\チョンとしてから毛づくろい/ 淡路島のサルに特有のジェスチャー行動 「タッピング」を発見

\チョンとしてから毛づくろい/ 淡路島のサルに特有のジェスチャー行動 「タッピング」を発見

2026-4-28自然科学系
人間科学研究科(研究当時)特任研究員貝ヶ石 優

研究成果のポイント

  • 淡路島に生息するニホンザル集団において、「相手に軽く触れる」行動が毛づくろいの誘い掛けとして機能していることを発見
  • 同様の行動はこれまでニホンザルで報告されておらず、淡路島のサルの文化的行動であることが示唆された
  • 争いの少ない平和的な社会が、新たなコミュニケーション行動の誕生と文化的な伝達を支えうることが示唆され、動物の社会における文化的多様性がどのように生まれるかを理解する上で、重要な一歩となることに期待

概要

大阪大学大学院人間科学研究科の貝ヶ石優 特任研究員 (研究当時。現:奈良女子大学特別研究員(日本学術振興会)) は、淡路島に生息するニホンザル集団において、この集団に特有の、毛づくろいを誘いかけるジェスチャー行動「タッピング」が存在することを発見しました (図1)。

霊長類は他の個体と関わる際に、様々なジェスチャーを用いることで、社会交渉を円滑に進めます。特に毛づくろいの際には、相手の前に横たわることで毛づくろいを催促する行動がよく知られています。しかし、本研究で確認されたタッピングは、相手の体に軽く触れることで毛づくろいが始まり、これまでニホンザルでは報告されていませんでした。

今回、貝ヶ石特任研究員は、2017~2024年の行動観察により、淡路島ニホンザル集団において、「相手の体に触れる」というジェスチャーが、相手に毛づくろいを誘いかける機能を持つことを発見しました。

タッピングは、寛容性が高く平和的な社会を形成する淡路島のサルに特有の文化的な行動であると考えられます。高い寛容性が単に争いを減らすだけでなく、新たなコミュニケーションの創出と文化的伝達をも促しうることを示唆しています。動物の社会における文化的多様性がどのように生まれるかを理解する上で、重要な一歩となる成果です。

本研究成果は、国際学術誌「Ethology」に、4月7日(火)15時(日本時間)に公開されました。

動画1. 淡路島集団での「タッピング」の例。①後ろを向いているサルに対して②チョンと触れると、③相手が振り返って④毛づくろいになる。


研究の背景

霊長類は、他個体とのコミュニケーションを円滑に行うため、様々なジェスチャーを用います。中でも「毛づくろい催促ジェスチャー」は、相手の前に横たわったり、自分の体の一部を相手に向けたりすることで毛づくろいを促す行動で、ニホンザルを含む多くの霊長類で広く見られます。しかし、淡路島に生息するニホンザル集団 (以下、淡路島集団) では、このような催促ジェスチャーとは別に、相手の体に軽く触れることで毛づくろいが始まる行動がしばしば観察されます。このような行動は、これまでニホンザルでは報告されていません。貝ヶ石特任研究員は、この行動を「タッピング」と命名し、その機能や催促ジェスチャーとの違いを検証しました。

研究の内容

貝ヶ石特任研究員は2017年から2024年にかけて、淡路島集団でタッピングの事例を114事例記録し、比較対象として同期間に記録した催促ジェスチャー (619事例)との違いを分析しました。その結果、タッピングの後には、催促ジェスチャーと同じく毛づくろいが続くことが多く (77.2%)、グルーミング以外の親和的交渉は見られませんでした。

催促ジェスチャーでは、催促した個体が毛づくろいを受けるのが一般的ですが (96.8%)、タッピングでは触れた側・触れられた側のどちらが毛づくろいを行うかは決まっていませんでした。つまりタッピングは、相手に毛づくろいをさせるというよりも、毛づくろいをしようと誘い掛ける行動であると考えられます。また催促ジェスチャーと比べ、タッピングはそれほど親しくない相手に対して多く用いられており、関係性の弱い相手との間に毛づくろいのきっかけを作る手段として機能している可能性があります。

淡路島集団においてタッピングは主に高順位メスを中心に用いられており、集団内の特定の個体から広まった文化的行動である可能性が示唆されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究でタッピングが観察された淡路島集団は、ニホンザルとしては特別に寛容性が高い、平和的な社会を形成していることが知られています。ニホンザル一般に見られる催促ジェスチャーと異なり、タッピングは相手の体に触れることで毛づくろいを誘いかける行動です。特別に寛容性の高い淡路島集団だからこそ、相手の体に触れてもケンカに発展せず、毛づくろいのような親和的な交渉に繋がるのだと考えられます。

本研究は、高い寛容性が単に争いを減らすだけでなく、新たなコミュニケーションの創出と文化的伝達をも促しうることを示唆しています。動物の社会における文化的多様性がどのように生まれるかを理解する上で、重要な一歩となる成果です。

特記事項

本研究成果は、2026年4月7日(火)15時(日本時間)に国際学術誌「Ethology」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“A newly reported tactile gesture for grooming initiation in Japanese macaques (Macaca fuscata) at Awajishima, Japan”
著者名:Yu Kaigaishi
DOI:10.1111/eth.70075

参考URL

貝ヶ石優 特任研究員 researchmap
https://researchmap.jp/yu_kaigaishi