
前向きコホート研究により 血液透析患者の身体活動量と 予後の関連を解明
PROMOTE研究からの報告
研究成果のポイント
- 血液透析患者を対象にした前向きコホート研究PROMOTE studyにより、身体活動量と予後の関連を明らかに
- ガイドラインによる目標値は、高齢でフレイル・サルコペニアの頻度が高い血液透析患者にとって適切か否かは明らかになっておらず、透析日の身体活動を増加させるには、透析による時間的拘束や疲労・倦怠感といった課題があった。
- 生存解析により、死亡リスクが最も低下した中強度活動時間は216~262分/週であり、WHOガイドラインと合致した。
- 短時間の身体活動でも死亡リスクは線形に低下したことから、ガイドライン目標値に達しない場合でも、少しでも活動量を増加させることが重要であることが示唆された。
概要
大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の平岡敦子さん(博士課程後期、大阪大学医学部附属病院 医員)、坂口悠介 助教、猪阪善隆 教授らの研究グループは、大阪府下の血液透析患者1,030例を対象とする前向きコホート研究PROMOTE studyにおいて、血液透析患者の身体活動量と予後の関連を明らかにしました。
PROMOTE studyは大阪府下の血液透析患者を対象とした3年間の前向きコホート研究であり、3軸加速度計内蔵身体活動量計を用いて活動量(低強度/中強度、歩数など)を7日間連続で測定しました。
その結果、血液透析患者の身体活動量は著しく低く、歩数は1832歩/日(中央値)、中強度活動時間は70分/週(中央値)であり、ガイドライン目標値(週150〜300分)の半分にも到達していませんでした。
地域在住高齢者の身体活動量と比較すると、年齢・性別で調整後、低強度活動、中・高強度活動、歩数はそれぞれ42%、77%、73%低下していました。
生存解析において、死亡リスクが最も低くなる活動時間は低強度活動 216-262分/日、中強度活動 239-291分/週、歩数 4294-6045歩/日と推定されました。いずれの活動量パラメータも短時間増加すれば死亡リスクは線形に低下したことから、推奨時間に達しなくても少しでも活動量を増やすことが重要と考えられました。
LASSO回帰では非透析日の低強度活動が予後と最も強く関連しており、フレイル・サルコペニアで身体機能の低下が著しい血液透析患者にとって実行性の高い活動様式として注目されます。
本研究成果は、2025年12月8日に米国科学誌「Am J Kidney Dis」(オンライン)に掲載されました。
図1. 血液透析患者と地域在住高齢者の身体活動量の比較
研究の背景
低身体活動・座位行動は心血管イベントや死亡など様々な臨床アウトカムと密接に関連することが知られています。国内外の各種ガイドラインでは、少なくとも週あたり150〜300分の中強度活動または75〜150分の高強度活動が推奨されています。
しかし、この目標値が高齢でフレイル・サルコペニアの頻度が高い血液透析患者にとって適切か否かは明らかでありません。血液透析患者は週3回、1回4~5時間程度の血液透析を受けており、透析による時間的拘束や疲労・倦怠感のため透析日の身体活動を増加させることには限界もあります。
そこで本研究では、
1) 血液透析患者の身体活動量の実態を詳らかにすること
2) 身体活動量と予後の関連を明らかにすること
3) 活動量パラメータのうち予後と最も強く関連するものを抽出すること
を目的としました。
研究の内容
PROMOTE studyは大阪府下の血液透析患者1,030例を対象とした前向きコホート研究です。3軸加速度計内蔵活動量計HJA Active style Pro (オムロンヘルスケア)を用いて、7日間連続で活動量を測定しました。追跡期間は最長3年間とし、全死亡と心血管イベントを評価しました。転院症例は転院先まで予後調査を行い、脱落率1%未満を達成しました。
対象者の平均年齢は70歳、透析歴は5.3年(中央値)でした。歩数は1832歩/日(中央値)、中強度活動時間は70分/週(中央値)であり、ガイドライン目標値の半分にも到達していませんでした。
