多能性幹細胞から精巣を試験管内で作り出し、精子産生能を持つ精原幹細胞を誘導

多能性幹細胞から精巣を試験管内で作り出し、精子産生能を持つ精原幹細胞を誘導

精巣の形成や性分化の過程を理解する新たな基盤技術

2026-2-27生命科学・医学系
医学系研究科教授林 克彦

研究成果のポイント

  • マウス多能性幹細胞から精巣体細胞を誘導し始原生殖細胞と体外で精巣の形成過程を再現することに成功
  • 生体材料を用いることなく精子系列細胞を試験管内で産生できる基盤技術を確立
  • 男性不妊や性分化疾患の研究、家畜改良や絶滅危惧種の保全技術への応用に期待

概要

大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(WPI-PRIMe)の吉野剛史特任准教授(常勤)、林克彦副拠点長(同大学院医学系研究科教授)らの研究グループは、多能性幹細胞から性染色体依存的な雄性化を再現して精巣オルガノイドを構築することに成功しました。さらに、構築した精巣オルガノイドの中の精細管はテストステロン分泌細胞などに取り囲まれており、内部の精原幹細胞は、移植により精子を形成し、受精させることで健常な産仔を産出できることが確認されました。

これまで、マウスやヒトに加え、サイやウシなど様々な動物の多能性幹細胞から、精子や卵子の源となる始原生殖細胞は誘導されましたが、その発生を支える生殖巣体細胞の誘導研究は進んでいませんでした。研究グループが2021年にメス (XX型) のマウス胚性幹細胞に雌性化を再現させ卵巣体細胞へと発生させ、始原生殖細胞と共に卵巣オルガノイドを構築することに成功しましたが、従来法ではオス (XY型) の細胞でも卵巣型に変化してしまう問題がありました。

今回、研究グループは、オス (XY型) のマウス多能性幹細胞を用いてY染色体の働きを再現することで、生体組織を用いずに試験管内で精巣オルガノイドを構築することに成功しました (図1)。今後はヒトなど様々な動物に応用することで男性不妊治療への応用、種々の動物の精子作出技術の開発、さらには雄性化の仕組みの解明が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Science」に、2月27日(金)午前4時(日本時間)に公開されました。

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図1. 精巣オルガノイドの拡大写真。セルトリ細胞 (緑) が作る精細管の内部で、精母細胞 (白) が産生される。赤:生殖細胞。

研究の背景

卵巣と精巣は、始原生殖細胞と生殖巣体細胞からなる胎児の生殖巣が性染色体情報をもとに性分化を起こしてつくられます。始原生殖細胞は、様々な動物の多能性幹細胞から誘導されていますが生殖巣体細胞の誘導は困難でした。研究グループは2021年にメス (XX型) のマウス多能性幹細胞から生殖巣体細胞も誘導してマウスの誘導始原生殖細胞と共に卵巣オルガノイドへと発生させました。しかし、従来法ではオス (XY型) の細胞でも卵巣型に変化してしまう問題がありました。

研究の内容

研究グループは、Y染色体に依存して精巣体細胞へと発生が進み、精細管構造を構築する細胞をマウス多能性幹細胞から誘導する方法を確立しました。これは、オス化 (精巣発生) 、メス化 (卵巣発生) の進行に応じて、細胞が緑色もしくは赤色に光る新たなシステムを確立して、オス化を進行させる条件を検討したことにより達成されました。

さらに、オスの誘導始原生殖細胞と共に凝集させて体外でオス化を進行させ精巣オルガノイドへと発生させる方法を確立しました (図2)。ここでは生体の精巣と同様に、平滑筋細胞やテストステロン分泌細胞に取り囲まれた精細管内部で精原幹細胞が精母細胞を産生し始めていました。さらに得られた精原幹細胞は体外培養により性質を維持したまま増殖し (図3)、これを移植して得られた精子を卵子に受精させることで健常な産仔が誕生することが確認されました (図4)。

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図2. 研究の全体像。2021年にはメス (XX型) のマウスES細胞から生殖巣体細胞を誘導し、誘導始原生殖細胞と凝集して卵巣へと発生させた。しかし、この方法ではオス (XY型) のマウスES細胞を用いても卵巣へと発生してしまう。今回、条件を改良して、Y染色体依存的に精巣へと発生させて、これを利用して機能的な精子を得た。

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図3. 精巣オルガノイド中の精原幹細胞の対外培養。生体の精原幹細胞と同様にブドウの房状のコロニーを形成し、分化マーカー (MVH-tdTomato)を発現しながら安定して増殖する。スケールバー: 200mm。

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図4. 培養精原幹細胞を移植することで精子が得られ、これを人工授精に用いることで産仔が作出された。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果を基盤にヒトをはじめ様々な動物の精巣オルガノイドを体外で構築できれば、これらの動物の精巣形成の過程を体外で解析することが可能となります。これにより、ヒトの不妊や性分化疾患の原因にも迫ることが可能になると期待されます。

さらに、オルガノイド細胞を用いて様々な動物の精原幹細胞の培養法の確立や性ホルモン分泌細胞の移植といったことも可能になるかもしれません。

また、生殖巣の性分化の仕組みは多様化しており、一部のマウスはY染色体を持たないことも知られます。今回、雌雄の性分化を再現することが可能になったため、性分化の多様性にも切り込むことができることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年2月27日(金)午前4時(日本時間)に米国科学誌「Science」(オンライン)に掲載されました。

タイトル: “Reconstitution of sex determination and the testicular niche using mouse pluripotent stem cells”
著者名:Takashi Yoshino, Hiromichi Sasada, Takuya Sato, Tomonori Nakamura, Kenjiro Shirane, Hiroshi Ohta, Maki Kamoshita, Miki Inoue, Yuki Matsudaira, Chao Liu, Mnatsu Matsufuji, Makoto Tachibana, Ken-Ichirou Morohashi, Masahito Ikawa, Mitinori Saitou, Takehiko Ogawa, and Katsuhiko Hayashi
DOI:https://doi.org/10.1126/science.aea0296

なお、本研究は、日本学術振興会 (JSPS) 国際共同研究加速基金 「次世代ART」(23K20043)、基盤研究 (S) (24H00059)、学術変革領域 (A) 「動的な生殖ライフスパン」 (23H049049)、JST創発的研究支援事業 (JPMJFR2451)の一環として行われ、横浜市立大学大学院医学研究科 小川毅彦教授、京都大学大学院医学研究科 斎藤通紀教授の協力を得て行われました。

参考URL

林克彦教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/daf2a7d6ac86f617.html

吉野剛史特任准教授(常勤) 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/b3ee8e0ea9cc029c.html

用語説明

多能性幹細胞

からだのほぼ全ての細胞に分化できる能力を持った細胞。胚性幹細胞 (ES細胞) やiPS細胞が代表例である。

始原生殖細胞

精子や卵子の元となる細胞で、胎児期に生殖巣に移動して生殖巣体細胞と相互作用しながら分化する。マウスやヒト、ウシ、サイなど様々な動物の多能性幹細胞から誘導されている。

オルガノイド

多能性幹細胞などから体外培養により作出された、臓器の構造や機能を部分的に再現した三次元構造

精原幹細胞

精子のもととなる細胞で精細管の内部で自己複製をしながら精子産生をすすめる。