
メガワット級・3,070個の光渦同時生成に世界で初めて成功
大規模・高出力を両立する新しい光制御基盤を実証
研究成果のポイント
概要
大阪大学レーザー科学研究所の中田芳樹准教授、レーザー技術総合研究所の宮永憲明(大阪大学名誉教授)、小坂悠起さん、吉田匡孝さん(研究当時、共に大阪大学大学院工学研究科博士前期課程在籍)らの研究グループは、光の波面が渦を巻いて進む「光渦」を 3,070 個同時に整列させた大規模光渦アレイ(メガ光渦)を、メガワット級の高出力で生成することに成功しました。
これまで光渦の「大規模化」と「高出力化」はそれぞれ困難な技術課題であり、同時実現は極めて難しいとされてきました。本研究では光学理論を再構築し、多ビーム干渉技術と組み合わせることで、この二つを同時に実現できることを世界で初めて実証しました。
本成果は、量子技術、生命科学、フォトニクスなど幅広い分野において、従来到達できなかった領域の光制御や未知の現象探索を可能にする基盤技術を提示するものです。本研究成果は、国際学術誌「Light: Science & Applications」に、4月8日(水)に公開されました。
図1. 大規模光渦アレイ(メガ光渦)の生成原理
a. 従来のHermite–Gaussian(HG)–Laguerre–Gaussian(LG)モード変換理論。
b. 本研究で再構築したHG–LGモード変換理論。
c. bの理論を多ビーム干渉理論と融合し、多数の光渦を同時に生成する原理。
d. 実験で観測された大規模光渦アレイ。上部は赤矢印に沿った断面強度分布で、緑色の矢印は光渦の特異点を示す。
研究の背景
光が渦を巻くように進む「光渦」は、回転の性質(軌道角運動量)を持つ特殊な光として、量子技術やフォトニクス分野を中心に注目されています。光渦を用いることで、従来の光では不可能だった新しい現象の観測や創出が可能になります。
しかし従来の生成技術では、同時に作れる数や扱える出力に制約がありました。「大規模化」と「高出力化」はいずれも困難な課題であり、同時実現は極めて難しいとされてきました。そのため、光渦の可能性は十分に引き出されていませんでした。
研究の内容
研究グループは、光渦を記述する光学モード理論を再構築し、多ビーム干渉技術と組み合わせることで、従来の制約を根本から見直しました(図 1)。そして、特殊な材料や複雑な制御を必要とせず、既存の光学素子のみで、多数かつ高出力の光渦を生成する手法を開発しました(図 2)。
その結果、世界で初めて3,070 個の光渦を同時に整列させた大規模光渦アレイを、メガワット級の高出力で生成することに成功しました。生成された光渦は直接観測され、各光渦が明瞭な特異点構造を持つことも確認されています。本手法により、「大規模化」と「高出力化」を同時に実現できることを実験的に示しました。
図2. 大規模光渦アレイ生成装置の構成
a. 実験に用いた光学系全体の構成。レーザー光を回折光学素子(DOE)で複数のビームに分割し、螺旋位相板(SPP)および4f光学系で重ね合わせることで、大規模光渦アレイを生成する。
b. 多ビーム干渉により光渦アレイが形成される概念図。
c. 螺旋位相板(SPP)によって各ビームの位相を制御する概念図。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究の最大の特長は、数千の光渦を同時に高出力で扱える「超並列性」にあります。これにより、多数の空間点を同時に励起・制御でき、従来は逐次的にしか実現できなかった光制御を空間的に並列化できます。
実際に本研究では、メガワット級の光渦アレイを用いてキラル・ナノ構造の形成を確認し、高出力条件下でも光渦構造が有効に機能することを示しました(図 3)。
本成果は、超並列レーザー加工にとどまらず、広帯域キラルフォトニクスや高強度光場下での軌道角運動量転写の研究へと展開可能な、干渉に基づくスケーラブルな光制御基盤を提示するものです。
図3. 5.76メガワット級の光渦アレイを用いた銅の加工例
a-1. 加工結果の全体像と、対応するシミュレーションパターンの重ね合わせ。
a-2. 単一の光渦に対応する領域の拡大図。
a-3. 光渦の特異点位置に形成されたキラル・ナノニードル構造。
特記事項
本研究成果は、2026年4月8日(水)に米国科学誌「Light: Science & Applications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Scalable optical vortex arrays enabled by the decomposition of Laguerre–Gaussian beams into three Hermite–Gaussian modes and multibeam interference”
著者名:Yoshiki Nakata*, Noriaki Miyanaga, Yuki Kosaka, Masataka Yoshida
DOI:https://doi.org/10.1038/s41377-026-02254-0
なお、本研究の一部は、科学研究費補助金(16H038850, 21H01846, 24K01216, 20K21155)および天田財団一般研究開発助成(AF-2018212)の支援にて実施されました。
参考URL
用語説明
- 光渦
光の波面がらせん状にねじれながら進む特殊な光。軌道角運動量を持ち、中心には光の強度がゼロとなる点(特異点)が存在する。
- 光渦アレイ(メガ光渦)
多数の光渦を規則正しく並べた光の配列。数が極めて多いものを「メガ光渦」と呼んでいる。
- 多ビーム干渉
複数の光ビームを重ね合わせ、特定の空間構造を持つ光場を生成する手法。
- 軌道角運動量
光の回転構造に由来する角運動量。光渦の回転方向や回転数を特徴づける物理量。
- キラル・ナノ構造
鏡像と重ね合わせられない“ねじれ”をもつナノスケールの微細構造。円偏光に対して特有の応答を示す。