超高強度レーザーとXFELで ナノ構造内部のプラズマを直接可視化

超高強度レーザーとXFELで ナノ構造内部のプラズマを直接可視化

ナノワイヤー中にエネルギーが閉じ込められる仕組みを超高速計測で解明

2026-6-1自然科学系
レーザー科学研究所教授重森 啓介

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研究成果のポイント

  • 超高強度レーザーを照射したナノ構造材料の内部で生じるプラズマが、狭い領域で効率よく加熱される様子を、X線自由電子レーザー(XFEL)によって直接計測することで初めて実証。
  • 非常に短い時間における変化で計測が極めて困難であったが、XFELを用いることにより直接可視化することに成功。
  • レーザーエネルギーをナノ構造によって制御する考え方は、レーザー加工や先端材料開発など、より広い産業分野への波及も期待される。

概要

大阪大学レーザー科学研究所(兒玉了祐所長)の田中大裕さん(当時工学研究科環境エネルギー工学専攻博士後期課程在籍)、重森啓介教授、およびネバダ大学リノ校、レーザー技術総合研究所、高輝度光科学研究センター、理化学研究所、関西大学理工学研究科らの国際共同研究グループは、ナノメートルサイズの細かい柱状構造を多数並べた特殊な材料(ナノワイヤー)に超高強度レーザーを照射し、その内部で生じるプラズマの振る舞いを、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いて直接“可視化”することに初めて成功しました。

この材料は、「非常に細かい毛のような構造が密集した材料」であり、レーザー光を内部に取り込みやすい特徴を持っています(図1)。そのため、通常の平らな材料よりも効率よくエネルギーを吸収できることから、高輝度X線源、粒子加速、核融合研究などへの応用が期待されています。しかし、その内部で起きる現象は、時間的にも空間的にも極めて小さいため、これまで直接観測することは困難でした。

本研究では、このナノワイヤーにレーザーを照射した直後の状態を、超高速で観測できるXFELで時間ごとに追跡しました。その結果、レーザー照射直後にナノワイヤーが急激に加熱され、その後、ワイヤー構造の崩れに伴ってさらに温度が上昇することが明らかになりました。さらに、電子の動きが横方向に抑えられるため、エネルギーが外へ広がりにくく、内部に閉じ込められることも分かりました。

本成果は、レーザーと物質の相互作用の理解を大きく前進させるものであり、将来的な高効率エネルギー利用技術やレーザー核融合研究への応用が期待されます。本研究成果はSpringer Natureが発刊する学術誌『Scientific Reports』に2026年4月1日に掲載されました。

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図1. 本研究で使用された金属ナノワイヤーの(a)光学顕微鏡及び(b)電子顕微鏡写真。直径が約200 nmのワイヤーがおよそ500 nmの間隔で並んでいる。

研究の背景

近年、超高強度レーザー技術の進展により、実験室で極めて高温・高密度の状態を作り出すことが可能となり、核融合や宇宙物理、粒子加速などの研究が大きく進展しています。

その中で、微細な柱状構造を多数並べたナノワイヤーは、レーザー光を内部に閉じ込めやすく、従来の平坦な材料に比べて高いエネルギー吸収効率を示すことが知られています。このため、強力なX線発生や高エネルギー粒子生成などへの応用が期待されてきました。

一方で、このような材料の内部で、エネルギーがどのように吸収され、どのように広がっていくのかについては、これまで主に数値シミュレーションや間接的な計測に頼っていました。ナノ構造の内部で起きる現象は、時間スケールではピコ秒以下、空間スケールではマイクロメートル以下と極めて小さいため、従来の計測手法では直接見ることが難しかったからです。

この課題を解決するために、本研究グループは、超高速・高輝度のX線を発生できるXFELを用い、レーザー照射直後のナノワイヤー内部の状態を直接観測することに取り組みました。

研究の内容

本研究では、高強度レーザーを照射した微細構造材料の内部を、XFELを用いたポンプ・プローブ計測によって観測しました。特に、ナノワイヤーの部分とその下にある基板部分を異なる材料で作製することにより、XFELのエネルギーを調整して、それぞれの領域の状態を分けて観測できるようにしました。これにより、材料内部のどこで、いつ、どのようにエネルギーが蓄えられ、移動するかを詳しく調べることが可能になりました。その結果、次のような重要な知見が得られました(図2)。

