
\結晶生成のメカニズム理解に一歩前進!/ 超高圧下でガラスが結晶化する瞬間を 世界で初めて観測
100万気圧下でCaSiO₃ガラスからペロブスカイト構造の結晶が生成
研究成果のポイント
- レーザーショック圧縮とX線自由電子レーザー(XFEL)を組み合わせた超高速の時間分解X線回折測定により、ガラス(ケイ酸カルシウムガラス、CaSiO₃)から結晶が生成する、ガラス-結晶相転移の直接観察に成功。
- 約100 GPa(〜100万気圧)・5000 Kという極限環境下で、ケイ酸カルシウム組成の超高圧構造(鉱物名デイブマオアイトに相当)が数ナノ秒(1.7ナノ秒)で形成されることを初めて明らかに。
- 非晶質状態(アモルファス)から結晶が生成する際の反応やメカニズムの深い理解が、材料科学や地球惑星科学において欠かせない知見となることに期待。
概要
大阪大学大学院工学研究科のAlexis Amouretti特任研究員(常勤)、尾崎典雅教授、理化学研究所の宮西宏併博士、高輝度光科学研究センター(JASRI)の籔内俊毅博士らを中心とした国際研究グループは、レーザーショック圧縮とX線自由電子レーザー(XFEL)を組み合わせたフェムト秒時間分解X線回折測定により、超高圧・高温環境下のCaSiO₃(ケイ酸カルシウム)ガラスが急激に結晶化する様子を世界で初めて観測しました。
ハイパワーのレーザーをガラス試料のターゲットに照射することによって、地球深部にも相当するような約100 GPaという極限状態を生成し、同時にX線自由電子レーザーを照射することでリアルタイム観測しました。その結果、圧縮された非晶質(アモルファス)状態のCaSiO₃ガラスが、約1.7ナノ秒という極めて短い時間で、瞬間的にCaSiO₃組成のペロブスカイト結晶(Pv-CaSiO₃)へと転移することを明らかにしました。
結晶粒径の時間発展を観察・解析した結果、この結晶化過程が原子の移動(拡散)によって支配される「拡散駆動型」の相転移であることが示唆されました。また、この結晶粒の急激な成長は、超高圧力状態を減圧する解放波(release wave)によって促進されている可能性も示されました。この研究成果は、未だ謎の多い“ガラス-結晶相転移”のミクロな構造変化や化学反応に関する理解を前進させるものです。特に、ごく短時間のガラス–結晶転移のメカニズムに迫る直接観測の例は極めて限られており、材料科学、地球惑星科学、レーザー科学などに新たな知見を提供します。
本研究成果は、2026年5月21日(米国東部標準時)に、米国物理学会刊行の学術誌Physical Review Bに オンライン公開されました。本論文は、同誌編集者によって“Editors’ Suggestion”の注目論文に選ばれています。
図1. 典型的なガラス由来の信号(青とオレンジ)から結晶由来のピーク(*)が現れ、時間と共に変化する(左)。X線回折測定の元画像。生成したペロブスカイト結晶からのリングパターン(右)。
研究の背景
ガラスから結晶、もしくは結晶からガラスへの転移は、物質科学における重要な未解決問題の一つです。特に、極限高圧・高温環境下でナノ秒といった極短時間に起こる結晶化ダイナミクスについては、実験的な観測が極めて困難であり、その詳細は十分に理解されていませんでした。
近年、X線自由電子レーザー(XFEL)を利用した時間分解X線回折法の発展により、衝撃による瞬間的な圧縮下での構造変化を超高速で観測することが可能となりました。これまでSiO₂ガラスについては高速の結晶化が報告されていましたが、多元素系ケイ酸塩ガラス(MgSiO₃など)においては全く逆の結果が得られていました。そこで物理化学的性質が異なる別のケイ酸塩ガラスに関する研究が期待されていました。CaSiO₃は、地球深部や岩石惑星内部に広く存在する重要なケイ酸塩物質であることから、高温高圧下での結晶化ダイナミクスを理解することは、地球惑星科学においても重要です。
研究の内容
本研究グループは、ハイパワーレーザーショック圧縮によってCaSiO₃ガラスを約108 GPaまで圧縮し、その瞬間の構造変化をXFELによる時間分解X線回折法で観測しました。その結果、圧縮直後にはアモルファス状態特有の回折パターンのみが観測されましたが、約1.7ナノ秒後にはCaSiO₃ペロブスカイト結晶(Pv-CaSiO₃)に対応する明瞭な回折ピークが急激に出現しました。これは、圧縮されたガラスが極めて短時間で結晶化したことを示しています。
