振動の力で温室効果ガスを変換

振動の力で温室効果ガスを変換

カーボンニュートラルに貢献するCO₂変換の新技術

2026-4-23自然科学系
産業科学研究所助教近藤 吉史

研究成果のポイント

  • 独自に開発した圧電触媒により、二酸化炭素(CO₂)から一酸化炭素(CO)への変換を達成
  • 超音波の「振動」によるCOへの変換を可能とし、COの生成速度は既存の圧電触媒と比較して約3.1倍という大幅な活性向上を実現
  • 500 °C以上の高温条件が課題とされるCO₂のCO変換に対し、熱や光を必要としない低環境負荷プロセスとして、炭素資源の有効利用への貢献が期待される

概要

大阪大学産業科学研究所のCao Jingさん(大学院工学研究科博士後期課程)、近藤吉史助教、Seo Yeongjun助教、後藤知代特任教授(常勤)(兼 奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 教授)、関野徹教授の研究グループは圧電体であるチタン酸バリウム(BaTiO₃)ナノキューブを基材とした、超音波照射下で二酸化炭素(CO₂)を一酸化炭素(CO)へ変換可能な圧電触媒の作製に成功しました。

圧電触媒は、機械的エネルギーである「振動」を用いることで、室温かつ常圧という非常に温和な条件で物質変換反応を引き起こすことができるため、新しい触媒プロセスとして注目されています。

今回、研究グループは、活性点として単原子ニッケル(Ni)を固定化した窒素ドープカーボン(NC)をBaTiO₃ナノキューブの表面に担持した圧電触媒を開発しました。未担持のBaTiO₃と比較して約3.1倍という大幅な活性向上を実現し、高効率かつ高選択的にCO₂からCOを生成できることを見出しました。加えて、Ni単原子サイトがCO₂からCOへの変換を大幅に促進することを明らかにしました。

これにより、CO₂還元反応において未利用である振動エネルギーを活用した、新しいCO₂変換技術の開発や、持続可能な炭素循環社会の実現への応用が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌 『Journal of Materials Chemistry A』 に2026年1月21日にオンライン掲載されました。また、2月19日に出版された同誌のOutside Back Coverにも選出されています(図1)。

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図1. 超音波照射下でのNi固定化NC担持BaTiO₃によるCO₂変換の概略図。論文掲載誌のOutside Back Coverに選出。

研究の背景

大気中のCO₂濃度の増加は地球温暖化を引き起こす主要因のひとつとされており、その削減に向けた取り組みが世界的に進められています。日本においても、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、CO₂を単なる排出物ではなく、炭素資源として活用する技術の確立が重要視されています。CO₂の還元反応によって生成されるCOは、化学工業において基幹原料として広く利用され、燃料や各種有機化合物の合成にも不可欠な物質です。一方で、従来のCO製造プロセスは500 ℃以上の高温条件に依存しており、エネルギー消費の観点からも課題が残されていました。

2010年に報告された圧電触媒は、機械的エネルギーである「振動」を駆動力とする新しい触媒プロセスであり、常温・常圧で物質変換を行うことができるといった利点を有しています。これまで圧電触媒は、水分解や水質浄化への応用が主に検討されていました。また、従来の圧電触媒研究では圧電性の向上に重点が置かれているため、圧電体表面の触媒反応を担う活性点はあまり検討されておらず、CO₂変換における反応効率や生成物の選択性の低さに課題がありました。

研究の内容

研究グループでは、代表的な圧電体であるBaTiO₃ナノキューブを合成し、Niを固定化したNCを担持した触媒を開発しました。放射光X線を用いた局所微細構造分析より、NC中のNiは原子レベルで存在していることが明らかになりました。機械的エネルギーとして超音波振動を加えた条件で、今回開発した触媒を試験したところ、CO₂の還元反応によりCOが高効率かつ高選択的に生成されることを発見しました。特にNi単原子を含有したNCをBaTiO₃に担持させることで、BaTiO₃単体と比較して約3.1倍のCO生成速度を達成し、大幅な活性向上が認められました(図2)。本触媒によるこの活性向上は、圧電効果でBaTiO₃上に生じた電荷分離と電子移動がNCによって促進されるとともに、NC中の単原子Niサイトが活性点として働くことでCO₂還元反応を大幅に加速したためであると推察されました。

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図2. 開発した触媒を超音波照射下でのCO₂還元反応に用いた際のCO生成速度の比較。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、未利用エネルギーである振動エネルギーを活用できる新しいCO₂変換技術の実現が期待されます。特に、高温条件や大量の外部エネルギーに依存しないCO製造プロセスとして、CO₂排出削減と有用化学原料の生産を同時に達成する持続可能な技術への応用が見込まれます。さらに、本研究は、単原子触媒と圧電材料を組み合わせた新たな触媒材料設計の指針を提供しており、本設計指針を生かすことでカーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献する新たなCO₂還元技術の開発が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年1月21日(水)(現地時間)に英国科学誌 『Journal of Materials Chemistry A』 (オンライン)に掲載されました。また、本論文は同誌のOutside Back Coverに選出されています。

タイトル:“Ni single-atom anchored N-doped carbon deposited on BaTiO₃ for efficient piezocatalytic CO₂ reduction”
著者名:Jing Cao, Yoshifumi Kondo, Yeongjun Seo, Tomoyo Goto, and Tohru Sekino
DOI:https://doi.org/10.1039/D5TA09053A

なお、本研究の一部は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の「科研費若手研究(25K17915)」、公益財団法人大倉和親記念財団 2024年度研究助成、公益財団法人徳山科学技術財団 2025年度スタートアップ助成、 「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス」(文部科学省)の支援のもと、大阪大学産業科学研究所総合解析センター、九州シンクロトロン光研究センターの九州大学ビームライン(SAGA-LS/BL06)、大阪大学マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)のご協力を得て実施されました。

参考URL

近藤吉史助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/1922f157de8d5165.html

関野徹教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9967e6c7e17dfe29.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

圧電触媒

圧電体の圧電効果を利用することで、振動や圧力、摩擦などの機械的エネルギーにより化学反応を促進する触媒材料です。熱や光を必要とせず、身の回りの微小な振動を化学反応に有効活用できる次世代のエネルギー変換材料として期待されています。

圧電体

外部から加えた機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換する、または電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する材料です。前者は、力が加わることで結晶表面に電荷が発生する性質(正圧電効果)を、後者は電荷を加えることで結晶が機械的に変形する性質(逆圧電効果)を利用しています。センサやアクチュエータなどに広く利用されます。

チタン酸バリウム (BaTiO₃)

代表的な圧電体であり、ペロブスカイト型構造と呼ばれる結晶構造を持ちます。積層セラミックスコンデンサとして、様々な電子機器に利用されています。

活性点

触媒の表面で化学反応が起きる部位のことです。この部位の働きによって、反応の効率が大きく左右されます。

担持

材料の表面や内部に別の材料を固定化させることです。