自分だけを守る対策が、みんなの解決を遠ざける 私的解決策の罠

自分だけを守る対策が、みんなの解決を遠ざける 私的解決策の罠

地球規模の社会課題の解決を阻害するメカニズムを解明

2026-3-31社会科学系
社会経済研究所教授花木 伸行

研究成果のポイント

  • 34か国横断・7,500人超が参加した大規模経済実験により、富裕層が私的解決を選択することで公共的解決が阻害され、不平等が拡大する「私的解決策の罠」が文化の違いを超えて普遍的に生じることを実証。
  • 従来、欧米の限定的サンプルを用いた小規模研究に限られており、冨の起源(努力か運か)や文化的価値観の違いを考慮した国際比較の例はなく、既存の結果に対する普遍性の検証が不十分であった。
  • 気候変動をはじめとする地球規模の課題に対し、早期の公共投資等の相互協力を促す仕組みが「罠」を回避する鍵であることを示し、国際交渉や政策形成へ重要な示唆を提供することに期待。

概要

大阪大学社会経済研究所(阪大社研)の花木伸行教授とGwen-Jiro Clochard(クロシャール ゲンジロウ)講師が参画した世界34か国横断の大規模実験により、気候変動のような国際社会全体で協力が必要な問題において、私的解決策が存在する社会では、不平等が拡大しやすく公共的解決が不安定化するという構造的リスクが世界共通で存在することを明らかにしました。

これまでの実験研究では、小規模研究に限られており、文化的価値観や社会経済的条件の違いを横断的に検証した研究は存在しませんでした。また、富が努力によるものか運によるものかが意思決定に与える影響も十分に検証されていませんでした。

7,500人超が参加した実験では、「富裕層」または「貧困層」に分けられ、「全員に利益をもたらす公共的解決策」または「自分のみを守る私的解決策」に資源を配分する意思決定を繰り返し行いました。その結果、「富裕層」の参加者が一貫して私的解決策を選択する割合が高く、公共的解決への相対的貢献は低いことが確認されました。この傾向は34か国すべてで観察され、集団全体の利益を損なうとともに、実験終了時の不平等を大幅に拡大させました。また、富の起源(努力か運か)は意思決定に有意な影響を与えないともわかりました。

本研究では、人々のもつ傾向が文化を超えて観察され、相互協力を促す制度が公共的解決を支える普遍的メカニズムであることが明らかになりました。これらの知見は、国際的な気候政策枠組みや協調メカニズム設計に対して、「罠」を回避するための実証的根拠に基づく重要な指針と、国際交渉や政策形成に重要な示唆を提供することが期待できます。

本研究成果は、2026年3月21日(土)2時にProceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)に掲載されました。

研究の背景

気候変動対策では、温室効果ガス削減のような「公共財」への投資(公共的解決策)と、堤防建設や移住などの「私的解決策」の選択が並存しています。他の人がどの程度公共的解決策に投資するのかが不確実な時に、私的解決策は資源を持つ主体にとっては、不確実性を低減することのできる合理的な保険手段となりますが、一方で、その存在自体が公共的解決へのインセンティブを弱める可能性があります。

しかし、これまでの実験研究は、主に欧米の学生サンプルを対象とした小規模研究に限られており、文化的価値観や社会経済的条件の違いを横断的に検証した研究は存在しませんでした。また、富が努力によるものか運によるものかといった「富の起源」が意思決定に与える影響も十分に検証されていませんでした。阪大社研を含む本国際共同研究は、こうした課題を克服し、文化・制度環境を超えた普遍性の検証を目的として実施されました。

研究の内容

参加者は4人1組のグループに分かれ、そのうち2人は富裕層(高い初期資源)に、残りの2人は貧困層(低い初期資源)にランダムに、または努力課題の成績に応じて割り当てました。そして、10ラウンドにわたり公共的解決策または私的解決策に資源を投資する実験を行いました。理論的には、全員が公共的解決策に投資することが最も効率的である設計としました。

結果としは、富裕層は私的解決策を選ぶ確率が貧困層の倍近く高く、公共的解決への相対的貢献は低くなりました。さらに、富の起源(努力か運か)は意思決定に有意な影響を与えないとわかりました。この結果、ほぼすべての国でゲーム終了時の不平等が大幅に拡大しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、私的解決策が存在する社会では、不平等が拡大しやすく公共的解決が不安定化するという構造的リスクが世界共通で存在することを示しました。この知見は、これは気候変動のみならず、教育、医療、安全保障など公共的解決と私的解決が共存しうる構造を持つ、他の多くの政策領域に適用可能です。

同時に、「他の人が協力するなら自らも協力する」という人々のもつ傾向が文化を超えて観察され、「早期の公共投資」などの相互協力を促す制度が公共的解決を支える普遍的メカニズムであることも明らかになりました。これらの知見は、国際的な気候政策枠組みや協調メカニズム設計に対して、「罠」を回避するための実証的根拠に基づく重要な指針と、国際交渉や政策形成への重要な示唆を提供します。

特記事項

本研究成果は、2026年3月21日(土)2時(日本時間)にProceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)に掲載されました。

タイトル:“The private solution trap in collective action problems across 34 nations”
著者名:Eugene Malthouse他、国際的研究チーム
DOI:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2504632123

参考URL

SDGsの目標

  • 10 人や国の不平等をなくそう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

私的解決

提供することに貢献した人のみが利益を得ることができる解決方法。本研究では、個別に提供するかどうかを決め、提供に成功した場合に利益を得ることができるのは、提供に成功した本人のみ。

公共的解決

個々人の貢献度合いにかかわらず、提供することに成功すれば全ての人が利益を得ることができる解決法。本研究では、グループ内の全員が利益を得ることができる。貢献の有無に関係せず利益を享受することができるため、タダ乗りの誘因が生じる。