エネルギー密度の両立が期待される次世代電池として注目されています。
- 静電相互作用
電荷をもつ粒子の間に働く相互作用です。電荷の符号が同じ場合は反発し、異なる場合は引き合います。実際の超イオン伝導体では、キャリアイオン間に働く代表的な長距離相互作用の一つです。
- 立体斥力
粒子や原子が有限の大きさをもつため、同じ場所を同時に占めることができず、互いに重なれないことで生じる反発力です。結晶構造の安定化や粒子の配置を決定する重要な相互作用として知られています。

