B型肝炎排除へ近づく免疫応答を解明

B型肝炎排除へ近づく免疫応答を解明

単球のIL-1βを標的とした治療開発の可能性に期待

2026-6-2生命科学・医学系
医学部附属病院特任助教(常勤)滋野 聡

研究成果のポイント

  • B型慢性肝炎患者における血中CD14陽性単球由来のIL-1βが、血清HBs抗原低下へ関与すること及び予測因子として有用であることを示した
  • B型肝炎ウイルス(HBV)は、免疫応答を標的とした治療戦略が注目されており、ウイルス排除に関与する免疫応答の詳細は明らかになっていなかったが、今回、単一細胞遺伝子発現解析で詳細に調べることで明らかに
  • IL-1β発現を指標とした単球機能の調整がB型慢性肝炎患者のウイルス排除を目指した新しい治療法に繋がることが期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科の滋野聡さん(研究当時 博士課程後期、現 医学部附属病院 特任助教(常勤))、小玉尚宏教授(消化器内科学)、JCHO大阪病院消化器内科、大阪医療センター消化器内科、大阪けいさつ病院消化器内科、大阪国際がんセンター肝胆膵内科、市立貝塚病院消化器内科、大阪急性期・総合医療センター消化器内科、大垣市民病院消化器内科、関西労災病院らの研究グループは、B型慢性肝炎患者における血中CD14陽性単球由来のIL-1βが、血清HBs抗原低下へ関与すること及び予測因子として有用であることを示しました(図1)
B型肝炎ウイルス(HBV)は、慢性肝炎や肝硬変、そして肝がんを引き起こす世界的な感染症であり、現在までに体内からのウイルス排除を高率に達成できる治療法は存在していません。ウイルスに対する免疫応答を標的とした新規の治療戦略が注目されていますが、ウイルス排除に関与する免疫応答の詳細は明らかになっていません。

今回研究グループは、現行の治療薬である核酸アナログ製剤内服中のB型慢性肝炎患者の血中免疫細胞を単一細胞遺伝子発現解析という技術を用いて詳細に調べることで、血中免疫細胞の中でも単球の発現する炎症物質IL-1βが、HBVの排除に繋がるとされる血中HBs抗原の低下に関与していることを明らかにしました。

さらに、核酸アナログ治療開始1年後の血中IL-1β値とその後の血中HBs抗原値の経過に注目し、IL-1β濃度が高ければHBs抗原が低下しやすいことを明らかにしました。

これらの結果から、IL-1β発現を指標とした単球機能の調整がB型慢性肝炎患者のウイルス排除を目指した新しい治療法に繋がることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Hepatology Communications」に、2026年6月に公開されました。

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図1. B型慢性肝炎におけるHBs抗原低下と単球のIL-1β発現

研究の背景

HBVは世界人口の約3%にあたる2億5千万人が罹患する世界的な感染症であり、国内においてもその感染者数は約110−120万人に及びます。HBVに感染すると、一部の症例ではウイルスの活動性が持続して慢性的な肝障害が生じ、肝硬変や肝がんに進展します。現在HBVに対する治療薬としてはインターフェロン製剤や核酸アナログ製剤があり、ウイルス増殖抑制効果と肝炎沈静効果が認められています。しかし、血液中のHBs抗原が陰性化することで示される「機能的治癒」を達成することは、既存の治療では依然として困難です。その理由の一つとして、HBVが肝細胞の核内に姿を変えて潜伏し続けることが知られています。

また、ウイルスを排除するためには免疫システムが適切に働くことが重要ですが、HBVは免疫反応を撹乱しその監視から逃れる仕組みを持つことも知られています。しかし、ウイルスの排除に関与する宿主側の免疫因子については、いまだ十分に解明されていません。そこで研究グループは、HBs抗原の低下に関わる宿主免疫の特徴を解析し、HBs抗原の陰性化を目指した新しい治療標的や予測因子の探索を行いました。

研究の内容

本研究では、核酸アナログ治療を受けたB型慢性肝炎患者のうち、血中のHBs抗原が大きく低下した患者と、高い値が続いた患者、さらに健常者から血液を採取し、免疫細胞の働きを詳細に調べました。血中の免疫細胞を1細胞レベルで解析する単一細胞遺伝子発現解析を用いた結果、HBs抗原が大きく低下した患者では、CD14陽性単球と呼ばれる免疫細胞で炎症関連物質であるIL-1βの発現が高く、異物を取り込む貪食の働きに関わる遺伝子の活性も高いことが明らかとなりました。また、別のB型慢性肝炎患者集団の血液細胞を用いて検証を行ったところ、同様にHBs抗原が低下した患者ではCD14陽性単球におけるIL-1βの発現が高いことが確認され、本研究の結果が再現されました(図2)。

