
いつ・どこで・どのくらいの混雑を感じた?
大規模イベントにおける混雑の感じ方と実際の混雑の比較研究
研究成果のポイント
- 1万人規模のイベントにおける参加者の混雑の感じ方と実際の混雑状況との関連を、Bluetoothを用いた移動行動調査とアンケート調査を組み合わせて定量的に評価しました。
- 大規模なイベントの参加者の時間的・空間的な混雑の認識を明らかにしました。
- 参加者の混雑の感じ方の特徴を知ることで、イベント主催者による混雑管理の指針となることが期待されます。
図. 大規模イベントにおける混雑のイメージ図
概要
東京大学大学院工学系研究科の西成活裕教授、北海道大学大学院農学研究院の愛甲哲也教授、大阪大学D3センターの高橋彰特任助教(常勤)らによる研究グループは、ビーコンによる行動データとアンケート調査を組み合わせて、大規模イベントにおける参加者の混雑の感じ方を定量的に評価し、実際の混雑状況との関連を明らかにしました。
本研究では、アンケート調査とビーコンを用いた人流解析を用いることで、大規模イベントにおけるイベント参加者の混雑の認識を初めて定量的に評価しました。1日に1万人以上来場するイベントでの混雑状況と参加者の時間と空間の感覚の関係を調べた世界初の研究であり、参加者は実際より帰宅時刻に近い時間を混雑した時間として回答する傾向があることが分かりました。この研究成果は、今後のイベント主催者による混雑の管理やイベントの計画や設計に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2025年1月14日(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究の内容
国際会議や展示会、イベントなど、人々が集まり交流する場では、にぎわいを保ちながらも過度な混雑による不利益を減らすことが重要です。これを実現するには、混雑の認識に関する定量的な評価が必要ですが、多くの人々が集まるイベントにおける混雑の認識は明らかにされていませんでした。この度、本研究では世界で初めて1万人規模のイベントにおける混雑感を実測した混雑と定量比較しました。
本研究グループは、約3年にわたり、大規模イベントにおいてアンケート調査とBluetoothを用いた移動行動調査を実施しました(図1)。アンケート調査では、混雑を感じた時間を自由回答形式で、混雑を感じた場所を地図に示したエリアから選択する形式で、また、その時の混雑の状況を混雑度合いが異なるいくつかの写真の中から選択する形式で回答を集めました。移動行動調査は実験参加者に配付したビーコンによって行い、いつ・どこで・どの程度の混雑が発生したかを調べました。両データを比較した結果、混雑の時間・場所をある程度特定できた一方で、混雑度合いを表した写真を選択する質問では、実際の混雑の大きさとは関係なく写真を選んだことが分かりました。このように、各個人は自分の経験を比較し最も混んでいた時間と場所を認識できる一方で、混雑の度合いに関する認識は他の要因に大きく影響されることが明らかになりました。また、混雑を感じたと回答した時刻は、実際に混雑が検出された時刻よりも帰宅する時刻に近い傾向があることが分かりました。混雑に関しては新しい記憶の方が認識されやすいことを示唆しています。
本研究により、大規模なイベントにおける混雑に対する参加者の認識が定量的に確認されました。参加者がどのように混雑を認識し、記憶するのかを理解することは、認知科学や群集の安全や安心を調べる工学の研究の発展に寄与することが期待されます。さらに、本成果はイベントの運営や設計に役立ち、より良いイベント体験の提供につながると考えられます。特に、新しい混雑が認知されやすいという傾向は、イベント主催者は参加者の帰宅時刻により近い混雑に適切に対応する必要があるということを示唆しています。
今後、得られた知見を基にした具体的な施策が実施されることで、イベント管理の向上が図られるとともに、さらなる研究により、人々が集まるメリットを保ったまま、混雑による不利益を減少させる手法の考案に寄与することが期待されています。
図1. 本研究の概念図
ビーコンを用いて参加者が経験した混雑の度合いと時刻、場所を特定する。アンケート調査によって混雑の感じ方を調べ、ビーコン計測による実際の混雑と比較する。
特記事項
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
題 名:Quantifying crowding perception at large events using beacons and surveys
著者名:Sakurako Tanida*, Hyerin Kim, Claudio Feliciani, Xiaolu Jia, Akira Takahashi, Tetsuya Aikoh, Katsuhiro Nishinari
DOI:10.1038/s41598-024-83065-4
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-024-83065-4
本研究は、JST科学技術振興機構の未来社会創造事業「世界一の安全・安心社会の実現」領域の「個人及びグループの属性に適応する群集制御(課題番号:JPMJMI20D1)」の支援により実施されました。
用語説明
- ビーコン
ここでは、Bluetoothの信号を発する機器のことを指す。会場内に約20メートルおきに受信機を設置することで、実験協力者が会場内のどこにいつ居たかが解析できる。さらに、受信機の周囲に同時刻に検知されたビーコン数を計測することで、混雑の度合いも推定できる。したがって、各実験協力者がいつ・どこで最大の混雑を経験したか解析が可能である。