正方形分子を組み上げた3次元周期構造の合成に成功

正方形分子を組み上げた3次元周期構造の合成に成功

微小結晶電子回折法(MicroED)によって精密な構造解析を実現

2026-7-11自然科学系
蛋白質研究所教授栗栖 源嗣

概要

自然科学研究機構分子科学研究所・総合研究大学院大学の瀬川泰知准教授、廣田宗士大学院生(研究当時)、杉山晴紀助教(研究当時)、平田直特任専門員、中野さち子特任専門員、

名古屋大学大学院工学研究科の松田亮太郎教授、名古屋大学未来社会創造機構の薄葉純一特任助教、土方優特任准教授、大阪大学蛋白質研究所・日本電子YOKOGUSHI協働研究所の中根崇智特任准教授(常勤)、川本晃大准教授、栗栖源嗣教授の研究グループは、剛直な正方形分子「テトラシクロペンタテトラフェニレン(TCTP)」を設計・合成し、これをユニットとして用いることで高い結晶性をもつ3次元共有結合性有機構造体「TCTP-COF」の合成に成功しました。さらに、微小結晶電子回折法(MicroED)を用いることで、スピロホウ素連結型3次元COFとして世界初となる原子レベルでの構造決定を達成し、それが「nboトポロジー」をもつサイコロ状の周期構造であることを明らかにしました。本成果は、3次元COFの精密な構造設計に新たな指針を与えるものです。

本研究成果は、2026年7月10日(金)付(米国東部時間)で米国科学振興協会(AAAS)の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

研究の背景

共有結合性有機構造体(COF)は、有機分子を共有結合で規則的に連結した多孔性結晶材料であり、分子レベルで構造設計が可能であることから、分離、触媒、エネルギー貯蔵など幅広い応用が期待されています。しかしながら、COFの合成ではしばしば非晶質や低結晶性の生成物が得られるため、精密な構造解析が困難であり、構造と物性の相関理解が進んでいません。特に3次元COFにおいては、単結晶X線構造解析が可能な例は限られており、結晶性COF合成のための新しい手法の開発が求められてきました。近年、ホウ素を含む結合様式であるボレート結合は高い安定性と可逆性を兼ね備えた分子間同士をつなぐ構造単位として注目されていますが、なかでもスピロボレート結合を用いた高結晶性3次元COFの合成例はなく、これまで結晶構造の詳細な決定には至っていませんでした。このような背景のもと、本研究では剛直な分子を用いた結晶化戦略と先端構造解析手法の組み合わせにより、この課題の克服を目指しました。

研究の内容

本研究では、まず3次元COF構築に適した分子設計として、剛直な正方形型ユニットであるTCTP骨格に着目しました。正方形が互いに直交して組み上がると3次元的な敷き詰め構造となり、これはnboトポロジーという名前で知られています(図1)。理論計算により、nboトポロジーをもつCOFに従来用いられているフタロシアニン骨格と比較して、TCTPは約30%高いひずみエネルギーをもち、変形が抑制されることが示唆されました(図2)。この剛直性により、結晶化過程での構造揺らぎが抑えられ、高秩序構造の形成が期待されます。さらに、TCTPにエチル基を8個導入することでTCTP平面が重なり合う構造を抑制し、溶解性を向上させる設計を行いました。

合成においては、このTCTP誘導体をモノマーとして、トリメチルボレートとの反応によりスピロボレート結合を形成し、3次元ネットワークを構築しました。その結果、粒径100 nm(ナノメートル、1 nm=10億分の1メートル)程度の微小結晶からなる高結晶性固体が得られました。通常の単結晶X線回折法では解析が困難なサイズであったため、本研究では微小結晶電子回折法(MicroED)を適用しました。この手法により、得られたCOFがnboトポロジーを有する立方晶構造(空間群Im-3m、格子定数a = 25.28 Å)であり、相互貫入のない3次元骨格であることを明らかにしました(図3)。

さらに、粉末X線回折(PXRD)測定により、結晶性試料全体がnboトポロジーの構造をとっていることを確認しました。固体NMRおよび赤外分光測定からは、スピロボレート結合の形成と高い構造均一性が示されました(図4)。また、熱重量分析および温度依存PXRD測定から、本材料は320 °C以上の高い熱安定性をもつことが分かりました。ガス吸着測定では、窒素および二酸化炭素の吸着等温線からミクロ孔構造が確認され、BET比表面積
1360 m²/gを記録しました。さらに、溶媒を完全に除去した後も構造崩壊が起きず、恒久的な多孔性を維持することが示されました。これらの結果から、本研究で開発したTCTP-COFは、結晶性・安定性・多孔性を兼ね備えた新しい3次元COFであることが明らかとなりました。

