
「寒さ」と「病気」をつなぐ新発見
「血管と神経の連携」が寒冷環境での免疫応答を左右する
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学の水野 裕美子 特任助教(常勤)、先端免疫臨床応用学共同研究講座の松下 浩明 研究員、熊ノ郷 淳 総長(当時 呼吸器・免疫内科学 教授)らの研究グループは、血管内皮細胞の「セマフォリン6D」という物質が交感神経の量を調節し、寒い環境で免疫が正常に働く鍵分子になっていることを世界で初めて発見しました(図1)。
関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患は、寒冷環境で悪化することが多いことが知られていましたが、寒冷環境で病気がなぜ悪くなるかの詳細は分かっていませんでした。
今回、研究グループは、血管内皮細胞でセマフォリン6Dがない場合、交感神経が増えすぎることを発見しました。その結果、寒冷環境で交感神経が過剰に活性化し、組織が低酸素状態になり、免疫が正常に働かなくなることがわかりました。
これにより、環境温度が自己免疫疾患へ影響を与えるメカニズムの1つが明らかになり、今後、環境温度と免疫反応のさらなる研究の進展とそれらを用いた疾患制御法の開発が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「The Journal of Immunology」に、2月23日(月)に掲載されました。
図1. 血管内皮細胞のSema6Dが交感神経の分布を適切に制御し、寒冷時の免疫反応を保っている
研究の背景
これまで、寒冷環境では、感染症にかかりやすくなったり、関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患が悪化したりすることが知られていました。また、寒冷環境では、交感神経という体のストレス応答を担う神経系は活性化することが知られていましたが、交感神経の分布と寒冷環境での免疫反応の調節について、その詳しい仕組みは分かっていませんでした。
研究の内容
研究グループでは、血管内皮細胞が作るセマフォリン6Dという分子が、交感神経の配置を調節し、寒冷環境での免疫応答を制御する仕組みを解明しました。血管内皮細胞のセマフォリン6Dがないと、リンパ節に交感神経が過剰に分布し、寒冷環境でノルエピネフリン(NE)が増加し、組織が低酸素状態に陥りました。さらに、血管内皮細胞のセマフォリン6Dがないと、寒冷時は、免疫細胞の活性化が抑えられ、麻痺を誘導した場合に、麻痺の程度が対照群と比較して弱くなりました。室温時には、対照群と同じ程度の麻痺を呈しました。
さらに、薬剤を用いて交感神経の働きを阻害する実験により、過剰な交感神経活性化が寒冷環境での免疫抑制の原因であることがわかりました。この成果により、セマフォリン6Dを介した神経と血管の連携が、寒冷環境下での免疫応答の調節に重要な役割を果たすことが明らかになりました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、自己免疫疾患において、なぜ冬季に症状が悪化するのかというメカニズムの理解が深まることが期待されます。将来的には、神経と血管の相互作用を標的とした新たな治療戦略の開発につながる可能性があり、交感神経の調節を通じた免疫制御という新しい視点から、様々な免疫疾患の治療法開発への応用も考えられます。
特記事項
本研究成果は、2026年2月23日(月)に米国科学誌「The Journal of Immunology」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Endothelial semaphorin 6D controls immune responses under cold stress through regulation of sympathetic innervation”
著者名:Yumiko Mizuno1,2,†, Hiroaki Matsushita2,3,4,*, Yoko Fukushima5,6, Shuhei Kobuchi7, Shohei Koyama1,8, Masayuki Nishide1,2,3, Yoshimitsu Nakanishi1,2,3,6, Mayuko Izumi1,2,3,6, Maiko Naito1,2, Kazuichi Maruyama5,9, Tatsusada Okuno10, and Atsushi Kumanogoh 1,2,6,11,12,13,*(†筆頭著者, *責任著者)
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
2. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC)
3. 大阪大学 大学院医学系研究科 先端免疫臨床応用学共同研究講座
4. 中外製薬株式会社
5. 大阪大学 大学院医学系研究科 眼科学
6. 大阪大学 先導的学際研究機構(OTRI)生命医科学融合フロンティア研究部門
7. 兵庫医科大学 薬学部 薬理学分野
8. 国立研究開発法人 国立がん研究センター
9. 富山大学 学術研究部医学系 眼科学
10. 大阪大学 大学院医学系研究科 神経内科学
11. 大阪大学 感染症総合教育研究拠点(CiDER)
12. 日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)
13. 大阪大学 ワクチン開発拠点 先端モダリティ・ドラッグデリバリーシステム研究センター(CAMaD)
DOI:https://doi.org/10.1093/jimmun/vkaf362
なお、本研究は、日本学術振興会科研費(JP24K10597, JP24K11596, JP18H05282)、三菱財団、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR235B)、革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)、日本医療研究開発機構-戦略的創造研究推進事業(AMED-CREST)事業「免疫記憶の理解とその制御に資する医療シーズの創出」、AMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群大阪府シナジーキャンパス(大阪大学ワクチン開発拠点)」(JP223fa627002)”の支援を受けました。また、本研究内容は中外製薬株式会社との共同研究講座である大阪大学医学系研究科先端免疫臨床応用学講座との共同研究成果であり、遂行にあたり同社から研究資金の提供を受けています。
参考URL
用語説明
- セマフォリン6D
Sema6D。神経の軸索(神経線維)がどこに伸びるかを導く神経ガイダンス因子セマフォリンのうちの1つ。これまで、神経や血管、免疫細胞など生体における様々な細胞の働きを調整することが分かっている。
- 交感神経
自律神経の一部で、ストレスや寒さに反応して体を「戦闘モード」にする神経系。心拍数を上げたり、血管を収縮させたりする。
- ノルエピネフリン(NE)
交感神経の神経終末から放出される神経伝達物質の1つ。血管を収縮させたり、免疫細胞に作用してその働きを変化させたりすることが知られている。
