経口血糖降下薬による糖尿病患者の体重減少と肥満関連健康障害の改善を確認

経口血糖降下薬による糖尿病患者の体重減少と肥満関連健康障害の改善を確認

UTOPIA研究の事後解析

2025-10-31生命科学・医学系
医学系研究科講師片上 直人

研究成果のポイント

  • 糖尿病患者を対象とした研究者主導臨床研究(UTOPIA研究)の事後解析により、日本人肥満2型糖尿病において、経口血糖降下薬のSGLT2阻害薬が体重を減少させ、肥満に関連する健康障害を改善する可能性が明らかに。
  • SGLT2阻害薬には血糖降下だけでなく体重減少も期待されていたが、肥満に起因する健康障害に対してSGLT2阻害薬の作用を網羅的に検討した報告はこれまでほとんどなかった。
  • SGLT2阻害薬が肥満に関連する健康障害の治療選択肢となることに期待。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の片上直人講師、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科)、順天堂大学大学院医学研究科の三田智也准教授、綿田裕孝教授(代謝内分泌内科)らの共同研究グループは、研究者主導臨床研究であるUTOPIA研究の事後解析により、日本人肥満2型糖尿病においてSGLT2阻害薬のトホグリフロジンが体重減少をもたらし、肥満に関係する健康障害を改善することを明らかにしました。

肥満に起因する健康障害として、高血糖、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症、動脈硬化、腎機能障害、心機能障害、肝機能障害などが知られています。トホグリフロジンは、血糖低下作用に加え、体重減少の作用も有することが知られていますが、これらの健康障害に対してSGLT2阻害薬の効果を網羅的に検討した報告はこれまでほとんどありませんでした。

今回、研究グループは、UTOPIA研究参加患者のうち、BMI 25 kg/m²以上の肥満2型糖尿病の患者を対象に事後解析を行ったところ、SGLT2阻害薬であるトホグリフロジンを104週(約2年間)服薬することにより、6割以上の患者が3%以上の体重減少を達成できることを解明しました(図1)。また、SGLT2阻害薬以外の従来の糖尿病治療薬を服用した患者と比べて、トホグリフロジンを服用した患者の方が、血糖値、血圧、肝機能検査値、HDLコレステロール、尿酸、QOLが改善し、血管の硬さの指標であるPWVの悪化が抑えられていることも判明しました。これにより、肥満2型糖尿病における健康障害の改善のために、SGLT2阻害薬が治療選択肢となる可能性が期待されます。

本研究成果は、国内科学誌「Diabetology International」に、8月18日(月)に公開されました。

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図1. 3%以上の体重減少を達成した患者の割合

研究の背景

2022年に日本肥満学会から発表された「肥満症診療ガイドライン2022」では、糖尿病などの健康障害があるBMI 25 kg/m² 以上35 kg/m²未満の肥満症においては、現体重の3%以上の体重減少を目標とすることが設定されており、食事・運動療法を行ったうえで、薬物療法も考慮することになっています。SGLT2阻害薬であるトホグリフロジンは、血糖低下作用に加え、体重減少の作用も有することが知られていました。一方、肥満に起因する健康障害として、高血糖、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症、動脈硬化、腎機能障害、心機能障害、肝機能障害などがありますが、これらの健康障害に対してSGLT2阻害薬の効果を網羅的に検討した報告はこれまでほとんどありませんでした。

研究の内容

研究グループは、2016年に研究者主導臨床研究であるUTOPIA研究を開始し、日本人2型糖尿病患者340名を対象に「SGLT2阻害薬であるトホグリフロジン」と「SGLT2阻害薬以外の従来の糖尿病治療薬」の有効性・安全性を比較検討しました。今回は、UTOPIA研究に参加した患者のうち、BMIが25 kg/m²以上の肥満を合併する2型糖尿病の患者210名を対象として事後解析を実施しました。

今回のUTOPIA研究の事後解析では、BMI 25 kg/m²以上の肥満2型糖尿病の患者がSGLT2阻害薬トホグリフロジンを104週間(約2年間)服薬することにより、6割以上の患者で3%以上の体重減少を達成できることを解明しました(図1)。さらに、従来のSGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服薬した患者よりも、SGLT2阻害薬であるトホグリフロジンを服薬した患者の方が、血糖値、血圧、肝機能検査値、HDLコレステロール、尿酸、QOLは改善し、血管の硬さの指標であるPWVの悪化が抑制されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

糖尿病の治療の目的は、糖尿病の合併症の発症、進展を阻止し、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの実現を目指すこととされています。また、肥満は様々な健康障害を来すことが知られています。

本研究成果により、SGLT2阻害薬トホグリフロジンは肥満2型糖尿病患者のQOLを改善し、肥満に関連する健康障害改善の選択肢となり得ることが示唆されました。

特記事項

本研究成果は、2025年8月18日(月)に国内科学誌「Diabetology International」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】“Effect of tofogliflozin on obesity-related health problems in patients with type 2 diabetes and overweight or obesity-a post-hoc sub-analysis of the UTOPIA study”
【著者名】Naoto Katakami1, Tomoya Mita2, Takafumi Masuda1, Yasunori Sato3, Hirotaka Watada2, Iichiro Shimomura1 on behalf of the UTOPIA Study Investigators
【著者所属】
1) Department of Metabolic Medicine, The University of Osaka Graduate School of Medicine
2) Department of Metabolism and Endocrinology, Juntendo University Graduate School of Medicine
3) Department of Preventive Medicine and Public Health, Keio University School of Medicine
DOI: https://doi.org/10.1007/s13340-025-00845-7

参考URL

片上直人講師 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/4d9587a7e6c55aa1.html

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

UTOPIA研究

UTOPIA(ユートピア)研究とは、日本人2型糖尿病の患者を対象に、「SGLT2阻害薬のトホグリフロジン」と「SGLT2阻害薬以外の従来の糖尿病治療薬」の有効性と安全性を比較した研究者主導臨床研究です。日本国内の23医療機関から340名の患者にご協力いただきました。UTOPIA: Using TOfogliflozin for Possible better Intervention against Atherosclerosis for type 2 diabetes patients

SGLT2阻害薬

腎臓の近位尿細管(きんいにょうさいかん)に発現しているSGLT2(エス・ジー・エル・ティー・ツー)という輸送体を阻害することにより、糖の再吸収を抑えるお薬です。SGLT2阻害薬には、尿中への糖の排泄を促進し、血糖値を下げる作用があります。

BMI

肥満度を表す体格指数で、体重(kg)を身長(m)で2回割ることで計算されます。例えば、体重60 kg、身長160 cm (1.6 m)の方であれば、BMIは60÷1.6÷1.6=23.4 kg/m²となります。「肥満症診療ガイドライン2022」の肥満度分類では、BMI (kg/m²) で18.5以上25未満が普通体重とされています。

HDLコレステロール

「善玉コレステロール」とも呼ばれ、血管壁などの余分なコレステロールを回収して肝臓へ運び、動脈硬化を防ぐ役割があります。

QOL

Quality Of Life (クオリティ・オブ・ライフ) の略です。日常生活における生活の質のことです。 UTOPIA研究では、DTR-QOL7という質問票を用いて糖尿病患者の生活の質に関して7つの質問をもとに数値化されました。

PWV

Pulse Wave Velocity (脈波伝播速度)の略です。心臓の拍動が手足の血管を伝わるときの速度を表します。動脈硬化により血管が硬くなるほど、心臓の拍動が伝わる速度は速くなり、PWVは高い値となります。