地域在住高齢者を対象とした太宰府市調査と比較したところ、 年齢・性別で調整後の低強度活動、中・高強度活動、歩数は血液透析患者でそれぞれ42%、77%、73%低値であり、血液透析患者の低身体活動の深刻さが浮き彫りになりました(図1)。また、非透析日に比して透析日の活動量はさらに低下していました。
さらに、本研究では身体活動量を1年後に再測定しました。再測定できた749例において、低強度活動、中強度活動、歩数はそれぞれ年間に6.8%、12.8%、12.7%減少しました。この急速な活動量低下を抑制するための対策として、ガイドラインでの指針策定や、臨床現場で実装可能な運動療法・動機付けの確立と浸透が望まれます。
生存解析において、死亡のハザードは各活動量の増加とともに線形に低下しました。死亡リスクが最も低下したのは低強度活動216〜262分/日、中強度活動239〜291分/週、歩数4,294〜6,045/日でした(図2)。
図2. 血液透析患者と地域在住高齢者の比較
死亡リスクが最低となる中強度活動時間239〜291分/週は、WHOガイドラインの推奨である150〜300分/週に含まれており、血液透析患者でもまずはこの推奨値を目標として良いと考えられます。
ただし、多くの血液透析患者にとってこの推奨値の達成は現実的には困難です。いずれの活動量パラメータも短時間の増加が死亡リスクの低下と線形に関連することから、推奨時間に達しなくても少しでも活動量を増やすことが重要である可能性があります。
死亡と最も強く関連する活動量パラメータをLASSO回帰により抽出したところ、非透析日の低強度活動であることが判明しました(図3)。フレイル・サルコペニアで身体機能が低下している血液透析患者にとって、低強度活動は実行性が高い活動様式として注目されます。
図3. LASSO回帰によるパラメータ選択
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
高齢化の著しい本邦の血液透析患者にとって、適切な身体活動量を推定するための臨床エビデンスは不足していました。本研究結果は血液透析患者がどの程度の強度の活動をいつ、どれくらい行うべきかについての具体的な指針形成に貢献すると考えられます。
特記事項
本研究は、各施設の倫理委員会による承認を得た後に実施しております。
本研究成果は、2025年12月8日(月)に米国科学誌「Am J Kidney Dis」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Accelerometry-Derived Physical Activity Levels and Mortality in Hemodialysis Patients: A Prospective Cohort Study”
著者名:平岡敦子1); 坂口悠介1); 角埜光1); 河岡孝征1); 岡樹史1); 土井洋平1); 川野祐暉1);岸本裕歩2); 齋藤貴文3); 山本陵平4); 松井功1); 水井理之1); 貝森淳哉1); 猪阪善隆1)
所属:
1. 大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学
2. 九州大学基幹教育院自然科学理論系部門
3. 令和健康科学大学 リハビリテーション学部理学療法学科
4. 大阪大学健康支援相談センター保健管理部門
DOI:10.1053/j.ajkd.2025.10.011
参考URL
用語説明
- 中強度活動
3.0~5.9METsの身体活動。速歩や軽いジョギングなどが含まれる。WHOガイドライン等、様々なガイドラインが中強度活動 150~300分/週を目標として推奨している。
- 低強度活動
安静・座位よりエネルギー消費が高いが中強度運動には達しない、1.6〜2.9METs程度の軽い身体活動。ゆっくりした歩行、家事、立ち仕事などが含まれる。
- 高強度活動
6.0METs以上の身体活動。ランニングやテニスなどが含まれる。WHOガイドライン等、様々なガイドラインが高強度活動 75~150分/週を目標として推奨している。
- フレイル・サルコペニア
フレイル(虚弱)は健康な状態と要介護状態の中間の状態であり、身体機能低下や認知機能の低下が見られるが、適切な介入により健康な状態へ回復する可能性がある。サルコペニアは筋肉量が減少し、筋力が減少した状態。