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図2. 血中免疫細胞の単一細胞遺伝子発現解析と検証群での評価

患者由来の免疫細胞を用いた実験では、CD14陽性単球をHBs抗原で刺激すると、HBs抗原が低下した患者の免疫細胞では、そうでない患者の免疫細胞に比べてIL-1βの産生がより強く誘導されることが分かりました。また、HBVを産生する肝細胞株にIL-1βを加えると、培養液中に放出されるHBs抗原の量が減少することが確認されました(図3)。これらの結果は、IL-1βがHBs抗原の低下に関与している可能性を示しています。

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図3. 患者由来単球及びHBV発現細胞株を用いた検討

さらに、核酸アナログ治療開始1年目の時点でHBs抗原値が高値であったB型慢性肝炎患者集団について、その後の長期経過を調査し、血液中の免疫関連物質(サイトカイン)を調べました。その結果、後にHBs抗原が低下した患者では、治療開始1年目の時点で血清IL-1βの値が高いことが分かりました。さらに統計解析の結果、血清IL-1βの高値はその後のHBs抗原低下を予測する重要な指標である可能性が示されました(図4)。

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図4. 長期観察集団における血中IL-1β値と予測マーカとしての検討

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究の結果から、B型慢性肝炎患者における核酸アナログ治療中のHBs抗原低下に、CD14陽性単球由来のIL-1βが関与している可能性が明らかとなりました。また、CD14陽性単球由来のIL-1βはHBs抗原の低下を示す指標となるだけでなく、将来的にはHBVの体からの完全な排除を目指す新しい治療法の標的として臨床応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年6月に米国科学誌「Hepatology Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Monocyte-Derived IL-1β Predicts and Promotes HBsAg Decline in Chronic Hepatitis B Patients Under Nucleoside Analogue Therapy”.
著者名:Satoshi Shigeno1,#, Takahiro Kodama1, #*, Kazuhiro Murai1, Emi Sometani1, Kentaro Yasuda1, Yuki Tahata1, Akira Nishio2, Satoshi Tanaka3, Masanori Miyazaki4, Kazuyoshi Ohkawa5, Naruyasu Kakita6, Seiichi Tawara7, Takayuki Yakushijin7, Hayato Hikita1, Hidenori Toyoda8, Tetsuo Takehara9(#共同筆頭著者、*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 消化器内科学
2. JCHO大阪病院 消化器内科
3. 大阪医療センター 消化器内科
4. 大阪けいさつ病院 消化器内科
5. 大阪国際がんセンター 肝胆膵内科
6. 市立貝塚病院 消化器内科
7. 大阪急性期・総合医療センター 消化器内科
8. 大垣市民病院消化器内科
9. 関西労災病院国立国際医療研究センター
DOI:https://doi.org/10.1097/HC9.0000000000000957

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)肝炎等克服実用化研究事業 B型肝炎創薬実用化等研究事業 「イムノ・オミクス研究を基盤としたB型肝炎に対する治療法の開発」、「B型肝炎ウイルス持続感染モデルを活用した病態解明および新規治療法の開発」、「B型肝炎モデル動物と多施設臨床検体を用いた革新的B型肝炎治療法開発」、肝炎等克服緊急対策研究事業「NAFLD/NASHおよび非ウイルス性肝がんの病態解明と治療法開発」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金研究の一環として行われました。

参考URL

小玉 尚宏 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0beed4448a279bc6.html

用語説明

CD14陽性単球

血液中に存在する免疫細胞の一種で、細菌やウイルスなどの異物を認識し、体の防御反応を担う細胞。

HBs抗原

B型肝炎ウイルスの表面に存在するタンパク質で、血液中に検出されることでウイルス感染の指標として用いられる。

核酸アナログ製剤

B型肝炎ウイルスの遺伝子を作る核酸(DNA)の合成を阻害して、ウイルスの増殖を抑制する薬剤。

単一細胞遺伝子発現解析

細胞を1つずつ解析し、細胞ごとの遺伝子の働きを調べる解析技術。

サイトカイン

主に免疫系細胞から分泌されるたんぱく質で細胞間の情報伝達を担っている。