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図1. 4回対称性ユニットからnboトポロジーの3次元周期構造が組み上がる概念図。Brain Flakes®を使用。

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図2. フタロシアニン(従来のユニット)とTCTP(本研究で開発したユニット)の曲がりやすさの計算化学的比較。曲げたときのひずみエネルギーが大きいほど曲がりにくい。

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図3. TCTP-COFの合成と構造決定。A:TCTP-COFの合成条件。B:透過型電子顕微鏡で見たTCTP-COFの形。C:TCTP-COF微小結晶の電子回折像。D~F:MicroEDによって明らかにしたTCTP-COFの構造。

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図4. TCTP-COFの各種測定結果。粉末X線回折(A)および固体¹³C NMRスペクトル(B)は線幅が非常に狭く、高い結晶性や均質性をもつことが示された。各温度で加熱したあとのPXRD測定(C)より、320℃程度まで安定な物質であることが分かった。窒素および二酸化炭素の吸着測定(D)より、分子吸着能をもつ多孔性物質であることが明らかになった。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、モノマーの剛直性と溶解性に着目し、計算化学を用いた詳細な分子設計を用いることで、これまで困難であった3次元COFの精密構造決定を達成した点で重要な意義をもちます。微小有機結晶の構造解析を可能にするMicroEDが3次元COFの研究にも非常に有効であることを示した点は、今後の材料科学研究に大きな影響を与えます。分子設計により結晶性を制御する戦略は、他の多孔性材料や有機機能材料の開発にも応用可能です。本成果は、構造と機能の関係解明を加速し、次世代の高性能材料設計に新たな指針を提供するものです。

特記事項

【論文情報】
掲載誌: Science Advances
論文タイトル: Crystalline 3D covalent organic frameworks with nbo topology
(nboトポロジーをもつ結晶性3D共有結合性有機構造体)
著者: Soshi Hirota, Haruki Sugiyama, Nao Hirata, Sachiko Nakano, Junichi Usuba, Yuh Hijikata, Ryotaro Matsuda, Takanori Nakane, Akihiro Kawamoto, Genji Kurisu, Yasutomo Segawa* (*は責任著者))
掲載日: 2026年7月11日(オンライン公開)
DOI: 10.1126/sciadv.aeg6230

JST創発的研究支援事業 JPMJFR211R
JSPS科学研究費助成事業 基盤研究B JP25K01758
JSPS科学研究費助成事業 若手研究 JP22K14660
JSPS科学研究費助成事業学術変革領域研究A「π分子複雑性」計画研究 JP25H01265
公益財団法人 村田学術振興・教育財団
公益財団法人 池谷科学技術振興財団
公益財団法人 立松財団
公益財団法人 矢崎科学技術振興記念財団
分子科学研究所 課題研究 JPMXP1225MS5001
固体NMR測定は名古屋工業大学産学官金連携機構設備共用部門における共用設備を利用
量子化学計算は自然科学研究機構 岡崎共通研究施設 計算科学研究センターのリソースを利用 25-IMS-C297
MicroEDは大阪大学蛋白質研究所の共同利用研究課題として実施し(CRa-23-02, CRa-24-02, CRa-25-02)、電子顕微鏡はAMED生命科学・創薬研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)「生命科学と創薬研究に向けた相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化」の支援を一部受けた機器を使用

用語説明

共有結合性有機構造体(COF)

有機分子同士が共有結合によって規則的に連結された結晶性多孔体。分子設計により細孔サイズや機能を制御できるため、ガス吸着、分離、触媒などへの応用が期待される。3次元構造のCOFは特に高い機械的強度や機能性を示すが、結晶化が難しく構造解析例は限られている。

スピロボレート結合

ホウ素原子が4配位構造をとり、2つの配位子が直交した形で結合する特徴的な結合様式。剛直で安定な構造を形成しやすく、可逆的な結合形成が可能なため、結晶性材料の構築に適している。

nboトポロジー

3次元ネットワーク構造の一種で、立方晶系に基づく規則的な結合様式をもつトポロジー。名前は酸化ニオブ(Nb₂O₅)の結晶構造に由来。

微小結晶電子回折法(MicroED)

ナノ〜サブミクロンサイズの微小結晶に対して電子線を用いて回折データを取得し、結晶構造を決定する手法。従来のX線結晶構造解析手法では解析困難な微小結晶にも適用可能であり、近年、MOF(有機金属構造体)やCOFなどの構造解析において重要な技術となっている。

比表面積

単位質量あたりの表面積を示す指標で、多孔性材料の性能評価に広く用いられる。BET比表面積はBrunauer-Emmett-Teller法によって算出された値。