
かわいいと感じられる新しい特徴を発見 触れているモノや人はかわいく見える
日米で共通する法則を実証
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院人間科学研究科の大橋 紅音さん(博士後期課程)と入戸野 宏教授は、「かわいさ」に関する新たな心理的メカニズムを、日本とアメリカを対象にした調査を通じて明らかにしました。
多くの人がかわいいと感じるものには、大きな頭や広い額といった身体的特徴があることは、古くから知られてきました。このような特徴は「ベビースキーマ」とよばれています。しかし、最近の研究から、個体の特徴だけでなく、社会的な関係性がかわいさに影響することが示唆されています。
本研究では、ベビースキーマの程度が異なるモノ(ぬいぐるみ、クッション)に人が触れているときと触れていないときの写真に対して、かわいいと感じる程度を尋ねるWEBアンケートを、日本とアメリカで実施しました。
その結果、ベビースキーマの程度が高いモノ(ぬいぐるみ)は、低いモノ(クッション)に比べて、よりかわいいと評価されましたが、ベビースキーマの程度にかかわらず、人が触れているモノはよりかわいいと評価されました。さらに、モノだけでなく、触れている人までもかわいいと評価されることが分かりました。
この結果は日米で共通しており、日本語の「かわいい」だけでなく、英語の「cute」についても当てはまりました。
これまで、かわいいと感じられるのは、個々の対象がもつ特徴(ベビースキーマ)であると考えられてきました。本研究でも、その傾向ははっきりと確認できましたが、それに加えて、個体同士の親和的な関係性もかわいいと感じられる要素であることが明らかになりました。
本研究成果は、広告や商品開発において、人がモノに触れている状況を活用することで、商品や人の魅力をより高められる可能性を示しています。
日本を代表するポップカルチャーである「かわいい」は、日本独自の感性と言われることもあります。しかし、今回の研究から異なる文化でも共通した心の仕組みがあることが示唆されました。
本研究成果は、2026年2月19日(木)にオンライン学術誌 PLOS ONEで公開されました。
図1. モノ(ぬいぐるみ)に人が両手で触れている写真と、触れていない写真に対して、モノや人をかわいいと感じる程度を尋ねる調査を日本とアメリカで行った。
図2. 実験で用いた写真に基づいてAIで作成したイラスト。モノのベビースキーマと人のポーズを組み合わせた4パターン。
研究の背景
「かわいい」は、モノや人、動物の魅力を表現するときによく使われる言葉のひとつです。どうすれば「もっとかわいくなれるか?」「もっとかわいくできるか?」という問いは、若い女性だけでなく、モノづくりやマーケティングに関わる人たちにとっても重要な関心事となっています。
これまで、かわいさは、対象そのものの物理的特徴と結びつけて考えられてきました。多くの人がかわいいと感じるもの(赤ちゃんや子犬や子猫など)には、大きな顔、丸みを帯びた短い手足、前方に突き出た広い額といった特徴があります。今から80年以上前に、動物行動学者のローレンツは、このような仕組みを「ベビースキーマ(赤ちゃん図式)」と名づけました。
近年の研究から、そのような個体の特徴だけでなく、個体同士の関係性も、かわいさに影響することが示唆されています。しかし、これまでの研究では、個体のベビースキーマと個体同士の関係性の効果は別々に扱われていました。本研究では、この2つの要因を同時に操作することで、かわいいと感じる程度(印象)がどのように変わるかを検討しました。
研究の内容
日本語を母語とする成人男女198名と、英語を母語としアメリカ国籍を持つ成人男女199名を対象にWEBアンケートを実施しました。
モノのベビースキーマ(高/低)と人のポーズ(モノに触れる/触れない)を組み合わせた4パターンの写真を用意し、モノと人をそれぞれどのくらいかわいいと感じるかを評価してもらいました。
男女2名ずつが4つのモノを持つ写真を、顔が写らないように撮影しました。ベビースキーマの高いモノとして、パンダとトリケラトプスのぬいぐるみを、ベビースキーマの低いものとして、灰色と黒色のビーズクッションを用いました。両手で横からモノに触れるポーズと、両手を机上に伏せてモノには触れないポーズを設定しました。回答者は4枚の写真を1枚ずつ見ながら、日本では「かわいい」、アメリカでは「cute」という観点からのモノの印象と人の印象について、「1. まったくそうでない」から「7. 非常にそうである」の7段階で評定を行いました。同じモノや人は1回しか提示されないようにしました。
その結果、
(1) ベビースキーマの高いモノは、低いモノに比べて、かわいいと感じられる
(2) ベビースキーマに比べると効果は小さいが、人から触れられているモノは、触れられていないモノよりも、かわいいと感じられる
(3) モノがかわいいと感じられると、触れている人もかわいいと感じられる
(4) これらの結果は、日本だけでなくアメリカでも認められる
という知見が得られました。
本研究の結果は、かわいいと感じることは、幼いものに対する保護や養育と直接関係するのではなく、対象に脅威を感じず、近づいて関わりたいという動機づけと関連しているという説と合致します。そして、「かわいい」は日本に特有であると言われることがありますが、その根底にある感情は、別の文化圏でも共通しているといえます。
図3. ベビースキーマの高いモノはかわいいと感じられるが、触れられるとさらにかわいいと感じられる。
エラーバーは95%信頼区間。
図4. 触れることにより、モノがかわいいと感じられるだけでなく、人もかわいいと感じられる。
エラーバーは95%信頼区間。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究から、雑誌やネットの広告において商品写真をどのように撮影すればよいかのヒントが得られます。モノをよりかわいく見せたいなら、誰かに触れてもらったほうがより効果的です。
例えば、かわいさを訴求したい商品の場合、商品単体ではなく、モデルが手に持っている写真のほうが広告に適していると言えます。また、かわいいモノに触れている人はよりかわいく見えるという結果から、モデルをよりかわいく見せたいなら、その持ち物を工夫するとよいかもしれません。さらに、アメリカでも同様の結果が得られたことは、「かわいい」という感性価値を活かした商品を海外に展開していくときの参考となります。
特記事項
本研究成果は、2026年2月19日(木)にオンライン学術誌PLOS ONEに掲載されました。
タイトル:“Beyond the baby schema: Objects being touched are perceived to be cute”
著者名: Ohashi, A., and Nittono, H. (大橋 紅音・入戸野 宏)
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0340903
本研究は、JSPS科研費JP21H04897(基盤研究(A):「かわいい」感情の効用とその実社会応用に関する研究、研究代表者:入戸野 宏)の助成を受けたものです。