さらに、結晶粒径の時間発展を解析したところ、結晶粒は約20 nm(ナノメートル)まで急速に成長し、その後はゆるやかな成長段階へ移行することが分かりました。急激な結晶成長の開始時刻が、ショック圧縮状態を減圧させる解放波の到来時刻と一致していることも明らかになりました。この結果から、単純な圧縮だけではなく、減圧過程そのものが結晶核生成を促進している可能性が示されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、極限環境下におけるガラス–結晶転移ダイナミクスの理解を前進させる全く新しいデータを提供しています。特に、ショック圧縮によって誘起される結晶化機構の時間的な変化を理解することは、材料合成技術や高機能セラミックス材料開発への応用につながる可能性があります。さらに、CaSiO₃は地球や岩石惑星内部を構成する主要物質の一つであるため、本研究成果は、小惑星衝突や惑星形成時に起こる相転移や鉱物形成過程の理解にも重要な知見を与えることが期待されます。
特記事項
本研究成果は2026年5月21日(米国東部標準時)に、米国物理学会刊行の学術誌Physical Review Bでの掲載に先立ちオンライン公開されました。
題名:「Abrupt crystallization from shock-compressed CaSiO₃ glass」
邦訳:「衝撃圧縮されたCaSiO₃ガラスからの高速結晶化」
著者:Alexis Amouretti, Keita Nonaka, Xun Liu, Yoichiro Hironaka, Haijun Huang, Ryosuke Kodama, Keith V. Lawler, Kohei Miyanishi, Hirotaka Nakamura, Craig P. Schwartz, Yusuke Seto, Keiichi Sueda, Ye Wu, Makina Yabashi, Toshinori Yabuuchi, and Norimasa Ozaki
DOI:https://doi.org/10.1103/szzh-4lv1
本研究は、X線自由電子レーザー施設SACLA のビームラインBL3において実施されました(課題番号:2020A8047、2021A3738、2021B8067、2022A8052、および2022B8044)。SACLAに設置された高出力ナノ秒レーザーは、大阪大学によって導入されたものです。レーザーの照射パターンの均一性を向上させるための光学素子は、SACLA基盤開発プログラムの支援を受けています。また本研究は、文部科学省「先端研究基盤共用促進事業(先端研究設備プラットフォームプログラム)」 (課題番号:JPMXS0450300321, 22)、同Quantum Leap Flagship Program(課題番号:JPMXS0118067246)、および日本学術振興会科研費(課題番号:22KF0243、20H00139、および22K18702)、同Core-to-Core Program(課題番号:JPJSCCA20230003)の支援を受けて実施されました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- レーザーショック圧縮
高出力のレーザーを照射することによって発生する衝撃波(ショックウェーブ)で物質を圧縮する方法。
- X線自由電子レーザー(XFEL)
光速に近い速さの電子ビームを磁場と相互作用させ、極めて高い周期で蛇行伝搬させると、波長が短いX線領域で干渉性の高い光、すなわちX線レーザーを発生させることができます。日本のX線自由電子レーザーSACLAは世界有数の実験施設です。
- X線回折
原子が秩序をもって周期的に並んでいる固体の状態にX線を入射させると、散乱されたX線に原子の周期性を反映した強度パターンが現れる現象。
- ケイ酸カルシウム
酸化カルシウム、二酸化ケイ素、水などが様々な割合で結合した組成物の総称。本研究ではCaSiO₃を用いている。
- 結晶
原子や分子が秩序をもって周期的に並んでいる固体の状態。
- デイブマオアイト
地球下部マントルの超高温・超高圧条件で生成される、CaSiO₃を主成分とする天然鉱物の名前。
- ナノ秒
10⁻⁹秒のこと。10億分の1秒。
- アモルファス
結晶とは異なり、構成原子や分子が規則正しい配列を持たない状態の固体。そのような性質のことを非晶質という。ガラスは代表的な非晶質の材料です。
- フェムト秒
10⁻¹⁵秒のこと。
- ペロブスカイト
近年太陽電池関連などで話題に上ることも多い結晶構造。立方体の中に八面体が入り込んだような原子配置となっている。
- 拡散
原子や分子、または熱などが散らばり広がっていく現象。


