
\機能で物質を選びとる!/ 光るナノダイヤモンドだけを光の圧力で選ぶことに成功
ナノ粒子を選別する新技術
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科の大学院生の齋藤良樹さん(博士後期課程)、芦田昌明教授、(株)ダイセルの牧野有都博士、立命館大学総合科学技術研究機構の石原一教授(大阪大学産業科学研究所特任教授)らの研究チームは、欲しい波長で光るナノダイヤモンドだけを光の圧力(光圧)で選別することに初めて成功しました。
光るものと光らないものとは構成原子たった1個の違いしかなく、極めて小さな違いが粒子全体を動かすほどはっきりした差として現れるのは驚くべきことです。
今回対象としたのは、爆轟法で大量に作られる直径約10ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)のナノダイヤモンドです。この中の炭素原子1個がシリコンやゲルマニウムなどに置き換わった色中心(SiV中心、GeV中心)を含む粒子は特別な光を出すため、量子技術、超高感度センサー、医療などへの応用が期待されています。しかし、目的の粒子はごく僅かの割合でしか生成されず、欲しいナノダイヤモンドのみを選び取ることは重要な課題でした。
これまでの選別法は、大きさ、質量、電荷、表面の化学的性質の違いを利用します。ところが今回区別したい粒子同士は、大きさ、電荷や表面の性質に違いはなく、異なるのは約十万個の炭素原子のうち原子1個だけです。十万個に1個の原子の質量の違いで分けるのは難しく、しかもその原子が置かれた環境によっては光らない粒子も存在します。
そこで研究チームは、粒子が出す光の性質そのものによって光圧が変わる原理を用い、誘導放出に伴う「誘導反跳力」を利用することで、図1のように目的のものだけを選んで輸送できることを示しました。
これは、粒子を材料や大きさや質量の違いで分けるのではなく、役に立つ光を出せるかどうかという機能そのもので選別する、新しい発想です。有用な粒子だけを高濃度に集められれば、これまで十分には得られなかった超高性能な発光材料を得ることができ、量子情報技術や医療診断への応用にもつながると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「ACS Nano」に、3月26日(木)23時(日本時間)に公開されました。
図1. 色の違うレーザーを組み合わせ、欲しい発光を示すナノダイヤモンドを引き寄せる実験の模式図。この図では赤いレーザーのある方向へSiV中心を含むナノダイヤモンドのみを選択的に引き寄せている。(GeV中心を含むものや色中心を含まないものは引き寄せられない。)
研究の背景
ダイヤモンドは宝石として有名ですが、機械的にも電気的にも光学的にも優れた性質を示すため、色々な分野で応用されています。これにとどまらず、世界を変えるような展開も期待されています。その一つが、色中心と呼ばれる構造です。
これは透明なダイヤモンドに色を付けます。すなわち、光を吸収したり、発光したりする機能が生じます。この発光は、磁場や温度によって敏感に振る舞いが変わるため、センサーとしての応用が期待されているほか、量子通信や量子コンピューターなどの量子技術に使うことも可能です。さらに、ダイヤモンドのサイズを小さくし、ナノダイヤモンドとすることで、先に挙げた応用をより高度なものにすることができます。
このナノダイヤモンドを大量に合成する手法に、爆轟法があります。芦田教授とダイセルの牧野博士らのグループは、爆轟法で作製されたナノダイヤモンド(DND)の炭素原子をシリコンやゲルマニウムに入れ替えて色中心(SiV中心およびGeV中心)を作ることに成功するとともに、その光に対する性質を明らかにしてきました。しかし残念ながら、色中心を含むナノダイヤモンド(SiV-DNDやGeV-DND)の割合は少なく、欲しいものだけを選別する手法の開発が求められていました。
研究の内容
従来の選別法は、大きさ、質量、電荷、表面の化学的性質の違いを利用します。ところが今回区別したい粒子同士は、ほとんどの性質が同じで、異なるのは光に対する応答、吸収や発光だけです。本研究で研究グループは、光の性質そのものによって光の圧力(光圧)が変わる原理を用いることで、目的の粒子を選択的に輸送できることを示しました。
まず、光を吸収する際に生じる光圧を用いて、SiV-DNDとGeV-DNDを水の中に混ぜたものからSiV-DNDだけの濃度を上げることに成功しました。しかし、その効率は低く、日数単位の時間が必要でした。そこで、研究グループは、石原教授らが理論的に提案した「誘導反跳力」と呼ぶ、新たな光圧を用いて、この難題を克服しました。
