「光らない」常識を覆す!アゾベンゼン微粒子から鋭い発光を世界初観測

「光らない」常識を覆す!アゾベンゼン微粒子から鋭い発光を世界初観測

次世代光デバイスへの重要な一歩

2026-4-10工学系
基礎工学研究科助教五月女 光

概要

京都大学化学研究所 山内光陽 助教、水畑吉行 准教授、山田容子 教授、関西学院大学生命環境学部 町田恵利子 博士前期課程学生(研究当時)、増尾貞弘 教授らの研究グループは、大阪大学大学院基礎工学研究科 五月女光 助教、量子科学技術研究開発機構 藤田貴敏 博士らの研究グループとの共同研究により、”光らない”と認知されていたアゾベンゼン微粒子から鋭い発光ピークを世界で初めて観測しました。

アゾベンゼンは、代表的な光応答性有機化合物として広く知られていますが、光照射による構造変化(光異性化)にエネルギーが消費されるため、通常はほとんど発光しません。山内らはこれまでに、剛直な置換基を有するアゾベンゼン誘導体が結晶化によって発光する「結晶化誘起発光(Crystallization-induced emission, CIE)」を見出していましたが、発光効率の低さが課題でした。本研究では、永久双極子モーメントを有する極性アゾベンゼンに着目したところ、結晶化温度を調節することで2つの結晶多形を完全に制御できることを見出し、詳細なスペクトル解析によりそれぞれの発光メカニズムを解明しました。また、従来の低極性アゾベンゼンの結晶と比較して、本研究の極性アゾベンゼンの結晶では、発光効率が大きく向上することも明らかにしました。さらに、ナノスケールとマイクロスケールの中間領域(メゾ領域)で制御された微粒子がウィスパリングギャラリーモード(Whispering Gallery Mode, WGM)による鋭い共鳴発光を、赤色から近赤外領域で示すことを初めて解明しました。また、アゾベンゼン特有の性質を利用し、光によってこの発光を制御できることも確認しました。

本研究は、これまで発光材料としてほとんど注目されてこなかったアゾベンゼンが有用な発光材料として機能することを実証したものであり、低コストレーザー光源への応用やナノ・メゾスケールでの局所光輸送技術への展開に向け、重要な設計指針を与えます。

本研究成果は、2026年3月30日に国際学術誌「Advanced Optical Materials」にオンライン掲載されました。

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図. 本研究の概要: 極性アゾベンゼンの結晶多形とその発光挙動.(作成:山内 光陽)

研究の背景

発光性と光応答性を両立した「光応答性蛍光材料」は、情報の光スイッチングデバイスへの応用が期待されています。特に、結晶や薄膜とは異なる形態であるマイクロ微粒子を自己集合制御によって構築し、それが光共振器として機能すれば、ウィスパリングギャラリーモード(WGM)による鋭い共鳴発光が観測されます。この特異な発光は微粒子のサイズ・形状・環境などに鋭敏に影響するため、一般的な蛍光色素の発光スペクトルはいつどこで測定してもほぼ同じものが得られるのに対して、マイクロ微粒子は、それぞれの個性を反映した異なる発光スペクトルを示します。これは一見、再現性がないため扱いにくいと思われますが、偽造が実質的に不可能な唯一無二の光学的な指紋と見なすことができるため、安全性の高い次世代の認証デバイスへの応用が期待されています。

光応答性蛍光材料は、発光性分子と光応答性分子を化学結合で繋げることが主要な設計指針ですが、単一の分子、すなわち発光性と光応答性を両立した有機分子は限定されます。これまでに、それを可能とするジアリールエテン誘導体を用いてマイクロ微粒子を作製することで、WGM共鳴発光の光スイッチングが可能であることが報告されています[1]。その一方で、より古典的な光応答性分子であるアゾベンゼンではそのような報告はありませんでした。これは、アゾベンゼンの高効率な光異性化に起因しており、光照射によって得た励起エネルギーのほとんどはその光異性化に消費されるため、モノマー状態ではほとんど発光しません。2019年に、山内らは、剛直な置換基を有するアゾベンゼン誘導体は結晶化することで発光する「結晶化誘起発光」を示すことを見出しましたが、発光効率は依然として低いのが課題でした[2,3]。

[1] Daichi Okada, Zhan-Hong Lin, Jer-Shing Huang, Osamu Oki, Masakazu Morimoto, Xuying Liu, Takeo Minari, Satoshi Ishii, Tadaaki Nagao, Masahiro Irie, Yohei Yamamoto*, “Optical microresonator arrays of fluorescence-switchable diarylethenes with unreplicable spectral fingerprints” Mater. Horiz. 2020, 7, 1801–1808. (DOI: 10.1039/D0MH00566E)

[2] Mitsuaki Yamauchi,* Kosuke Yokoyama, Naoki Aratani, Hiroko Yamada, Sadahiro Masuo*, “Crystallization-Induced Emission of Azobenzene Derivatives” Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 14173–14178. (DOI: 10.1002/anie.201908121)

[3] Mitsuaki Yamauchi,* Miho Okaji, Naoki Aratani, Hiroko Yamada, Sadahiro Masuo*, “Reversible Photoluminescence Control of Azobenzene Crystals by Light and Heat Stimulation” ChemPhotoChem 2022, 6, e202100301. (DOI: 10.1002/cptc.202100301)

