\欠けた月の見方が変わる!?/ 「月」の希薄な大気イオンの時間変化を発見

\欠けた月の見方が変わる!?/ 「月」の希薄な大気イオンの時間変化を発見

月周回衛星「かぐや」が明らかにしたCNOイオン生成メカニズム

2026-2-27自然科学系
理学研究科教授寺田 健太郎

研究成果のポイント

  • 月の希薄な大気イオン(外気圏に存在するイオン)が主に太陽風によって生成されていることを定量的に解明
  • 流星雨の直後に月面大気が一時的に”炭素リッチ”な状態に変化する現象を発見し、月面には「窒素比(N⁺/C⁺比)の高い成分」と「窒素を含まない酸化炭素(CO or CO₂)由来」という、起源の異なる少なくとも2種類の成分が存在することが明らかに
  • 生命必須元素(C, N, O)の月面供給・貯蔵・散逸プロセスの理解が進み、将来の月面有人活動に向けた大きな布石となることに期待

概要

大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻・質量分析センターの寺田健太郎教授・横田勝一郎准教授、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の野津翔太助教らの研究グループは、月の希薄な大気イオン(外気圏に存在するイオン)の時間変化を詳細に解析することで、月外気圏の昼側に存在する炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)のイオンが主に太陽風によって生成されていることを明らかにしました。

また、C⁺/O⁺比の時間変動を解析した結果、流星雨の直後に月面大気が一時的に”炭素リッチ”な状態に変化する現象を世界で初めて発見しました。さらにN⁺/O⁺比との相関を調べたところ、月面には「窒素比(N⁺/C⁺比)の高い成分」と「窒素を含まない酸化炭素(CO or CO₂)由来」という、起源の異なる2種類の成分が存在することが明らかになりました。

従来は時間積算データの解析が中心であったため、各元素の日周変動は十分に捉えられていませんでした。今回、研究グループは、日本の月周回衛星「かぐや」に搭載されたイオン質量分析器が取得した長期データを、昼夜・位相ごとの分類と、マススペクトルのピーク分解を組み合わせることで、個々の元素の時間変動を詳細に議論できる新たな解析手法を確立しました。

これにより、将来の月面有人活動に不可欠な炭素・窒素・酸素といった生命必須元素の月面への供給・貯蔵・散逸プロセスの理解が大きく進展することが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Geoscience」に、2月27日(金)19時(日本時間)に公開されました。

20260227_3_1.png

図1. 月外気圏におけるイオン生成メカニズム

研究の背景

これまでの観測から、月の外気圏には多様なイオンが存在することが知られていました。しかし、これらのイオンは数十秒〜数分しか滞留せず、外気圏に恒常的にイオンが存在するには大気イオンを生成するメカニズムが必要です。従来は、(1)太陽光による光イオン化、(2)太陽風によるスパッタリング、(3)微隕石衝突による衝突イオン化といった生成過程が提唱されてきましたが、外気圏へ供給されるイオン量を定量的に評価するには課題が残っていました。

研究の内容

研究グループでは、日本の月周回衛星「かぐや」に搭載されたイオン質量分析器が取得した長期データを、昼夜・位相ごとに分類し、さらにマススペクトルのピーク分解と組み合わせることで、個々の元素の時間変動を詳細に議論できる新たな解析手法を確立しました(図2)。特に重要な視点は、地球磁気圏内では地球磁場により太陽風が遮られるという点です。この条件を利用することで、複数のイオン生成メカニズムの寄与を切り分けることが可能になります。

20260227_3_2.png

図2. 太陽と地球と月の位置関係

その結果、夜間と満月(磁気圏内の昼間)のイオン強度は低くほぼ一定であるのに対し、磁気圏外の昼間のイオン強度は大きく変動することがわかりました(図3)。また月外気圏に存在する炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)のイオン強度が太陽風の水素密度と相関があり、外気圏の昼側に存在するC, N, Oイオンは主に太陽風によって生成されていることが明らかになりました(図4a)。

20260227_3_3.png

図3. 全イオン強度の昼夜別の時間変化

20260227_3_4.png

図4

またC⁺/O⁺比の変動を詳しく解析した結果、流星雨の直後に月面大気が一時的に”炭素リッチ”な状態に変化する現象を世界で初めて発見しました(図4b)。このことは、恒常的に月面に供給される小惑星起源の微隕石よりも彗星塵の方がC/O比が高いことを示唆します。さらにN⁺/O⁺比の変動との相関から、月面には「窒素比(N⁺/C⁺比)の高い成分」と「窒素のない酸化炭素(CO or CO₂)由来」という起源の異なる2種類の成分が存在することが明らかになりました。これらの成分が太陽風照射を受けることで、月面上空100kmにC, N, Oイオンを供給するプロセスが浮かび上がってきました。

このようなC⁺/O⁺比やN⁺/O⁺比の変動は、従来のように太陽風スパッタリングが効く「昼」データを一括で積算してしまうと見えにくい特徴です。「かぐや」による長期連続観測を昼夜別・位相別に区分したからこそ得られた世界初の知見といえます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、生命必須元素であるC・N・Oの月面への供給・貯蔵・散逸プロセスの理解が大きく前進しました。これは、将来の月面有人活動に向けて、資源利用や環境理解の基盤を築くうえで、極めて重要な成果といえます。

さらに本研究は、太陽風や流星雨といった外的要因が、月面環境における元素分布に与える影響を観測的に初めて明らかにした点において、学術的にも大きな意義を持ちます。惑星科学の観点から見れば、月と地球は物理的にも化学的に共進化してきた、いわば一心同体のシステムです。月という身近でありながら未知の多い天体への理解を深めることは、地球環境の本質を捉える手がかりにもつながります。本成果が、自然現象への新たな眼差しや科学的探究心を社会に広く呼び起こす契機となることを期待しています。

特記事項

本研究成果は、2026年2月27日(金)19時(日本時間)に英国科学誌「Nature Geoscience」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Daily variations of carbon, nitrogen and oxygen ions in a thin lunar atmosphere”
著者名:K. Terada, R. Nishihira, S. Yokota, Y. Saito, K. Asamura, M. N. Nishino, and S. Notsu
DOI:10.1038/s41561-026-01933-2

参考URL

SDGsの目標

  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

外気圏

月面から放出された原子や分子が弱い重力にとらえられた、極めて薄く安定しない大気層のこと。

流星雨

彗星が残した塵の密度が非常に高い領域を「地球-月システム」が通過する際に発生する現象

月周回衛星「かぐや」

宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の月周回衛星。2007 年 9 月に打ち上げられ、2009 年6月に月面に計画衝突するまでの約1年 6 ヶ月、軌道周期2時間で月を極周回しながら、様々な科学データを取得した。

位相

太陽と月の位置関係によって、新月から次の新月にいたる月の満ち欠けのこと。

スパッタリング

太陽風起源の高速の水素イオンが月面に衝突し原子・分子を叩き出す現象

地球磁気圏

宇宙空間の中で地球の持つ磁場の勢力が及ぶ領域。地球磁気圏内では太陽風は遮られる。