ステビア含有天然甘味成分を合成する酵素の改良に成功

ステビア含有天然甘味成分を合成する酵素の改良に成功

希少甘味成分の蓄積向上に期待

2025-1-9工学系
工学研究科講師溝端栄一

研究成果のポイント

  • キク科のハーブ植物であるステビアは、甘味に優れた成分であるレバウジオシドDとレバウジオシドMを蓄積するが、それら甘味成分のステビア植物内での蓄積は限られている。
  • レバウジオシドDとレバウジオシドMの合成酵素であるUGT91D2の1つのアミノ酸を置換した改良型酵素を用いることで、これら成分の蓄積量を植物細胞(ベンサミアナタバコの葉)において約10倍まで増大させることに成功した。

概要

富山大学・和漢医薬学総合研究所の庄司翼教授らの研究グループは、理化学研究所、サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社、大阪大学大学院工学研究科との共同研究で、ステビア由来酵素UGT91D2の1つのアミノ酸を置換した改良型酵素を用いることで、優良甘味成分として注目されるレバウジオシドDとレバウジオシドMの蓄積を10倍程度まで増大させることに成功しました。

肥満や生活習慣病を予防するために、ショ糖やフルクトースなど高カロリー糖質の過剰摂取を控える必要があります。南米原産のハーブ植物であるステビアは、ノンカロリーの天然甘味成分であるレバウジオシドDとレバウジオシドMを蓄積します。これらステビア成分は甘味に優れていることから注目されています。しかし、ステビア植物内でのこれら優良成分の蓄積量は限られており、その主な原因はレバウジオシドDとレバウジオシドMの合成に関与する酵素UGT91D2の活性が低いことにあります。

本研究では、UGT91D2酵素の基質認識に関わる1つのアミノ酸を置換することで、UGT91D2酵素の活性を大幅に向上させることに成功しました。改良型酵素をベンサミアナタバコの葉において発現させることで、レバウジオシドDとレバウジオシドMの蓄積を従来の約10倍まで増大させることに成功しました。この成果は、希少甘味成分の効率的な生産に向けた大きな一歩といえます。

本研究成果は令和7年1月9日午後10時(日本時間)に米国化学会の学術誌Journal of Agricultural and Food Chemistry電子版に掲載されました。

研究の背景

ショ糖やフルクトースなどの高カロリー糖質の過剰摂取は、肥満や生活習慣病などの疾患の原因となることがあります。そのため、健康を維持するためにはこれら糖質の摂取を控えることが必要です。南米パラグアイ原産の多年生ハーブ植物であるステビア(キク科)は、ノンカロリーの天然甘味成分を合成・蓄積することで知られています。

ステビアに含まれる甘味成分の中でも、レバウジオシドDとレバウジオシドMは、優れた甘味を持つことから注目されています。しかし、これらの成分はステビア植物内での蓄積量が低いため、非常に貴重です。この低い蓄積量の主な原因は、レバウジオシドDとレバウジオシドMの合成に関与する配糖化酵素UGT91D2の活性が低いことにあります。

したがって、UGT91D2の酵素活性を改良することで、レバウジオシドDおよびレバウジオシドMの合成と蓄積を増大させることが重要です。

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研究の内容

イネ由来の配糖化酵素OsUGT91C1の立体構造を基に、ステビア由来酵素UGT91D2の構造を予測し、そのモデル構造に糖供与体と糖受容体の2つの基質をドッキングさせることで、これら基質を認識するアミノ酸残基を推定しました。この解析により、N末端から数えて155番目に位置するバリンが糖供与体基質の認識に特に関わる重要な残基と考えられました。このバリンをスレオニンに置換した改変型UGT91D2酵素を、パン酵母と植物細胞(ベンサミアナタバコの葉)において発現させ、加えて、前駆体化合物を投与すると、レバウジオシドD(図中のRebD)とレバウジオシドMの蓄積が、従来型酵素と比べて、酵母においては2~2.5倍程度に、ベンサミアナタバコの葉においては6~12倍程度に増大させることができました。一方、レバウジオシドJ(図中のRebJ)などの副産物の蓄積は顕著に抑制されました。

今後の展開

UGT91D2酵素をコードするステビア遺伝子に、本研究で明らかとなったアミノ酸置換(155位のバリンをスレオニンに置換)を持つ植物を選抜することで、レバウジオシドDとレバウジオシドMを高蓄積するステビア植物を得ることが期待されます。

特記事項

【論文情報】
論文名:Enhanced Production of Rebaudioside D and Rebaudioside M through V155T Substitution in the Glycosyltransferase UGT91D2 from Stevia rebaudiana. 著者:庄司翼1,2(責任著者)、田中良和3、中嶋優1、溝端栄一4、小牧真樹3、菅原聡子2、高屋潤一郎3、榊原圭子2、森田洋行1、斉藤和季2、平井正良3(責任著者)
1. 富山大学・和漢医薬学総合研究所
2. 理化学研究所・環境資源科学研究センター
3. サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
4. 大阪大学大学院工学研究科
掲載誌:米国化学会の学術誌 Journal of Agricultural and Food Chemistry (インパクトファクターは 5.7)
DOI: https://doi.org/10.1021/acs.jafc.4c09392
掲載日:2025年1月9日 午後10時(日本時間・オンライン公開)

用語説明

ステビア

学名はStevia rebaudiana。南米パラグアイ原産のキク科に属する多年生のハーブ植物。レバウジオシドDとレバウジオシドM(※2参照)を含むいくつかの天然甘味成分を合成・蓄積する。

レバウジオシドDとレバウジオシドM

ジテルペン化合物であるステビオールに、それぞれ5個および6個のグルコースが付加された成分。ショ糖の約250~300倍程度の甘みを示し、優良甘味成分として注目されている。ただし、ステビア植物におけるこれらの成分の蓄積量は非常に低いことが課題とされている。

UGT91D2

レバウジオシドDおよびレバウジオシドMの合成に関与する配糖化酵素。この酵素は、UDP-グルコースを糖供与体として利用し、糖転移反応を触媒する。本酵素の活性が低いことが、レバウジオシドDおよびレバウジオシドMの蓄積量が低い主な原因とされている。

ベンサミアナタバコ

学名はNicotiana benthamiana。ナス科タバコ属に属する植物で、実験植物として酵素活性を評価するために利用される。本研究では、改良型UGT91D2酵素をベンサミアナタバコの葉で発現させ、その結果として、レバウジオシドDおよびレバウジオシドMの蓄積に与える影響を評価している。