研究の内容

本研究では、永久双極子モーメントを有する極性アゾベンゼン(4-dimethylamino-4'-nitroazobenzene)を用い、トルエン溶液中での再結晶を検討したところ、低い温度での結晶化では平行四辺形の単結晶(結晶-I)が得られ、室温での結晶化では長方形の単結晶(結晶-II)が得られました(図1左)。X線構造解析により、結晶-Iでは1次元積層構造、結晶-IIでは2次元積層構造を形成しており、光学顕微鏡下での発光スペクトル測定により、それぞれ近赤外発光、赤色発光を示しました。すなわち、再結晶温度を調節することで2つの結晶多形が制御できました。また、結晶-Iを加熱・冷却すると、結晶-IIに相転移することも確認されました。

結晶-Iおよび結晶-IIはいずれも、従来の低極性アゾベンゼンの結晶と比較して、発光効率が大きく向上することが明らかとなり、これは極性アゾベンゼン間の強い分子間相互作用に由来すると考察されました。さらに、時間分解発光スペクトルの解析により、赤色発光の結晶-IIよりも近赤外発光の結晶-Iの方が長い発光寿命を有すること、結晶構造の均一性が高いことなどが明らかになりました。

さらに、トルエン溶液をガラス基板上にキャストし自然乾燥させると、赤色発光を示す繊維状の集合体が形成され、加熱・冷却することで、マイクロ微粒子に構造変化することが分かりました。単一のマイクロ微粒子は光共振器として機能し、WGMの鋭い共鳴発光を赤色から近赤外領域に渡り示すことを初めて解明しました(図1右)。また、光異性化を利用することで、その共鳴発光が光応答することも確認されました。

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図1. 極性アゾベンゼンの結晶多形と発光の相関、およびマイクロ微粒子のWGM共鳴発光スペクトル.

波及効果、今後の予定

本研究は、これまで発光材料としてほとんど注目されてこなかったアゾベンゼンが有用な発光材料として機能することを実証したものであり、低コストレーザー光源やバイオイメージングへの応用、並びにナノ・メゾスケールでの局所光輸送技術への展開に向け、重要な設計指針を与えます。分子構造の最適化、結晶構造-発光特性の相関、微粒子の形・サイズの制御には改善の余地がありますので、引き続き、アゾベンゼンの発光材料としてのポテンシャルを追求していきます。

特記事項

【論文情報】
タイトル:Dipole-Driven Polymorphism in Azobenzene: A Supramolecular Strategy for Photoresponsive Microresonators
(双極子駆動のアゾベンゼン多形:光応答性マイクロ共振器のための超分子戦略)
著  者:Mitsuaki Yamauchi,* Eriko Machida, Misa Nozaki, Takatoshi Fujita,* Hikaru Sotome,* Keitaro Yamamoto, Yoshiyuki Mizuhata, Naoki Aratani, Hiroko Yamada, and Sadahiro Masuo*
掲 載 誌:Advanced Optical Materials
DOI:10.1002/adom.202503396

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業・学術変革領域研究(A)「メゾヒエラルキーの物質科学」(JP23H04875, JP23H04879, JP23H04877, JP24H01714)、学術変革領域研究(A)「化学構造リプログラミングによる統合的物質合成科学の創成」(JP25H02026)、基盤研究(B)(JP24K01496, JP23K26480)、いしずえ2025の支援を受けて実施されました。理論計算は、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステム、東京大学物性研究所スーパーコンピュータセンター(ISSPkyodo-SC-2025-Ca-0032)、計算科学研究センター(25-IMS-C125)の支援により実施されました。

用語説明

結晶化誘起発光(Crystallization-induced emission, CIE)

溶液中の分子分散状態では光らない分子が、結晶化して規則正しく配列することで、強く光るようになる現象。平面性の高いπ共役系蛍光分子の多くは、固体にすると発光効率が低下するため、真逆の現象です。

ウィスパリングギャラリーモード(Whispering Gallery Mode, WGM)

微粒子の内部で光が全反射を繰り返して周回し、特定の条件で光が強め合う(共鳴する)現象。これにより、特定の波長でレーザーのように鋭い発光ピークが観測されます。

マイクロ微粒子

数マイクロメートル(1ミリメートルの1000分の1程度)のサイズを有する微粒子。本研究では、有機分子の自発的な集合によって形成されています。

ジアリールエテン誘導体

入江正浩らによって開発された代表的な光応答性分子であり、光照射によって開環体と閉環体を可逆的にスイッチできる。ここでは、適切な置換基を導入した蛍光性ジアリールエテン誘導体について取り上げている。

永久双極子モーメント

分子内で常に生じている「電気的な偏り」のこと。本研究の極性アゾベンゼンは、この偏りが非常に大きく、理論計算ではおよそ10デバイ(一般的な分子に比べ極めて大きな値)と算出されている。

分子間相互作用

複数の有機分子が自己集合する際に働く、非共有結合性の引力のこと。本研究では、双極子間の相互作用、水素結合などが効果的に働いています。