
焼くだけで多孔質な光触媒を合成
水酸化メラミンを原料とする窒化炭素光触媒合成
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科 化学工学領域/附属太陽エネルギー化学研究センターの大学院生 宮田 和樹さん(博士後期課程1年)、白石 康浩准教授、平井 隆之教授らの研究グループは、水酸化メラミン誘導体を加熱焼成する簡単な操作により多孔質窒化炭素(carbon nitride: CN)光触媒を合成する方法を開発しました。
CN光触媒は、メラミンなどの安価な原料を加熱焼成して簡単に合成できる有機半導体光触媒として有望視されていますが、比表面積が小さいため、光触媒活性が低い課題がありました。比表面積の大きなCN光触媒を合成する方法はこれまで多数研究されていますが、いずれの方法も多段階の工程や、強酸または強塩基を必要とする方法でした。
今回、研究グループは、水酸化メラミン(アンメリン、アンメリド)を加熱焼成する簡便な方法により多孔質CN光触媒を合成できることを見出しました。本CN光触媒は、可視光照射下における水素(H₂)生成反応を高い効率で進めることができます。本研究成果により高活性な光触媒の簡単合成が可能となり、大量生産を見据えた光触媒合成、ならびにH₂製造技術の社会実装が期待できます。
本研究成果は、英国王立化学会誌「Chemical Communications」に、12月8日(月)12時(日本時間)に公開されました。
図1. (a)メラミン、および(b)アンメリン、アンメリドを加熱して合成したCN光触媒
研究の背景
光触媒は、太陽光エネルギーにより身近な物質から水素ガスなどの有用物質を常温常圧下で製造できるため、持続可能社会を実現するための不可欠な材料です。なかでも、CN光触媒は、安価なメラミンなどの原料を加熱焼成して簡便に合成できる有機半導体光触媒であり、その社会実装が期待されています。しかし、CN光触媒の比表面積は小さいため、光触媒活性が低い課題がありました。比表面積の大きなCN光触媒を合成する方法はこれまで多数研究されていますが、いずれの方法も多段階の工程や、強酸または強塩基を必要とする方法でした。
研究の内容
本研究では、簡便に比表面積の大きなCN光触媒を合成する方法の開発に取り組みました。従来、CN光触媒は、メラミンを加熱焼成して合成されます(図1a)。加熱によって生成したメレムと呼ばれる中間体が共有結合や水素結合により連結してシート状構造をつくります。さらにこれらがスタッキングして層状のCN光触媒を生成します。しかし、この方法では緻密なネットワークが形成されてしまうため、比表面積が小さくなり、光触媒活性が低くなります。
研究グループは、メラミンの3つの末端アミノ基(–NH₂)の一つまたは二つが水酸基(–OH)に置き換わった、水酸化メラミン(アンメリン、アンメリド)を使う合成法を開発しました(図1b)。これらの水酸化メラミン粉末を加熱焼成すると、水酸基が脱離して欠陥となり、「細孔」をもった多孔質CN光触媒が生成します。これらのCN光触媒の比表面積は、メラミンから合成したCN光触媒の5倍以上となります。
図2には、これらのCN光触媒を水に懸濁させ、疑似太陽光により可視光(l > 420 nm)を照射したときのH₂生成量を示しています。
アンメリンおよびアンメリドから合成したCN(アンメリン)、CN(アンメリド)は、メラミンから合成したCN(メラミン)よりも著しく高いH₂生成活性を示します。この光触媒活性の向上は、比表面積の増大と比例しており、本方法により合成したCN光触媒がH₂生成に有効であることが分かります。
なお、CN(アンメリド)光触媒に420 nmの単色光を照射した場合のH₂生成反応の光量子収率は4.1%でした。この効率は、これまでに報告されたCN光触媒と比べて高く、本CN光触媒は簡便に合成できるにも関わらず高い効率で光触媒反応を進めることが分かりました。また、本触媒は繰り返し使用した場合にも活性は低下せず、安定的にH₂を生成することが分かりました。
図2. 各CN光触媒を水に懸濁させて疑似太陽光(可視光)を照射した場合のH₂生成量の時間関係
(10%トリエタノールアミン水溶液(100 mL)にH₂PtCl₆·6H₂O (1.33 mg)を溶解させて、アルゴンガス雰囲気下(50 kPa)で光照射している。3時間ごとに系内のガスを脱気している。)
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、水酸化メラミン粉末を原料として加熱焼成する簡便な方法により比表面積の大きな高活性CN光触媒を合成できることが明らかとなりました。本方法にもとづけば、高活性な光触媒の簡単合成が可能となり、大量生産を見据えた光触媒合成、ならびにH₂製造技術の社会実装が期待できます。
特記事項
本研究成果は、2025年12月8日(月)12時(日本時間)に英国王立化学会誌「Chemical Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Porous carbon nitride photocatalysts prepared by calcination of hydroxyl-substituted melamine derivatives”
著者名: Kazuki Miyata, Yasuhiro Shiraishi, Satoshi Ichikawa, Shunsuke Tanaka, and Takayuki Hirai
DOI: 10.1039/D5CC04808G
なお、本研究は、科学研究費助成事業(挑戦的研究:開拓)「表面酸素欠陥が駆動する空気と水からの常温硝酸合成」(研究代表者:白石 康浩 大阪大学大学院基礎工学研究科 化学工学領域/附属太陽エネルギー化学研究センター)の支援により実施されました。
参考URL
白石 康浩准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/f7482bda1ee072b7.html
SDGsの目標
用語説明
- 光触媒
光を吸収することにより生じる正孔と電子により、それぞれ酸化・還元作用を示す物質。代表的な光触媒として、二酸化チタン(TiO₂)が知られている。
- メラミン
有機化合物の一種で、トリアジン環と三つのアミノ基から構成される。メラミン樹脂の原料として知られている。
- 比表面積
単位触媒重量当たりの表面積。一般に、光触媒反応は触媒表面に反応物が吸着し、正孔・電子をやり取りして反応が進行するため、比表面積が大きいほど反応が進行しやすい。
- 水酸化メラミン
シアヌル酸合成において生成する不純物であり、メラミンの一部のアミノ基が水酸基に置き換わった構造をもつ。
- 光量子収率
系内に入った光子(フォトン)の数のうち、化学反応(今回の場合は2H⁺ + 2e⁻ → H₂)により消費された電子数の割合。


