\大阪・関西万博で実証成功!/ 体温と外気温の温度差だけで、脳波の無線伝送を実現

\大阪・関西万博で実証成功!/ 体温と外気温の温度差だけで、脳波の無線伝送を実現

手のひら接触で発電し、人工的な温度差不要

2026-2-5工学系
工学研究科准教授兼本大輔

研究成果のポイント

  • 体温と外気のわずかな温度差で得られたエネルギーだけで動作する、無線脳波伝送システムを実証
  • 大阪・関西万博における屋外実験にて、外気温32℃台の高温でも動作することを確認
  • 一度設置すれば長期メンテナンス・電池交換不要のバッテリーフリー・メンテナンスフリーセンサーへ前進
  • 日常的な健康管理や社会インフラの見守りなど、さまざまな分野での活用が期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の兼本大輔准教授の研究グループは、波形類似性に基づく復元手法圧縮センシングに組み込み、熱電発電素子を備えた無線脳波伝送システムを構築しました。さらに本システムにより、外部電源(電池・有線給電)や人工的な温度差を要さずに脳波の無線伝送が可能であることを、大阪・関西万博で実証しました(図1)。

本実証では、熱電発電素子に手のひらを当て、体温と外気温(32℃台)の温度差から得られる電力のみでセンサー側(送信側)を駆動しました。その結果、センサー側で圧縮した脳波を無線送信でき、受信側で高精度に復元できることを確認しました(図2)。本結果は、高温の屋外環境で体温と外気温の温度差が小さく発電量が限られる状況でも、簡単な発電デバイスで得られるわずかなエネルギーでセンサー側が動作し、無線送信と受信側での復元が成立することを示しています。

今後は、脳波に限らず、たとえば心電・筋電などの生体信号、インフラ・機器の振動などへ本省エネ技術を展開することで、エナジーハーベスターを電源とするバッテリーフリー計測技術として、日常的な健康管理や社会インフラの見守りなどへの応用が期待されます。

本研究成果は、IEEE Consumer Technology Societyの年次フラッグシップ国際会議「IEEE 44th International Conference on Consumer Electronics (ICCE)」にて発表されました。

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図1. 万博における実証実験の様子
※撮影環境に扇風機が写り込んでいますが、32℃台の実験では使用していません。

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図2. 体温と外気温の温度差により得られる発電のみでセンサー側を駆動し,受信側で復元した波形(青実線)と参照波形(黒破線)の比較。
外部電源不要で、高精度な波形が得られることが確認できた。

研究の背景

近年、ウェアラブル機器やIoTデバイスの実用化が進む中で、バッテリー寿命や充電の手間が大きな課題となっています。特に、高精度な信号計測を省エネで実現することは難しく、技術的なブレイクスルーが求められてきました。こうした背景を受け、より省エネで動作し、さらには外部電源に頼らずエナジーハーベスターで半永久的に動作するセンシングシステムの確立が強く期待されています。

研究の内容

研究グループは、信号を間引きながら取得することで、センサー側の大幅な省エネ化を図りつつ、波形類似性に基づく復元により高精度な波形再構成を可能とする無線脳波伝送システムを実装してきました。本試みでは、手のひらを熱電発電素子に当てるだけで、体温と高温の外気温のわずかな温度差から得られた電力のみ(外部からの電源供給、扇風機の使用等による人工的な温度差付与のない状態)でセンサー側を動作させ、エネルギーの制約が少ない受信側で高精度波形になるように復元処理を行うことで、電源条件が厳しい実環境でも脳波信号を無線伝送できることを実証しました。

本実証で使用したハードウェアは、センサー側に市販の汎用DC-DC変換ICおよび汎用マイコンを用い、受信側は一般的なPCのみで構成しています。特別な専用機器を必要としないため、産業応用へ展開しやすい構成です。今後は、脳波計(計測系)の一体化とリアルタイム計測への拡張や、様々なセンサーシステムへの応用を進めます。

万博会場における実験の様子: https://www.youtube.com/watch?v=H7k2fVm8veQ

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本成果は、充電や電池交換が難しい状況でも、生体信号を連続的に取得・送信できる可能性を示すものです。したがって、医療・介護現場での計測に加え、屋外活動中の連続計測に基づく健康管理や、災害時・避難時のモニタリングへの展開が見込まれます。さらに、省エネ技術の有効性を実環境で示したことから、脳波に限らず各種センサーのバッテリーフリー化にも展開が期待できます。例えば、設置後に電池交換を要さず長期にわたり故障兆候を監視するインフラセンサーや、自然災害の兆候を早期に捉えるセンシングへの応用が挙げられます。

今後、エナジーハーベスティングを活用したバッテリーフリー計測技術として発展させることで、運用負担・コスト低減と電池廃棄の削減を同時に進め、センシングのあり方を大きく変えることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、IEEE国際会議「IEEE 44th International Conference on Consumer Electronics (ICCE 2026)」により発表・公表されました。

タイトル:“A Battery-Free Wireless EEG Transmission System Using Compressed Sensing and Powered by Body-Ambient Temperature Difference: Outdoor Demonstration at Expo 2025”
著者名:D. Kanemoto*, K. Yoshimoto, S. Motomochi, and T. Hirose

本研究はJSPS科研費JP24K02914およびNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(JPNP14004)の助成を受けたものです。また、本研究成果は、ICCE プロシーディング集の採録にあたり査読を経ています。本件の報道は、2 月5日(木)16時までは、お控えくださるようご理解・ご協力をお願いいたします。

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

波形類似性に基づく復元手法

同グループの既報の手法であり、参照波形との類似性を利用して少ない観測データから波形を高精度に復元する手法。

圧縮センシング

少ない観測データ(測定値)から、信号のスパース性(疎性)を利用して元の信号を復元する技術。

エナジーハーベスター

光・熱・振動・無線電波など環境エネルギーを電力に変換する発電素子。

DC-DC変換IC

直流(DC)電圧を別の直流電圧に高効率で変換する電源用IC。エナジーハーベスターのように電圧が小さく変動しやすい電源を、回路が使える形に整えるために一般的に用いられる。 

マイコン

演算器・メモリ・周辺回路をひとつのチップに集積した小型コンピュータ。家電や産業機器、各種センサー制御など、幅広い用途で用いられる。