まず、レーザー照射直後に微細構造内部が急速に加熱され、電子温度はおよそ120 eVに達することが分かりました。さらに、およそ10ピコ秒後(1000万分の1秒後)には、構造そのものの崩れに伴って電子温度が約140 eVまで上昇することが明らかになりました。これは、最初のレーザー加熱だけでなく、構造変化そのものが追加の加熱に寄与していることを示しています。

また、エネルギーが横方向にあまり広がらないことも観測されました。これは、微細な柱状構造のすき間と、その周囲に形成される磁場の影響によって、電子の横方向の移動が抑えられているためだと考えられます。その結果、エネルギーが局所的に閉じ込められ、高温状態が保たれやすくなっていることが分かりました。さらに、ナノワイヤーの部分で発生した高エネルギー電子が、その下の基板部分に到達するまでの時間が、およそ0.2ピコ秒であることも明らかになりました。

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図2. ナノワイヤーアレイにおける加熱機構の概念図。(a)巨視的な概念図と(b)ナノワイヤー1本に着目した加熱プロセスの概念図

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、ナノ構造を利用した高効率なエネルギー吸収および輸送制御に関する重要な知見を提供するものです。特に、レーザーエネルギーを効率よく高温状態へ変換し、そのエネルギーを局所に保つことができるという知見は、将来的な高輝度X線源の開発、レーザー駆動粒子加速、小型化された核融合技術などにおいて、材料設計の新しい指針になると期待されます。また、エネルギーの流れをナノ構造によって制御する考え方は、レーザー加工や先端材料開発など、より広い産業分野への波及も期待されます。

本研究で用いたXFELによる超高速観測手法は、今回の材料に限らず、さまざまな微細構造材料や極限状態物質の研究にも応用可能であり、今後の高エネルギー密度科学の発展に貢献する重要な計測技術になると考えられます。

特記事項

本研究成果はSpringer Natureが発刊するオープンアクセス誌『Scientific Reports』に2026年4月1日(水)0:00(日本時間)に掲載されました。

タイトル:“Ultrafast plasma dynamics in laser-irradiated nanowire arrays probed with an X-ray free-electron laser”
著者名:Daisuke Tanaka, Hiroshi Sawada, Chiharu Nakatsuji, Sota Matsuura, Tomoyuki Idesaka, Takumi Sato, Takuya Honda, Ichiro Nishii, Shun Horimoto, Yoshiki Takeshima, Toshihiro Somekawa, ToshinoriYabuuchi, Kohei Miyanishi, Keiichi Sueda, Yuichi Inubushi, Yasuhiko Sentoku, Tomohiro Shimizu, Shoso Shingubara, Norimasa Ozaki, Kohei Yamanoi, and Keisuke Shigemori
DOI:10.1038/s41598-026-47126-0

なお、本研究は、 Japan Synchrotron Radiation Research Institute(JASRI)の承認課題、Institute of Laser Engineering(大阪大学レーザー科学研究所)の共同研究課題、日本学術振興会・科学研究費補助金、SACLA 大学院生研究支援プログラム、米国National Science Foundation、およびJST SPRINGの支援のもと実施されました。

参考URL

重森 啓介 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja//d89d32580e19c3b8.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

ナノ構造材料

ナノワイヤ構造。ナノメートルサイズの細い柱状構造が多数並んだ材料。レーザー光を内部に取り込みやすい特徴を持つ。

プラズマ

物質が高温になり、原子から電子が離れて自由に動けるようになった状態。雷や太陽の内部でも見られる。

X線自由電子レーザー(XFEL)

非常に短い時間だけ発光する強力なX線を発生する装置。極めて速く起こる現象を高い時間分解能で観測できる。

ポンプ・プローブ計測

一つの光で物質に変化を起こし、その直後の状態を別の光で観測する方法。超高速現象の時間変化を追跡できる。

電子温度

プラズマ中の電子がどれくらい高いエネルギーを持っているかを表す指標。1eV(電子ボルト)は1万度に相当する。

高エネルギー密度

非常に高い温度・圧力・密度を持つ物質状態。核融合や惑星内部、宇宙現象などの研究に関係する。