半導体ナノ粒子CuGaS₂の新しい光学機能を発見

半導体ナノ粒子CuGaS₂の新しい光学機能を発見

太陽電池など光エネルギー変換材料への応用に期待

2026-4-7工学系
産業科学研究所助教佐野 奎斗

研究成果のポイント

  • 局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示す半導体材料として、硫化銅ガリウム(CuGaS₂)ナノ粒子を新たに見出した
  • CuGaS₂の2種類の結晶構造を狙い通りに作り分けることで、結晶構造がLSPR特性に与える影響を解明した
  • 太陽電池など光エネルギー変換材料への応用や、より高性能なLSPR材料の開発が期待される

概要

大阪大学産業科学研究所の佐野奎斗助教、坂本雅典教授、京都大学アイセムスのDaniel Packwood准教授からなる研究グループは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示す新しい半導体材料として硫化銅ガリウム(CuGaS₂)ナノ粒子を見出しました。さらに、CuGaS₂の結晶構造を制御することで、結晶構造の違いがLSPR特性に大きく影響することを明らかにしました。

LSPR材料は、近年、太陽電池をはじめとする光エネルギー変換技術への応用が期待される注目の材料群ですが、CuGaS₂ナノ粒子がLSPRを示すことはこれまで知られていませんでした。

本研究ではホットインジェクション法によって合成したCuGaS₂ナノ粒子が、赤外光領域でLSPRを示すことを明らかにしました。さらに、CuGaS₂がカルコパイライトとウルツ鉱とよばれる2種類の結晶構造をとりうることに注目し、合成条件を最適化することで両者を作り分けることに成功しました。その結果、カルコパイライトはウルツ鉱よりも約3倍高いLSPR強度を示すことが明らかとなりました(図1)。

CuGaS₂ナノ粒子が示すLSPRは、光エネルギー変換材料への応用が期待されるほか、本研究で得られたLSPR特性の結晶構造依存性に関する知見は、より高性能なLSPR材料の設計指針を与えるものです。

本研究成果は、Wiley社が刊行する学術誌 『Chemistry-A European Journal』 に、3月18日(現地時間)に公開されました。

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図1. カルコパイライト型およびウルツ鉱型CuGaS₂ナノ粒子の結晶構造と吸収スペクトル

研究の背景

これまで、LSPRを示す材料として金や銀などの金属ナノ粒子が注目されてきましたが、近年、LSPR材料の探索は様々な半導体ナノ粒子にまでおよんでいます。特に、赤外光領域でLSPRを示す材料は、熱線遮蔽材料や太陽電池への応用が期待されています。

半導体ナノ粒子の特徴のひとつは、金属ナノ粒子に比べて組成や結晶構造が柔軟であり、材料選択の幅が広い点にあります。一方で、ナノ粒子を目的の組成、結晶構造、ひいては粒子径、粒子形状で合成することは容易ではなく、これらの構造のちがいがLSPR特性に与える影響については十分に理解されていません。

研究の内容

研究グループは、物質の構造とLSPR特性の相関を理解するために、組成と結晶構造の柔軟性が高いI-III-VI族半導体に注目しています。中でも、本研究ではLSPRを示すこと自体が知られていない銅(Cu)・ガリウム(Ga)・硫黄(S)からなるCuGaS₂に注目しました。

CuGaS₂ナノ粒子はホットインジェクション法によって合成しました。合成物の電子顕微鏡観察の結果、反応温度の増加に伴って粒径の大きなナノ粒子が得られ、粒子径の制御に成功しました。ナノ粒子の吸収スペクトルを測定すると、近赤外光領域においてLSPRに由来するピークが観測され、CuGaS₂がLSPR特性を示すことが明らかとなりました。

さらに、CuGaS₂がカルコパイライトとウルツ鉱という2種類の結晶構造をとりうることに注目し、これらを作り分けるための合成条件を探索しました。すると、ナノ粒子の配位子かつ硫黄源としてはたらく1-ドデカンチオールの有無によって、異なる結晶構造のCuGaS₂ナノ粒子を得られることがわかりました。そこで、それぞれのナノ粒子の吸収スペクトルを比較したところ、カルコパイライトはウルツ鉱よりも約3倍のLSPRピーク強度を示すことが分かり、結晶構造の違いがLSPR特性を大きく左右することが明らかとなりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果によって、CuGaS₂ナノ粒子という新たなLSPR材料の可能性が示され、赤外光に応答する太陽光エネルギー変換材料の開発や熱線遮蔽材料への応用につながることが期待されます。また、本研究で得られたLSPR特性の結晶構造依存性に関する知見は、より高性能なLSPR材料を設計するための新しい指針を与えるものです。

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図2. ナノ粒子が示す局在表面プラズモン共鳴の模式図

特記事項

本研究成果は、2026年3月18日(現地時間)にWiley社が刊行する学術誌 『Chemistry-A European Journal』 にてオンライン版が公開されました。

タイトル:“Wurtzite-Chalcopyrite Crystal Polymorphism in CuGaS₂ Nanoparticles Dictates the Localized Surface Plasmon Resonance”
著者名:Keito Sano, Daniel M. Packwood, Masanori Sakamoto
DOI:https://doi.org/10.1002/chem.202502961

本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP23KJ1171、JP21H04638)、科学技術振興機構 創発的研究支援事業(JPMJFR201M)、新エネルギー・産業技術総合開発機構 官民による若手研究者発掘支援事業(JPNP20004)のご支援のもと、京都大学化学研究所、京都大学エネルギー理工学研究所、大阪大学超高圧電子顕微鏡センター、日本電子株式会社のご協力を得ておこなわれました。

参考URL

佐野奎斗 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/70bfcc4b63ced993.html

坂本雅典 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2985820aa923a6f9.html

大阪大学産業科学研究所 金属有機融合材料研究分野 坂本研究室
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/tmc/

用語説明

局在表面プラズモン共鳴(LSPR)

LSPRはLocalized Surface Plasmon Resonanceの略。ナノ粒子中の自由キャリア(電子や正孔)が外部電場に応答して集団振動する現象(図2)。

ホットインジェクション法

高温に加熱した溶媒中に前駆体試薬を添加してナノ粒子を合成する手法。たとえば、本研究では190度から250度に加熱したオクタデセン、塩化銅、ガリウムアセチルアセトナートの混合溶液に硫黄のオレイルアミン溶液を添加することでCuGaS₂ナノ粒子を合成している。

I-III-VI族半導体

主に第11、13、16族の元素から構成される半導体(CuGaS₂のほか、CuInSe₂やAgAlO₂など)。