図2. 誘導反跳力を使って、SiV中心を含むナノダイヤモンドの濃度を増加させた結果。上図は実験配置で、上の矢印は誘導反跳力(Stimulated recoil force)の向きを示す。
図2上図に示すように、2本の緑色レーザーでSiV-DNDを励起状態にし、さらに赤色のレーザーを右側から入れて誘導放出を生じさせます。誘導放出では入力光が増幅され、左側に進む出力光が強くなるため、SiV-DNDにはたらく光圧は赤色レーザーと逆方向に生じます。そして、図2下図に示すデータのように、7時間で50%の濃縮に成功しました。誘導反跳力によってナノ粒子の選別に成功したのは世界で初めてです。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
これは、粒子を材料や大きさの違いで分けるのではなく、役に立つ光を出せるかどうかという機能そのもので選別する、新しい発想に基づく方法です。どの色中心を選ぶかにとどまらず、発光の性能、すなわち発光スペクトルの幅が狭いか広いかで選別するなど、より優れたもののみの集団を得ることもできます。有用な粒子だけを高濃度に集められれば、量子情報技術や医療診断に有効な高感度センサーへの応用に向けて、これまでは十分には得られなかった超高性能をもつ発光材料につながると期待されます。さらに、こういった優れた特性をもつナノ粒子の集団が示す新たな光学現象も期待され、基礎物理学においても興味深い展開が見込まれます。
特記事項
本研究成果は、2026年3月26日(木)23時(日本時間)に米国科学誌「ACS Nano」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Selective Enrichment of Fluorescent Nanodiamonds by Stimulated Recoil Forces”
著者名:Y. Saito, T. Horai, Y. Umekawa, R. Shimono, Y. Tomoi, T. Matsuda, Y. Makino, Y. Minowa, H. Ishihara, and M. Ashida
DOI:https://doi.org/10.1021/acsnano.5c22759
なお、本研究は、JSPS科学研究費補助金基盤研究S「環境と発光のデザインによる新原理光マニピュレーションシステムの開発」(代表 立命館大学 石原一)の一環として、大阪大学大学院基礎工学研究科ダイセル-エンジニアリング・サイエンス共同研究講座の協力のもとに行われました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- ナノダイヤモンド
ナノダイヤモンドは、直径が数ナノメートルから数百ナノメートル程度の、極めて小さなダイヤモンドの粒子。ダイヤモンドならではの硬さや化学的安定性に加え、内部に特別な原子欠陥をもつと特徴的な光を出すため、量子技術、センシング、医療診断などへの応用が期待されています。
- 光の圧力(光圧)
光が物体に当たると、光がもつ運動量が物体に伝わり、ごく小さな力が生じます。これが「光の圧力(光圧)」です。レーザーのように強い光では、この力を利用して微小な粒子を押したり、引いたり、捕獲したりすることができます。
- 爆轟法
爆薬が爆発する際に生じる高温・高圧の環境を利用して、ナノダイヤモンドを作る方法。短時間で大量の粒子を得やすいという特長があり、工業的なナノダイヤモンド製造として注目されています。
- 色中心(SiV中心、GeV中心)
結晶を構成する原子の一部が別の原子に置き換わったり、原子が抜けたりしてできる「光る欠陥」のこと。欠陥に入る原子の種類によって出す光の波長や性質が変わり、量子技術や高感度センサーへの応用が期待されています。ダイヤモンド中のSiV中心、GeV中心は、それぞれシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)を含む色中心です。
- 誘導反跳力
物質が光を放出する「誘導放出」という現象に伴って生じる、物理的な反動の力のこと。あらかじめエネルギーを高めた(励起状態にある)物質に発光波長と同じ波長の光を当てることで、粒子の発光波長に応じて選択的に力が働き、光の散乱や吸収を利用する従来の光圧よりもはるかに強い力となります。

